妊娠中は栄養バランスが大事って言うからサプリを飲もうと思うんですけど、飲んではいけないサプリってありますか?
妊娠中は赤ちゃんのためにサプリメントを摂取したいという方は多いです。
最もよく利用されているのは葉酸サプリだと思いますが、どうせなら他のビタミンも一緒に摂れるサプリを飲んでみようと思う人もいるはず。
しかし中には過剰な摂取が問題となるサプリもあります。
今回は妊娠中に飲んではいけないサプリについて解説します。
病院薬剤師です。医療や薬についての正しい情報を提供するように心がけています。
サプリメントとは
サプリメントはアメリカではダイエタリー・サプリメント(dietary supplement)と呼ばれ、ビタミン・ミネラル・アミノ酸などの補充や、生薬・酵素などの成分による薬効を目的としているものを指しますが、日本ではサプリメントという言葉に定義はありません。
上の図のようにサプリメントは健康食品に含まれますが、国が定めた安全性や有効性に関する基準を満たしたものではないんですね。(一番左のオレンジの部分)
こうした基準が甘い?せいか、日本では「健康食品」やサプリメントと呼ばれる食品が広く出回っていて、利用経験者は約8割を越えるともいわれています。
最近はコンビニエンスストアにも陳列されているのを見かけますし、カプセルや錠剤、粉末、顆粒、抽出エキスなど消費者が利用しやすいさまざまな形で売られていますので、妊娠中の女性も気軽に摂取される機会が多いことは容易に想像がつきますね。
水溶性ビタミンと脂溶性ビタミン
サプリメントのなかでも王道はなんと言ってもビタミンサプリ。
ビタミンは「微量で体内の代謝に重要な働きをしているにもかかわらず、自分でつくることができない化合物」と定義されています。
ビタミンは2つの種類、すなわち水に溶けやすい水溶性ビタミンと水に溶けにくい脂溶性ビタミンに分けられます。
一般的に水溶性ビタミンは、過剰に摂取しても尿から排泄されてしまうので問題になることはまれです。
しかし、脂溶性ビタミンは体に蓄積されやすいので過剰に摂取した場合に過剰症が問題になります。
脂溶性ビタミンはA、D、E、K の4種類です。
妊娠中のビタミン必要量
日本人の妊婦に必要なビタミン摂取量は日本人の食事摂取基準(2020 年版)を参考にできます。
概ね妊娠中にはビタミンの必要量は増加し、とりわけ葉酸は胎児の神経管閉鎖不全を予防する効果が期待されているため、食品からの摂取+αの摂取が推奨されます。
※神経管の形成は妊娠4~5週で、妊娠に気がつきにくい時期ですので葉酸は妊娠前から摂取しておくのが望ましいです。
ところが脂溶性ビタミンについては、(妊娠後期のビタミンAを除いては)追加摂取は必要ないということが分かります。
妊娠中に飲んではいけないサプリ
ビタミンA
妊娠中の過剰摂取に注意が必要なサプリは脂溶性ビタミンであるビタミンAです。
たしかに日本人の食事摂取基準(2020 年版)では妊娠後期のビタミンAの補充は必要とされていますが、高用量のビタミンAは催奇形成の懸念があるため危険です。
具体的な量としては10000IU(IU:国際単位)がボーダーライン。
これを超えなければ先天奇形発生率を増加させることはないとされているため、WHOは妊娠可能な女性がサプリメントによるビタミンA摂取をする場合、1日10000IUを超えないことと言っています。
ちなみにドラッグストアでも購入可能なチョコラAD(1錠4000IU)の添付文書には
妊娠3ヵ月以内の妊婦、妊娠していると思われる人又は妊娠を希望する人
チョコラAD 使用上の注意より
(妊娠3ヵ月前から妊娠3ヵ月までの間にビタミンAを1日10,000国際単位以上摂取した妊婦から生まれた児に先天異常の割合が上昇したとの報告があります。)
また医薬品としてのチョコラA錠(1錠10000IU)の添付文書には
〔 外国において、妊娠前 3 カ月から妊娠初期 3 カ月までにビタミンAを10,000IU/日以上摂取した女性から出生した児に、頭蓋神経堤などを中心とする奇形発現の増加が推定されたとする疫学調査結果がある。〕
チョコラA錠1万単位 添付文書より
なお、ビタミンAの補給を目的として本剤を用いる場合は食品などからの摂取量に注意し、本剤による投与は5,000IU/日未満に留めるなど必要な注意を行うこと。
と記載されています。
日本人の食事摂取基準(2020 年版)の妊娠後期のビタミンA必要量、推奨量はそれぞれ60μgRAE/日、80μgRAE/日と記載されていますが、これをIU(国際単位)に変換すると180~240IU/日です。
サプリ1錠に比べると大した量ではなさそうですね。
この量を妊娠後期の3か月で補給すればよいということですので、必ずしもサプリメントではなくても普段の食事に緑黄色野菜を多めに入れるくらいで事足りるでしょう。
ちなみに緑黄色野菜に含まれるβ-カロテンの過剰摂取による胎児奇形は知られていませんので、心配する必要はありません。
その他
ビタミンA以外に注意が必要なサプリとしては漢方薬です。生薬だからといって安心はできないんですよね。
以下の成分が含まれている漢方薬は妊娠中の積極的な使用は推奨されません。
- ダイオウ(子宮収縮作用、骨盤内臓器の充血作用で流早産の危険性)
- ボタンピ(流早産の危険性)
- ブシ(動悸、のぼせ、吐き気などの副作用)
- トウニン(流早産の危険性)
- ゴシツ(流早産の危険性)
- 硫酸ナトリウム・無水ボウショウ(子宮収縮作用)
またこうしたサプリを個人輸入したものの場合、表示と異なる成分が含まれる可能性があり、それによって健康被害を起こした報告もあります。
漢方以外のサプリであっても海外のインターネットサイトで購入したサプリにはこうしたリスクもあるということを知っておきましょう。
まとめ
妊娠中に飲んではいけないサプリについてまとめました。
体に良さそうだという理由で飲んでいるビタミンサプリにビタミンAが含まれている可能性はありませんか?
妊娠中のサプリには思わぬ危険が潜んでいるかも。摂取する際は担当医に相談のうえで服用するようにしましょうね。
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