赤ちゃんにおっぱいをあげたいけど何時間あければ授乳して良いのかな?
薬の影響は妊娠中だけでなく、出産後の授乳でも気になるところ。
母乳育児は良いということは分かっていても、いざ薬を飲むとなると授乳を止めたり、それをきっかけに母乳育児をやめてしまう女性も少なくありません。
妊娠と薬シリーズでもお伝えしてきましたが、実は医療従事者でも「本来授乳が問題ないと分かっている薬であっても中止するように伝えてしまう」場合があります。
それだけ妊婦・授乳婦と薬の関係については正しい知識が知られていないんです。
それでは授乳中に薬を飲んだら何時間あければよいのでしょうか?
結論から言うと、ほとんどの薬は授乳の時間をずらす必要はありません。
今回は授乳中に薬を飲んだら何時間あければよいのか?について解説します。
【この記事を書いた人】
病院薬剤師です。医療や薬についての正しい知識を提供するように心がけています。
母乳のメリット
母乳には人工乳に比べるとさまざまなメリットがあることが分かってきています。
そのメリットは赤ちゃんにも母親にも両方あります。
赤ちゃんへのメリットとしては
- 感染症リスク低下(下痢、下気道感染、中耳炎、菌血症、細菌性髄膜炎、ボツリヌス感染症、尿路感染症、壊死性腸炎など)
- 乳児突然死症候群、糖尿病、クローン病、潰瘍性大腸炎、アレルギー疾患、白血病、悪性リンパ腫の発症リスク低下
- 動脈硬化のリスク低下
- 成長・発達に好影響(知能指数にも好影響)
また授乳した母親にとってのメリットは
- 2型糖尿病、動脈硬化、閉経後の大腿骨頭部骨折の減少
- 卵巣がん、乳がんのリスク低下
などです。
母乳育児は海外(WHO、アメリカ小児学会)ではかなり強い推奨となっているのですが、日本ではそこまで強調されておらず少し遅れている感があります。
もちろん母乳の出が十分ではない場合もあると思いますが、基本的には母乳育児が赤ちゃんにとっても母親にとっても重要だということです。
授乳中に飲んだ薬は何時間あければいいのか
母親が飲んだ薬の多くは母乳中に移行します。
しかし飲んだ薬全部が母乳に移行するわけではありません。
薬が母乳に移行しやすいかどうかは、以下の3つの要素が複雑に絡み合っています。
- 薬の要素
- 母親側の要素
- 赤ちゃん側の要素
これらの要素を考慮したうえで実際に現在使われている薬を調べてみると、ほとんどの薬では母乳に移行する量が非常に少なく、赤ちゃんに影響を与える可能性は少ないと考えられています。
逆に母乳中への移行について心配しなくてはいけない薬は
- フェノバルビタール
- エトスクシミド
- プリミドン
- テオフィリン
- リチウム
- アミオダロン
- コカイン
- ヨード製剤(放射線医薬品)
などごく一部の薬に限られます。
(※これらの薬であっても授乳可能と判断される場合もあります。主治医もしくは専門の医療機関に相談しましょう)
薬を飲んで時間をあければ徐々に影響が少なくなっていくことは事実ですが、そもそも赤ちゃんへの影響が心配ないものがほとんどなので、何時間あければよいかという議論はあまり意味がないと考えられます。
ほとんどの薬は授乳するタイミングを気にする必要はないんです。
母乳育児の大切さも含め
- 薬を飲んでいるからといって必ずしも母乳育児をやめる必要はない
- 母乳育児のために今行なっている治療を必ずしも中断する必要はない
ことをぜひ知ってください。
授乳と薬について医療従事者が誤解しているわけ
冒頭にも述べましたが、医療従事者であっても授乳と薬について誤った理解をしている場合があります。
それは、われわれ医療従事者は薬の情報を添付文書から得るのですが、実は妊婦・授乳婦に関する情報に関しては添付文書自体が情報源として信頼性が低いという問題があるからです。
日本の添付文書では授乳中の薬の投与について
- 「治療上の有益性が危険性が上回ると判断される場合にのみ投与すること」
- 「投与しないことが望ましい」
- 「投与しないこと」
と記載されています。これは薬が母乳中に移行するということだけで危険だと判断されてきたためです。
しかし前述したように、授乳中の薬はさまざまな要素で赤ちゃんに影響するので、この判断は間違いです。実際、海外では授乳に使用しているのに日本では使用されていないという薬がたくさんあるんです。
というわけで、われわれ医療従事者も誤った認識を変えていかないといけないんですね。
授乳中の薬で困ったら
とはいえ、薬を飲んだほうが良いか、母乳をやめたほうが良いかについては自己判断が難しいこともありますよね。
悩まれたら「妊娠と薬情報センター」に相談することをおすすめします。
「妊娠と薬情報センター」は妊婦・授乳中の服薬に関する情報機関で、専門の医師と薬剤師が相談に乗ってくれます。各都道府県にも拠点病院がありますので悩まれたら相談してみてください。
※今回の記事も「妊娠と薬情報センター」の情報を参考に書きました。
まとめ
妊娠と薬シリーズに加えて、授乳と薬について解説しました。
ほとんどの薬は授乳のとき何時間あければよいのかを気にする必要はないということが分かったと思います。
母乳の重要さは分かっているものの、薬を理由に母乳育児をやめてしまう人の何と多いことか。
こんな現状を少しでも変えたいと思いこの記事を書きました。
不安がある方は紹介した妊娠と薬情報センターなど、専門家に相談してくださいね。
ぜひ正しい知識で母乳育児を実践して頂ければ幸いです。
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