炭酸リチウムの中毒症状ってどんな症状でしたっけ?
炭酸リチウムといえば気分障害に使われている歴史のある薬。
特に躁うつ病にはよく処方されます。
私の病院には精神科がないので目にする機会は少ないのですが、時々入院患者さんの持参薬で見かけることがあります。
さて、この炭酸リチウムですが気をつけないと中毒症状で痛い目に合う可能性があるお薬でもあります。
今回は私が経験した症例をもとに炭酸リチウムの注意すべき中毒症状について解説します。
【この記事を書いた人】
病院薬剤師です。医療やくすりに関する正しい情報を提供するように心がけています。
炭酸リチウムはなぜ危ない?
炭酸リチウムはなぜ危ないのでしょうか?
それはリチウムの治療域と中毒域が狭いためです。
普通の薬は少しくらい飲みすぎても体への影響がそれほどないのですが、
リチウムは効果を得るための量と中毒を起こす量が非常に近いので、ちょっとした量の加減で中毒域に達してしまうことがあるんです。
ですので、血液中のリチウムの濃度(血中濃度)をコントロールすることがすごーく重要です。
ちなみにリチウムの血中濃度の治療域は0.3~1.2mEq/L、中毒域は1.5mEq/L超です。
炭酸リチウムは薬の量が適切かどうかを採血で定期的に確認する必要があるのですが、その確認が十分に行われていなかったためにリチウム中毒に至った症例が過去に何例も発生しています。
こうした状況を重く見たPMDAは2012年9月に医薬品適正使用のお願いという文書で注意喚起を行っています。
PMDAからの医薬品適正使用のお願い「炭酸リチウム投与中の血中濃度測定遵守について」
これによると炭酸リチウムが処方された患者2309例のうち、1200例(52%)で血清リチウム濃度測定が一度も実施されていない可能性があったということが分かり、炭酸リチウムが危険な薬と認識されていない現状が示唆されました。
炭酸リチウムの中毒症状
炭酸リチウムの中毒症状は
- 大量に薬を服用することで起きる急性症状
- 長期間血中濃度が高い状態が続いていることで起きる慢性症状
の2パターンがあります。
慢性症状のほうがより危ないと言われています。
中毒症状の初期症状としては
消化器症状:食欲低下、嘔気、嘔吐、下痢
中枢神経症状:運動障害、運動失調等の運動機能症状振戦、傾眠、錯乱
全身症状:発熱、発汗
があります。
特にリチウムは小脳に影響しやすいので、炭酸リチウムを服用している患者さんに
ふらつく
立っていられない
バランスが悪い
手足の動きがぎこちない
といった症状があった場合には中毒症状を疑うといった視点が必要です。
では、どれくらいの量を飲むと中毒症状になってしまうのでしょうか?
既報によるとリチウム中毒であった患者さん10名のうち9名が40㎎/kg以上の炭酸リチウムの服薬量であったそうです。
ですので例えば体重50kgだと、炭酸リチウム錠200mg10錠で危険なレベルに達する可能性があります。
また炭酸リチウムで悪性症候群を発症した報告もあります。
悪性症候群って何だっけ?という方はこちらをどうぞ。
私が経験した症例
少ないですが私も過去にこんな症例を経験しました。
炭酸リチウムあんまりお目にかからないけど気をつけないとヤバい薬。
— 管理人 (@管理人901619361) March 7, 2021
前にリーマスと炭酸リチウムが同じ薬ってことがわからなくて倍量飲んでた患者さんいたな… https://t.co/pt1nlpCACg
もともと薬の管理は患者さん自身(女性)がされていたのですが、とある病気をきっかけに旦那さんが薬のセットをするようになりました。
リーマス®は先発品、炭酸リチウム錠は後発品なのですが自宅にはどちらも混ざった状態で置いてあったらしく、2-3日の間、旦那さんはそれに気づかず両方の薬を飲ませてしまっていたようなのです。
実際会ってみると患者さんは傾眠傾向が強く、ご家族もいつもと明らかに様子が違うことに戸惑っている様子でした。入院前には嘔吐もあったとのことでした。
主治医には炭酸リチウムを過量に服用していた可能性とリチウム中毒による傾眠の可能性を伝えました。
リチウムの血中濃度を測ってみると治療域上限の2倍(3mEq/L)を超えていたという、、、 (汗)
幸い大事には至りませんでしたが、リチウムの怖さを体感した症例でした。
リチウム中毒を起こさないために注意すること
リチウム中毒を回避するためには以下の場合に特に注意が必要です。
①高齢者
②リチウムの血中濃度が上がりやすい病態:糖尿病(糖尿病性腎症)、脱水状態、肝硬変
③リチウムの血中濃度を上げる薬:利尿薬(チアジド系、ループ系)、RAS阻害薬、NSAIDs
リチウムは腎臓で排泄されるので、腎臓の機能に依存して血中濃度が変わります。
高齢者は若い人に比べると腎臓の機能が落ちているので、リチウムが体にたまりやすくなります。
ですので、高齢者に炭酸リチウムを使用する際は少しずつ量を増やしていきながら最適な量を決めていきます。
また、糖尿病の方は腎臓の機能が低下していることが多く、リチウムがたまりやすいです。
脱水状態では体がNaをため込もうとするのと同時にリチウムもため込まれます。
肝硬変でも同様のことが起こると言われています。
薬剤ではチアジド系、ループ利尿薬、RAS阻害薬(ACE阻害薬、ARB)はリチウムをため込もうとする方向に働きますし、NSAIDsは腎臓の血流量を下げることでリチウムが排泄されにくくなります。
要はどんな場合にリチウム中毒症状を起こすのか?を想起できることが大事ということです。
逆にアセタゾラミド、マンニットールなどの利尿薬やカフェインはリチウムの濃度を低下させることも知られています。
カフェインを常用していた人が急に中止するとリチウムの血中濃度が上昇して中毒域に達する可能性もあるということを、私は今回初めて知りました (^^;)
まとめ
炭酸リチウムの中毒症状と注意すべき点についてまとめました。
炭酸リチウムは双極性障害には欠かせない治療薬ですが、ふだん使い慣れていない医師が処方する場合は、薬剤師が必ず血中濃度を定期的に測定されているかを確認する必要があるでしょう。
患者さん側のちょっとした体調の変化でも中毒が起こる可能性がありますので、注意すべき中毒症状については患者さんによく説明できるようにしておきたいですね。
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