モルヒネ投与中に痒みが出た患者さんに出会ったことはありますか?
「痒みがあったって抗アレルギー薬飲めば良くなるっしょ!」
そんな風に思っていませんか?
結論からいうとモルヒネを含むオピオイドによる痒みに対して使うのは抗アレルギー薬(抗ヒスタミン薬)ではありません。
今回はオピオイドによる痒みとその対処法について解説します。
【この記事を書いた人】
病院薬剤師です。医療やくすりに関する正しい情報を提供するように心がけています。
痒み(掻痒)とは?
単に痒みといっても実は4種類もあることを知っていましたか?
すなわち
- 1.末梢性
- 2.中枢性
- 3.神経障害性
- 4.心因性
の4種類。
末梢性掻痒は局所(皮膚)でヒスタミンなどの化学受容体物質の刺激で起こります。
ですので一般的な抗アレルギー薬(抗ヒスタミン薬)は比較的効きやすいです。
中枢性掻痒は慢性腎不全や慢性肝障害、硬膜外腔や脊髄くも膜下腔にオピオイドを投与したときに感じる痒みです。
中枢性の痒みっていまいちよくピンと来ないですが、、
要は皮膚ではなく、脳で痒みを感じている状態
また神経障害性掻痒は帯状疱疹後神経痛などの神経障害によって、心因性掻痒はうつ病やストレスによって生じると言われています。
痒みにもいろんな機序があるということですね。
オピオイドで痒みが出るのはなぜ?
それではなぜオピオイドで痒みが出るのか?
先ほどの分類からすると、モルヒネ(オピオイド)による痒みは中枢性掻痒に分類されます。
もう少し掘り下げてみましょう。
オピオイド受容体をご存知でしょうか?
オピオイド受容体にはμ(ミュー)、κ(カッパ)、δ(デルタ)の3種類があります。
μ受容体は鎮痛、鎮静、呼吸抑制、腸管運動抑制に関与しています。
モルヒネはμ受容体に作用するので鎮痛はもちろん、呼吸抑制や便秘といった副作用が出るというわけですね。
そして実はμ受容体にはもう一つの作用があります。
それが痒みの誘発です。
オピオイドで痒みが出るのはμ受容体に痒みを誘発する作用があるからなんです。
ちなみにオピオイドによる痒みの発生頻度は2~10%であると言われています。(日本緩和医療学会 Evidence-Based Medicineに則ったがん疼痛治療ガイドラインより)
これって意外に多くありませんか?
私の経験ではそんなに頻繁に遭遇する副作用ではなかったので意外でした。
モルヒネの3大副作用(便秘、眠気、吐き気)はよく患者さんに確認していましたが、痒みまでは・・
オピオイド開始後に痒みがあるかどうかはこちらから患者さんに積極的に聞き出すようにしないといけないのかもしれませんね。
オピオイドの痒みに対して抗ヒスタミン薬は効くのか?
そもそもオピオイドの痒みに対して抗ヒスタミン薬は効果があるのでしょうか?
実は中枢性の痒みには抗ヒスタミン薬が効きにくいことが知られていて、オピオイド由来の痒みには効果が期待できない可能性があります。
実際にオピオイド投与中の患者さんに抗ヒスタミン薬を投与したにもかかわらず、効果が不十分であった例が報告されています。(日病薬誌 Vol.52,No.4,2016:396-400)
オピオイドの痒みに対する対処法
では何を使えばいいのでしょうか?
ポイントは別のオピオイド受容体であるκ受容体です。
μ受容体が痒み誘発に作用するのに対してκ受容体は痒みに対して抑制系に働きます。
κ受容体を刺激すれば中枢性の痒みが軽減されるというわけです。
この性質を生かして創薬されたのが東レが発売したレミッチ®(ナルフラフィン塩酸塩)という薬。
2009年に中枢性の痒みがメインと考えられている透析患者さんに、2015年に慢性肝疾患患者さんへの適応が通っています。
残念ながら今のところ、オピオイド誘発性の痒みに対して適応はないのですが、理論上はナルフラフィンはκ受容体に対して作用し、モルヒネによる中枢性の痒みを軽減すると考えられます。
オピオイド投与中の痒みの訴えが強い方には(適応症との相談はあるにせよ)、通常の皮膚病変に対する処置(保湿剤、抗ヒスタミン薬、炎症所見があればステロイド外用剤)を試してみても効果がないのであれば、ナルフラフィンの使用を検討する価値はあるのではないでしょうか。
まとめ
オピオイドによる痒みの機序と対策についてまとめました。
ナルフラフィンは当初鎮痛薬として開発されたものの、鎮痛薬としてはパッとしなかったため、搔痒治療薬に方向転換した薬だそうです。
新たな領域で大成功でしたね(^.^)
個人的にオピオイドによる痒みはあまり遭遇したことのない副作用だったので今回まとめてみて勉強になりました。
これからはオピオイドを服用している患者さんの中には痒みで苦痛を感じている方がいるかもしれない、と思いを巡らせて服薬指導したいと思います。
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