コロナワクチンでにわかに注目を浴びているアナフィラキシー。
コロナワクチンに限らずアナフィラキシーはいつ遭遇するか分からないもの。
医療者なら「アナフィラキシーになったらアドレナリン!」は常識ですが、アナフィラキシーになぜアドレナリンなのかはご存知ですか?
アドレナリンの正しい使い方は知っていますか?
今回はアナフィラキシーにアドレナリンを使う理由について解説します。
【この記事を書いた人】
病院薬剤師です。医療やくすりに関する正しい情報を提供するように心がけています。
アナフィラキシーとは?
アナフィラキシーとは、「アレルゲン等の侵入により、複数臓器に全身性にアレルギー症状が惹起され、生命に危機を与え得る過敏反応」
と定義されています。※WAO(世界アレルギー機構)のアナフィラキシーガイドラインより
また、アナフィラキシーショックとは、「アナフィラキシーに血圧低下や意識障害を伴う場合」
と定義されています。
体内に異物が入ることによって、体が防御反応を示しているという危険な兆候なのです。
アナフィラキシーの原因は?
アレルゲンとはアレルギーの原因になる物質のことでアナフィラキシーを起こす物質としては食品、医薬品、ハチ毒が有名です。
中でも発生頻度としては食品がダントツで、日本では卵、牛乳、小麦、ソバ、ピーナッツが多いです。
その他、カニやエビなどの甲殻類、果物も原因になることがあります。
一方、死亡に至る事例はどうかというと、日本ではアナフィラキシーショックで毎年50~80人程度の死亡が報告されています。
中でも多いのは「医薬品」と「ハチ刺傷」です。
医薬品とハチ刺傷、両方合わせて80%近くにもなるんですよ~。
医薬品についてはさまざまな種類が原因となり得ます。
代表的なものは
- 抗菌薬
- 解熱鎮痛薬
- 抗腫瘍薬
- 局所麻酔薬
- 筋弛緩薬
- 造影剤
- 生物学的製剤
- アレルゲン免疫療法
- 輸血
などなど。
普段飲んでいる薬がアナフィラキシーの原因になり得ることもあるということです。
アナフィラキシーの症状は?
アナフィラキシーではどのような症状が出るのでしょうか?
アレルゲンに暴露され、数分~数時間以内に以下のような症状が出るときにアナフィラキシーを疑います。
①皮膚・粘膜症状+呼吸器症状 or 循環器症状を伴う場合
②皮膚・粘膜症状、呼吸器症状、循環器症状、持続する消化器症状の2つ以上を伴う場合
③急速(数分~数時間以内)に血圧低下を伴う場合
皮膚症状に限らず、全身にさまざまな症状が出る可能性があります。
症状が部分的あるいは軽度の場合は様子をみますが、そうでない場合は直ちにアドレナリンの出番です。
アナフィラキシーの治療薬はアドレナリンのみ
アナフィラキシーを疑った場合には直ちにアドレナリンを準備します。
アドレナリンはアナフィラキシーに対する唯一の治療薬だからです。
第二選択薬として抗ヒスタミン薬(H1ブロッカー、H2ブロッカー)やβ2アドレナリン受容体刺激薬、ステロイドなどもありますが、残念ながらこれらの薬には救命効果はなし…。
あくまでも症状を緩和する目的でしかありません。
ここで注意したいことはアドレナリンの使い方。
けっこう間違えて覚えている人が多いですが、、、
アナフィラキシーではアドレナリン0.3mg、筋注です。
アドレナリン製剤はいくつか種類があります。
ボスミン®注、アドレナリン注0.1%シリンジ®、エピペン®です。
ボスミン、アドレナリンシリンジはショックや心停止の際の蘇生用で、アナフィラキシー時の用法用量になっていないのでそのまま全量は使えません。
エピペンは自己注射型製剤でそのまま使用できるのですが、あくまでもすぐに医療行為が行えない場合に使用する薬剤です。
ボスミン、アドレナリンシリンジは1本が1mgなので0.3mgだけ残して使わないといけないという面倒くささがあります。
ちなみに値段でいうとアドレナリンシリンジは1本¥151に対してエピペン®は1本約¥10500で高額。
しかも使用期限は約1年。
それぞれの製剤に一長一短がありますね。
どれがベストなのかは施設の考えによると思います。
コロナワクチン接種に当たっては、国から各会場にエピペン®を常備するようにとのお達しが出ています。
とはいえ、病院内で実施する場合はアドレナリンシリンジを0.3mg残したものをあらかじめ用意しておけば事足りるような気もします・・。
よくよく考えてみると、アナフィラキシー用に使えるアドレナリン筋注用シリンジ製剤というものが存在しないというのも問題なのかもしれませんね。
アナフィラキシーになぜアドレナリンが効くのか?
アナフィラキシーは体内に異物が入ることに対して体が過剰に防御反応を示している状態と言えます。
防御反応が過剰になることで、血管が広がって血圧が下がったり、血管内から血液が外に漏れ出したりして正常に血液を送れない状態となってしまうのです。
アドレナリンはこのような状態に対して
- 心臓の働きを強め末梢の血管を縮めることで血圧を上昇させる作用
- 気管支を拡張する作用
- 粘膜の浮腫を改善する作用
- アナフィラキシー症状を引き起こす体内からの化学物質の放出を抑制する作用
で、体を正常な状態へと戻す効果を示します。
アナフィラキシーの原因物質が何にしろ、疑った段階で早めにアドレナリンを使用できなければどんどん症状は進行してしまうので一刻も早く打つのが大事です。
アドレナリンを打つ場所は大腿部外側。
アドレナリンは0.3mg、筋注、大腿部外側と覚えましょう!
第二選択薬とされる抗ヒスタミン薬(H1ブロッカー、H2ブロッカー)やβ2アドレナリン受容体刺激薬、ステロイドなどは救命効果はないものの一部の症状緩和を目的に使用されることがあります。
抗ヒスタミン薬は皮膚のかゆみや蕁麻疹、目や鼻の症状を軽減する目的で、
ステロイドは遅延性のアナフィラキシーの予防としての意味合いで、
β2アドレナリン受容体刺激薬は喘鳴、咳嗽、息切れなどの下気道症状を緩和する目的で使用します。
ただしステロイドに関しては遅延性のアナフィラキシー予防になるかどうか微妙な位置づけではあります・・。
コロナワクチンとアナフィラキシー
日本国内でファイザー社のコロナワクチン(コミナティ筋注)投与後のアナフィラキシーが報告され始めています。
ニュースで大々的に報道されると心配になってしまいますが、アナフィラキシーが起こってもアドレナリンで適切に対処すれば問題ありません。
世界では3億回近くワクチンが投与されていますが、アナフィラキシーによる死亡は確認されていませんので。
日本でアナフィラキシーが多いのでは?という懸念がありますが、これは海外の基準と日本の基準が異なることが原因で、日本の基準だと可能性のある人を拾いやすくなってしまうという傾向があるからです。
真のアナフィラキシーかどうかは厚生労働省で適切に審査された後に報告されるはずですので、冷静に見守りましょう。
まとめ
アナフィラキシーの際にアドレナリンを使用しなくてはならないのはアドレナリンが最も有効で、他に替わる薬がないからということが分かりました。
疑ったら躊躇せずアドレナリンを使用できるようになりたいですね。
最後にこれだけは覚えておきましょう。
アナフィラキシーにはアドレナリン!0.3mg!筋注!大腿部外側!
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