パキロビッド®パック処方しようと思うのですが併用薬チェックしてもらえますか?
併用禁忌と併用注意のリストに載ってないし大丈夫かな‥?
パキロビッド®パック処方にあたり一番問題となるのが薬物間の相互作用
かなり数が多いので、薬剤師はダブルチェックの意味で相互作用の確認をしっかり行う必要があるのは言うまでもありません。
最低限リストに挙げられた薬剤の確認は必須として、それ以外の薬剤の影響はどうなのか知りたい
そんな時に役立つのがPISCSの概念です。
PISCSを使ってパキロビッド®の相互作用を検証してみます。
PISCSとは?
PISCSとは「Pharmacokinetic Interaction Significance Classification System」の略で、代謝酵素を介した薬物相互作用を定量的に評価する方法です。
基質薬の阻害の受けやすさである代謝寄与率(CR)と阻害薬の阻害の強さである阻害率(IR)の2つのパラメータから、併用時の基質薬の血中濃度AUCの上昇を予測するというものです。
過去にこんな記事も書いています。
こちらの書籍を読むと、添付文書やインタビューフォームに載っている併用注意、併用禁忌には案外根拠がないんだな、ということがよく分かります。
PISCSを使ったパキロビッド®の相互作用予測
PISCSでは上記の式のとおり、IRとCRが分かればAUCの上昇度が分かります。
それでは添付文書や適正使用ガイドで網羅しきれない薬物相互作用をPISCSを使って予測してみましょう。
【注意】リトナビルのIRは0.9以上とありますが計算上は0.9としています。
(パキロビッドの薬物相互作用マネジメントの手引き第1版より)
パキロビッド®とブロチゾラム
ブロチゾラムの経口クリアランスに対するCYP3A4の寄与率CRは0.85
上記の式に当てはめると
コントロールに対するブロチゾラムのAUC上昇=4.25
となります。
同じベンゾジアゼピン系のジアゼパム、エスタゾラム、トリアゾラム、ミダゾラム等は血中濃度が大幅に上昇し、過度の鎮静や呼吸抑制が起こるおそれがあるので併用禁忌に設定されていますが、ブロチゾラムも十分注意が必要ということになるのではないでしょうか。
パキロビッド®とニフェジピン
ニフェジピンの経口クリアランスに対するCYP3A4の寄与率CRは0.78
上記の式に当てはめると
コントロールに対するニフェジピンのAUC上昇=3.25
となります。
降圧剤に関してはアゼルニジピン(カルブロック錠®、レザルタス配合錠®)が併用禁忌に該当していますね。
これはアゼルニジピンがイトラコナゾールとの併用でAUCが2.8倍になるというデータがもとになっているのですが‥
ニフェジピンはそれ以上の血中濃度上昇の可能性があるわけなので、ニフェジピンだから安全というわけではないことに注意が必要だと思います。
パキロビッド®とトルバプタン
トルバプタンの経口クリアランスに対するCYP3A4の寄与率CRは0.81
上記の式に当てはめると
コントロールに対するトルバプタンのAUC上昇=3.69
となります。
トルバプタンは肝硬変における体液貯留,心不全における体液貯留,および ADPKD の進行抑制に対し保険適応となっている薬剤ですが、用量設定がそれぞれ異なります。
外来では特に緻密な用量設定が行われているはずです。
トルバプタンの血中濃度が3〜4倍上昇することで急激な水利尿が起こると、脱水症状や高ナトリウム血症、最終的に意識障害に至る可能性も‥。
パキロビッド®の添付文書には記載されていませんが、十分併用を避けるべき薬剤として挙げてよい薬ではないでしょうか。
パキロビッド®とニロチニブ
ニロチニブは慢性骨髄性白血病に対するチロシンキナーゼ阻害薬です。
用量設定が重要なのは言うまでもなし。
ニロチニブの経口クリアランスに対するCYP3A4の寄与率CRは0.67
上記の式に当てはめると
コントロールに対するニロチニブのAUC上昇=2.51
となります。
併用OKですとは言い難い‥
ニロチニブに限らず経口分子標的治療薬はCYP3A4の基質である場合が多いので、これらの薬剤を服用している場合には、血中濃度の上昇による副作用発現が許容できるかどうか見極める必要があります。
日本医療薬学会監修の手引き
この記事を作成した直後に、本家本元の日本医療薬学会からパキロビッド(ニルマトレルビル/リトナビル)の薬物相互作用マネジメントの手引き第1版が公開されました。
すべての薬物ではないにしろ、添付文書やEUA fact sheet、Liverpool COVID-19 Drug Interactions website以上に数多くの薬物が記載されていますので、現時点ではまずこちらのリストを確認されることをおすすめします。
まとめ
PISCSを使ってパキロビッド®の相互作用について調べてみました。
他にも無視できない影響がある薬剤はたくさんあるはず。
何となく思ったのは、パキロビッド®の添付文書には載っていなくても、併用薬がアゾール系抗真菌薬で併用注意になっている場合にはリトナビルも同様の影響を受けるとして対応して良いのでは?ということ。
添付文書だけに頼るのではなく、一歩進んだ薬物相互作用チェックが実践できるようにしておきましょう。
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