潰瘍性大腸炎をご存知でしょうか?
安倍晋三元総理大臣はじめ若槻千夏さん、高橋メアリージュンさんも罹患したことで知られる病気です。
潰瘍性大腸炎の治療にはさまざまな薬を使いますが、ある程度の段階になると強力に炎症を抑えるステロイドを使用することがあります。
それではステロイドが効かないときにはどんな治療があるのでしょうか?
今回は潰瘍性大腸炎にステロイドが効かないときの治療法について解説します。
【この記事を書いた人】
病院薬剤師です。医療やくすりに関する正しい情報を提供するように心がけています。
潰瘍性大腸炎とは
潰瘍性大腸炎は大腸の粘膜(最も内側の層)にびらんや潰瘍ができる大腸の炎症性疾患です。
引用:難病情報センター
症状の特徴としては、最初は便に血が混じったり、混じらなかったりする下痢と腹痛が頻繁に起こります。
重症になると発熱、体重減少、貧血などの全身の症状が出たり、皮膚の症状、関節や眼の症状が出現することもあります。
これは自己免疫異常の結果であるとも考えられています。
若い人に多く男性では20~24歳、女性では25~29歳にピークがありますが、高齢の方でも発症します。男女差はありません。
日本では16万人以上の患者さんがいると言われています。(平成25年度末時点)
人口あたりにすると10万人あたり100人くらいの頻度です。
ちなみにアメリカではこの2倍以上の罹患率だそうです。食生活の欧米化、ストレス、清潔すぎる環境などの関与が考えられていますが、はっきりした原因は分かっていません。
「難病法」における指定難病に該当する疾患なので、重症度に応じて医療費助成の対象となります。
潰瘍性大腸炎の薬物治療
潰瘍性大腸炎の治療は、重症度・炎症の広がっている範囲・患者さんのQOL(生活の質)の状態などを考慮して行われます。
薬での治療がメインになりますが、外科的に手術が必要となる場合もあります。
薬の花形は5-ASA製剤(よく5アサ製剤と呼ばれます)。
ペンタサ®(錠、坐剤、注腸)
サラゾピリン®(錠、坐剤)
アサコール®(錠)
リアルダ®(錠)
といった内服薬や坐薬、注腸剤があります。
注腸剤とはいわゆる浣腸のことで、肛門から薬を注入することで腸管の中の局所の炎症を抑えることを目的に使います。
これらを使っても効果が乏しい場合や炎症が強い中等症の場合にステロイドの全身投与が選択肢として登場します。
ステロイドは炎症を抑える効果に優れている薬ではありますが、長期で使用すると副作用や合併症の面で好ましくない薬でもあるので、ステロイドの全身投与は安易にはしないようにというのが指針でも記載されています。
1~2週間で効果を判定し、効果がない場合は次のステップに進みます。
ステロイドが効かないときは?
ステロイドが効かないとき、いわゆるステロイド抵抗性の場合はどういった治療があるのでしょうか?
潰瘍性大腸炎の治療は多彩で、次に進むステップとしては以下の3つがあります。
血球成分除去療法
免疫抑制剤
生物学的製剤
具体的にみていきます。
血球成分除去療法
血球成分除去療法はいわゆる血液を浄化する透析のようなものです。
血液中の顆粒球・単球を除去する顆粒球除去療法(GMA)や顆粒球・単球・リンパ球を除去する白血球除去療法(LCAP)と呼ばれます。
炎症の原因となっている物質を取り除くことで症状を抑えようということですね。
週1回の治療を10回ないし、11回繰り返すのが保険適応になっています。
シクロスポリン持続静注療法
免疫抑制剤であるシクロスポリンという注射剤を24時間かけて点滴する治療です。
よく臓器移植の際に拒絶反応を抑える目的で使われたりもします。
ステロイドの効かない潰瘍性大腸炎に対して有効性が示されています。
副作用として感染症にかかりやすくなったり、腎不全が出現したりするリスクがあるので、副作用を最小限にする目的+効果を最大限に得る目的で血中濃度をこまめに測定する必要があります。
厳密な管理が必要ということで、治療は経験のある専門施設で行われます。
タクロリムス経口投与
タクロリムスもシクロスポリンと同じ系統の免疫抑制剤です。
飲み薬ですが同じように血中濃度をこまめに測定して効果と副作用のモニタリングをしなくてはいけません。
腎障害や手指が震えるなどの副作用が出ることがあります。
こちらも厳密な管理が必要なので、経験のある専門施設で行われる治療です。
生物学的製剤
近年、発展がめざましい生物学的製剤(バイオ製剤)による治療です。
従来の薬が化学的に合成して作られてきたのに対して、生物学的製剤は最先端のバイオテクノロジー技術で人間や動物などの生きた細胞が作り出すタンパク質を利用して作られています。
ざっと挙げると
インフリキシマブ点滴静注(レミケード®)2010年
アダリムマブ皮下注射(ヒュミラ®)2013年
ゴリムマブ皮下注射(シンポニー®)2017年
トファチニブ経口投与(ゼルヤンツ®)2018年
ベドリズマブ点滴静注(エンタイビオ®)2018年
レミケード®はもともと関節リウマチに効果を示すということで発売になった薬ですが、潰瘍性大腸炎にも効果があるということが認められ、適応が追加になった薬です。
これを皮切りに上記のように治療の選択肢は一気に広がっています。
これらの薬が使えるようになったことで、ステロイドが効かない状況になったとしても、寛解(症状がコントロールできており、落ち着いている状態)を維持することができる可能性は十分あり得るわけです。
一方でネックは結核菌への感染、肺炎、肝機能障害などの副作用と、高額な薬価。
医療費については助成の対象になれば自己負担額が軽減されますので、治療費がどれくらいかかるかはあらかじめ主治医に確認しておきましょう。
その他
現時点では潰瘍性大腸炎の治療指針に記載はありませんが、青黛(せいたい)と呼ばれる漢方薬の有効性についていくつかランダム化比較試験の結果が出ています。
青黛はもともと広島漢方として広島県のスカイクリニックが治療として使用し、注目を浴びていたものです。
詳しくはこちらの記事をどうぞ。
開発中の潰瘍性大腸炎に対する新薬は?
生物学的製剤の開発は今後もさらに増えると予想されています。
2021年3月時点で調査可能な範囲の新薬開発状況です。
開発後期の段階に入っている新薬が数多くあることが分かりますね。
メーカー | 開発品コード/一般名 | 開発状況 | 備考 |
EAファーマ | AJM300(カロテグラストメチル) | Phase Ⅲ | α4インテグリン阻害剤 経口剤 |
E6007(milategrast) | Phase Ⅱ | インテグリン活性化阻害剤 経口剤 | |
ヤンセンファーマ | CNTO1959(グセルクマブ) | Phase Ⅲ | ヒト型抗ヒトIL-23p19モノクローナル抗体 |
CNTO1275 (ウステキヌマブ) | Phase Ⅲ | ヒト型抗ヒトIL-12/23p40モノクローナル抗体 | |
ギリアド・サイエンシズ | filgotinib | Phase Ⅲ | JAK1阻害 |
イーライリリー | LY3074828 (mirikizumab) 静注製剤, 皮下注製剤 | 開発後期 | IL23ターゲットのモノクローナル抗体 |
アッヴィ | アダリムマブ(ヒュミラ®) | Phase Ⅲ | ヒト型抗ヒトTNF-αモノクローナル抗体 |
ウパダシチニブ(リンヴォック®) | Phase Ⅲ | JAK阻害剤 | |
リサンキズマブ(スキリージ®) | Phase Ⅲ | ヒト化抗ヒトIL-23p19モノクローナル抗体 |
まとめ
過去にはステロイドによる治療がメインであった時代もありましたが、現在はステロイドが効かない場合には早々に次の一手を考えるという治療指針になっています。
ステロイドが効かない場合であっても治療選択肢はまだたくさんあるということですね。
潰瘍性大腸炎の治療はここ数年で新たな薬が相次いで発売になっており、今後も目が離せない領域です。
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