広島漢方をご存知でしょうか?
広島漢方は潰瘍性大腸炎の患者さんの間ではけっこう有名な漢方薬です。
実は私、つい最近まで知りませんでした。
なので、この広島漢方が潰瘍性大腸炎に効くのか効かないのか、実際のところどうなの?という点についてまとめてみました。
【この記事を書いた人】
病院薬剤師です。医療やくすりに関する正しい情報を提供するように心がけています。
広島漢方とは?
広島漢方は広島県のスカイクリニックの天野国幹医師が開発した潰瘍性大腸炎の治療薬です。
主成分は青黛(せいたい)と呼ばれる漢方薬が70%、象牙、真珠、牛の胆石で、これらを粉砕したものを配合したカプセル剤を広島漢方と呼びます。
天野医師が独自に開発した薬ということなので、保険収載はされておらず、当然自費診療(全額個人負担)となります。
天野医師の報告によると、治療効果は有効率86%と高く、漢方薬であるというイメージもよいため、インターネット情報やや口コミで使用を希望する患者さんは多いようです。
スカイクリニックのホームページを見ると、飲むだけでなく、肛門から注入するといった局所の治療も紹介されていますので、様々な用法で使用されていることが伺えますね。
広島漢方の成分「青黛」
青黛(せいたい)は、リュウキュウアイ、ホソバタイセイ等の植物から得られる成分で、生薬、染料(藍)、健康食品などさまざまな用途で用いられています。
そもそも私はこの読み方が分からなかったです(笑)
青黛の藍色はインジゴ、インジルビンと呼ばれる化合物が持つ色から来ています。
ジーンズの色合いでもインジゴブルーと言いますよね。
青黛には漢方の世界で止血、創傷回復、消炎、解毒、皮膚再生、消腫、鎮痛、発疹消退、鎮咳、去痰、止痒、解熱などさまざまな作用があると言われてきました。
まさか潰瘍性大腸炎に有効だとは誰も思わなかったでしょうから、そういう意味では天野医師の先見の明は素晴らしいと言えるかもしれません。
広島漢方は効く?効かない?
有効性
前述のように天野医師の論文では有効率が86%と報告されています。
その他、青黛が有効であったというケースレポートも幾つか報告されていることが確認できますが、これだけでは少し根拠に乏しいので、エビデンスレベルの高い論文があるかをpubmedで調べてみました。
Gastroenterology. 2018 Mar;154(4):935-947.
Efficacy of Indigo Naturalis in a Multicenter Randomized Controlled Trial of Patients With Ulcerative Colitis
こちらの論文は日本国内の多施設共同研究で、86人の潰瘍性大腸炎患者に対する青黛の有効性と安全性を二重盲検法と呼ばれる方法で検証したものです。
論文の信頼性を示すエビデンスレベルとしては高いものと言えます。
結果としては、
この試験途中に個人購入で6か月間青黛を服用した患者で肺高血圧の発症が報告され、試験自体が中止となってしまった
青黛の用量依存的に有効性が上昇した(プラセボが13.6%に対し、青黛69.6%-81.0%)
8週間後の寛解率がプラセボ13.6%に対し38.1%-55%
青黛服用患者の10名で中等度の肝機能障害があったが、深刻な副作用はなかった
とあります。
続いてもう一つ。
PLoS One. 2020 Nov 5;15(11):e0241337.
Efficacy and safety of short-term therapy with indigo naturalis for ulcerative colitis: An investigator-initiated multicenter double-blind clinical trial
こちらの論文も日本国内の多施設共同研究で、46人の潰瘍性大腸炎患者に対する青黛の有効性と安全性を二重盲検法と呼ばれる方法で検証したものです。
2週間という短期間の効果を見ています。
結果としては、
プラセボではLichtiger indexが変化せず貧血も進行したが、青黛ではLichtiger indexが改善しアルブミン値も上昇した。
中等度の頭痛が青黛群で5人、プラセボ群で1人認めた
ということです。
ちなみにLichtiger index:潰瘍性大腸炎の重症度を点数で表したもの(高得点で症状悪化)
症例数がそれほど多くないですが、有効性を示すエビデンスレベルの高い報告の一つです。
広島漢方そのものの処方と一致したものが使用されているかどうかは分かりませんが、青黛の有効性を証明する論文がここ数年で挙がってきていることがわかりますね。
安全性
最も懸念されているのは青黛が肺高血圧症を引き起こす可能性があることです。
これは、インターネットなどで自己購入した青黛を長期に多量に服用した潰瘍性大腸炎患者さんに、青黛の服用と因果関係の否定できない肺動脈性肺高血圧症が発症する例が複数あることが判明したことに端を発しています。
それを受けて、厚生労働省は2016年12月27日に関係学会等に対して、潰瘍性大腸炎患者が自己判断で青黛を服用することないよう注意喚起を行っています。
その他、肝障害、アレルギー、頭痛、吐き気、腸重積などの副作用も報告されており、生薬だからといって決して安全な薬ではないということは知っておくべきでしょう。
まとめ
以上をまとめると、広島漢方そのものの有効性はエビデンスレベルの高い報告はありませんが、青黛の有効性については徐々にエビデンスレベルの高い報告が出始めています。
とはいえ、日本の症例のみで国際的には評価されていない治療法であること、大規模な症例数で評価した場合の安全性の懸念が払拭されていないことについては懸念が残り、個人的にはこれから情報収集されていくべき治療法の一つなのかなという印象を持ちました。
潰瘍性大腸炎は画期的な新薬が次々と発売され治療選択肢が広がっているため、必ずしも広島漢方にこだわる必要はないという意見や、広島漢方にも注目すべきだという意見もあります。
既存の薬、新薬との比較、ガイドラインでの位置づけに注目していきたいと思います。
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