在宅・介護の現場で認知症を患っている方の「眠れない」「寝ない」問題は切実ですよね。
どうして睡眠薬を飲んでもらっても効かないんだろう?
睡眠薬を飲ませたらかえって暴れたりして大変だったわ
実際に認知症の方に睡眠薬を使ってもうまくコントロールできないことは多いのですが、それには理由があります。
それは眠れない原因が他にあるからなんです。
今回は認知症に睡眠薬が効かない理由について記事にしました。
【この記事を書いた人】
病院薬剤師です。睡眠医学、高齢者の薬物療法について興味があります。
認知症患者さんが眠れない、寝ない理由
認知症の周辺症状の一つ
認知症には中核症状と周辺症状の2種類があります。
- 中核症状(脳の障害で起こる症状)
- 周辺症状(中核症状によって引き起こされる症状)
中核症状は認知症であれば誰にでも見られる症状で、記憶障害、見当識障害、失語、失認などがあります。
一方、周辺症状は人それぞれ個人差があり、本人の性格や環境、心理状態によって変わります。
代表的なものは以下のとおりです。
- 暴力・暴言・攻撃性
- 介護抵抗
- 不安・焦燥
- 抑うつ
- 妄想
- 幻覚
- 睡眠覚醒リズム障害
- 食行動異常
- 徘徊
つまり「眠れない」あるいは「寝ない」のは認知症そのものの周辺症状の可能性があるんです。
ここで認知症の周辺症状で眠れない患者さんに対する睡眠薬の効果はまだ限定的であることに注意が必要です。
特にベンゾジアゼピン系の睡眠薬を使うと、眠るどころかかえって暴れさせてしまうことがありますし(これをせん妄と呼びます。)、効果が強すぎると日中の午睡にもつながります。
ベンゾジアゼピン系睡眠薬のリスクについてはこちら
安易に睡眠薬というわけにはいかないんです。
それ以外の原因
認知症の方が眠れない、寝ないその他の理由としては
- 睡眠時無呼吸症候群
- レストレスレッグス症候群
- レム睡眠行動障害
- 睡眠時こむら返り
が背景にある場合があります。
睡眠時無呼吸症候群は認知症患者さんにかなりの高頻度で合併しているとも言われ、治療は睡眠薬ではなくCPAP(シーパップ:持続陽圧呼吸療法)という治療です。
レストレスレッグス症候群やレム睡眠行動障害はレビー小体型というタイプの認知症の場合に起こりやすいという特徴があり、通常の睡眠薬ではかえって症状を悪化させてしまう場合もあります。
認知症患者さんはご自身の症状をうまく説明できないことが多いので、これらが背景にあることを知らずに睡眠薬で眠らせようとしても、効果が得られないのは当たり前のことなんですね。。
眠れない原因を突き止めることが大事
ここまでで何が言いたいかというと、認知症であっても不眠の原因を突き止めなければ適切な治療はできないということです。
【関連記事】睡眠薬をやめる前に知っておいてほしいこと
とはいえ、認知症患者さんの原因を突き止めるのは通常の場合よりも難しいことは確かですので、原因を突き止めるための方法についてみていきたいと思います。
認知症患者さんの不眠の対処~できることから始めてみる~
1.睡眠日誌を記録する
簡単にできることとしてはまず睡眠日誌をつけて昼と夜の生活リズムのパターンを把握することです。
昼間に寝ている時間が多いと夜眠れないのは当たり前ですし、夜間に使った薬剤によって日中の午睡に影響が及んでいる可能性もあります。
もともと高齢者では必要な睡眠時間は若年者より短いので睡眠時間が本当に不足しているのかを確認する必要もあります。
睡眠日誌で夜間だけでなく日中の行動を把握すること、また普段の手足の動きなど気になることがあれば記録しておきましょう。医師に相談するときに有用な情報になります。
睡眠日誌はこちらでダウンロードできます。
2.日中の活動を高める
日中の活動量が少ないと不眠の原因になってしまいます。
できる範囲でデイケアなどを通じて散歩、レクリエーションで日中の活動を高めたり、聴覚や視覚に訴える刺激を取り入れて覚醒を促すべきでしょう。
3.日中は光を浴びる
認知症があっても日中に太陽の光を浴びることは体内時計の調整に役立つので重要です。室内の照明では体内時計の調整はあまり期待できません。
室内でカーテンを閉めっぱなしにしたり、日の光が浴びられない環境にいないかをチェックしましょう。
その他、温度・湿度などの環境調整も問題ないか確認してみましょう。
4.嗜好品に気を付ける
カフェイン、タバコ、アルコールの摂取はしていませんか?
これらは睡眠の質を悪くしますので、特に夕方以降の摂取は控えましょう。
5.合併している疾患の治療
痛み、痒み、頻尿などの身体面の問題が眠りを妨げている可能性があります。
この場合はこれらの根本的治療が必要です。
また、不眠を起こしやすい薬物(ステロイド、β遮断薬、α2刺激薬、Ca拮抗薬、抗ヒスタミン薬、ドパミン製剤、MAO-B阻害薬、ドパミンアゴニスト、抗コリン薬、気管支拡張薬、SSRIなど)で不眠が起こっている可能性も探る必要があるかもしれません。
また、アリセプト、レミニール、リバスタッチなどのコリンエステラーゼ阻害薬は朝に使用することで不眠を回避できると言われています。
該当する薬剤がないか薬剤師に確認してみましょう。
6.専門医に相談する
これらを試したうえで、ここからは医師に正確に診断をしてもらい、適切な治療をしてもらう必要があります。
主治医が専門医でない場合でも、まず1-2週間の睡眠日誌を見せて相談してみましょう。
何もないよりは適切なアドバイスが受けられるでしょう。
より専門的なアドバイスが必要な方は専門医を紹介してもらうこともできます。
専門医はこちらで検索できます 睡眠医療プラットフォーム
簡易診断もできますので一度のぞいてみてください。
まとめ
いかがだったでしょうか?
認知症の患者さんの不眠治療はかなり難しく、実際には不適切な薬を使われてポリファーマシー(多剤処方)になっている場合もそれなりにあると思われます。
当たりまえのことではあるのですが、原因を突き止めること以外適切な治療にはつながりません。
眠れない、寝ない=睡眠薬 にはならないことをご理解いただければ幸いです。
コメント