大日本住友製薬から2020年6月に発売されたラツーダ錠。
海外では実績がありましたが、日本ではなかなか承認が下りず苦難の歴史がある薬。
(それもそのはず。臨床試験の結果が微妙だったですから‥(-_-;))
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とはいえ、ラツーダは統合失調症と双極性障害のいずれにも適応があり、他の抗精神病薬とは一線を画すという点でユニークです。
では副作用の点ではどうなのか?
今回はラツーダと他の抗精神病薬の違いを比較した2つの論文から、ラツーダの副作用の特徴についてまとめてみたいと思います。
【この記事を書いた人】
病院薬剤師です。薬に関する正しい情報を伝えるように心がけています。
承認時にラツーダで懸念された副作用
まずは、ラツーダ承認時の医薬品リスク管理計画(RMP)で副作用をおさらいしてみましょう。
副作用が3つの項目にランク分けされています。
「重要な特定されたリスク」:治験や市販後に明らかになっている副作用
「重要な潜在的リスク」 :関連が疑わしいが、確認が不十分な副作用
「重要な不足情報」 :高齢者や小児など特定の集団に情報が不足している副作用
ラツーダは他の抗精神病薬と比較して目新しい副作用はないものの、
- 椎体外路症状(手先がふるえる、筋肉がかたくなって硬直する、よだれが出る、仮面のような無表情の顔つきになる、筋肉が固くなり戻しにくくなる、じっとしていられない、落ち着かなくなる)
- 悪性症候群
- 高血糖、糖尿病性ケトアシドーシス
は重要な特定されたリスクとして挙げられています。
ラツーダの副作用~代謝異常は?~
Lancet Psychiatry 2020; 7: 64–77 PMID: 31860457
こちらはラツーダを含めた抗精神病薬18種類の代謝異常について比較した論文です。
100個のランダム化比較試験の25,942人を対象に、大規模な統計解析を行っています。
代謝異常とは体重、BMI、コレステロール、血糖の異常のこと。
統合失調症の患者さんの1/3には代謝異常があると言われていますし、肥満や2型糖尿病、高コレステロール血症を有する割合は健康な人と比較して3-5倍高いとも言われています。
そのため薬による代謝異常の大小は、薬剤選択をする上で一つのポイントになります。
ではこの論文からラツーダの代謝異常のリスクについて見ていきます。
体重増加
体重増加のエビデンスがあると確認されたものは
- クロザピン
- ゾテピン
- オランザピン
- クエチアピン
- リスペリドン、パリペリドン
- ブレクスピプラゾール
クロザピンはハロペリドールと比較して最もリスクが高い。
ラツーダ(ルラシドン)には体重増加のエビデンスは確認されない。
BMI増加
BMI増加のエビデンスがあると確認されたものは、
- オランザピン
- クロザピン
- クエチアピン
- リスペリドン(パリペリドン)
- ルラシドン
オランザピンはハロペリドールと比較して最もリスクが高い。
ラツーダ(ルラシドン)はオランザピンほどではないが、BMI増加のリスクあり。
コレステロール増加
総コレステロール増加のエビデンスがあると確認されたものは
- クロザピン
- オランザピン
- クエチアピン
クロザピンはカリプラジン(国内未承認)と比較して最もリスクが高い。
ラツーダ(ルラシドン)にはLDLコレステロール、HDLコレステロール含め、コレステロール増加のエビデンスは確認されない。
トリグリセリド増加
トリグリセリド増加のエビデンスがあると確認されたものは、
- クロザピン
- ゾテピン
- オランザピン
- クエチアピン
クロザピンはブレクスピプラゾールと比較して最もリスクが高い。
ラツーダ(ルラシドン)にはトリグリセリド増加のエビデンスは確認されない。
血糖増加
血糖増加のエビデンスがあると確認されたものは、
- クロザピン
- ゾテピン
- オランザピン
クロザピンが最も高リスク。
ラツーダ(ルラシドン)は血糖増加より、むしろ血糖低下させるエビデンスが確認された。
論文①のまとめ
各薬剤と代謝異常のリスクをまとめたヒートマップです。
色が濃い(赤い)ほどリスクが高いということを示しています。
この論文では代謝異常のリスクについて以下のようにまとめています。
- クロザピン、オランザピンは代謝異常のリスクが高い
- アリピプラゾール、ブレプキシプラゾール、カリプラジン、ルラシドンは代謝異常のリスクが低く、代謝異常が懸念される人にはより安全に使用可能なオプションとなり得る
添付文書上、非定型抗精神病薬は糖尿病のある患者さんに対して注意して使用するように、と記載がありますが、ラツーダはオランザピンやクエチアピン、クロザピンほどのリスクは高くなさそうですね。
ラツーダの副作用~椎体外路症状は?~
European Child & Adolescent Psychiatry (2020) 29:1195–1205 PMID: 31758359
続いては、青年期の統合失調症におけるラツーダと他の非定型抗精神病薬を比較した論文。
13個のランダム化比較試験のシステマティックレビューです。
ちなみにこの論文の著者には大日本住友製薬の子会社であるサノビオン社の社員が含まれています。
ラツーダ(ルラシドン)の対照薬はアリピプラゾール、アセナピン、クロザピン、オランザピン、パリぺリドン徐放、クエチアピン、リスペリドン、ジプラシドンです。
椎体外路症状
ラツーダ(ルラシドン)と比較して、アセナピン、クエチアピン、リスペリドン、アリピプラゾール、ジプラシドンは椎体外路症状のリスクに差はない。
(プラセボはルラシドンよりリスクが低い)
アカシジア
ラツーダ(ルラシドン)と比較して、ジプラシドン、アリピプラゾール、パリペリドン徐放製剤、アセナピンはアカシジアのリスクに差はない。
(プラセボはルラシドンよりリスクが低い)
論文②のまとめ
この論文では椎体外路症状、アカシジアに関してはラツーダと他の抗精神病薬との間に差はないとしています。
他に体重増加についても見ていますが、論文①と同様にラツーダの体重増加は
- プラセボと同等
- オランザピン、クエチアピン、リスペリドン、アセナピン、パリぺリドン徐放製剤と比較して統計学的にリスクが有意に低い
と結論づけています。
ラツーダの副作用の特徴
以上の結果から、ラツーダによる副作用の特徴は
- 体重、コレステロール、トリグリセリド、血糖といった代謝異常の懸念はあまりない
- アカシジアを含む椎体外路症状は他の抗精神病薬同様にある
と言えそうです。
アカシジアの頻度はラツーダの用量依存的に増加することが審査報告書や別の論文でも報告があります。
統合失調症で最高用量80mgを服用する際や肝機能・腎機能に異常がある場合、グレープフルーツジュースと併用するような場合はラツーダの血中濃度が高まるのでアカシジアに注意が必要です。
※抗真菌薬や抗HIV薬、一部の抗菌薬(クラリスロマイシン)との併用は禁忌
ちなみにRMPで重要な潜在的リスクに挙げられているQT延長は、ラツーダ服用とは関連がなかったという論文もありますので、あまり懸念する必要はないと思われます。
まとめ
ラツーダの副作用の特徴についてまとめました。
日本では新薬扱いですが海外では10年以上実績があり、副作用の情報についてはほぼ集積されたと言って良いでしょう。ラツーダは有効性はさておき、肥満や糖尿病のリスクを避けたい患者さんには副作用が少ないという点でメリットはありそうですね。
精神医学について学びたい人は、youtubeでもお馴染みの筑波大学精神科の松崎朝樹先生の著書がおススメ。医師以外の職種が持っていても役に立つ書籍です。
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