このページの要点は以下のとおりです。
・アビガンはもともと抗インフルエンザ薬としては全くの実力不足だった結果お蔵入りとなった
・アビガンの催奇形性はかなり問題視されていた副作用
・アビガンの効果が期待されるのは作用の仕組みが新しいから
・アビガンがSARS-COV2に有効かどうかは、試験の背景(「どんな人に」「どんな効果があったのか」)まで見ないと情報に惑わされます
タイトルがチコちゃん風ですいません(笑)
治療薬アビガン、臨床研究で有効性示せず
(2020年5月20日 毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20200520/k00/00m/040/005000c
治療薬アビガン、有効性示せず 月内承認への「前のめり」指摘
(2020年5月20日 共同通信)
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200519-00000217-kyodonews-soci
アビガン「有効性判断には時期尚早 臨床研究継続」新型コロナ
(2020年5月20日 NHKニュース)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200519/k10012436781000.html
え?アビガンって効果ないの?
いえいえ、この記事の見出しだけみると誤解が生じてしまいそうですが、新型コロナにアビガンが効かないのではなく、
「効くかどうかはまだ分からない」
という段階です。アビガンの実力を深堀りしてみましょう。
抗インフルエンザ薬としての実力
有効性
アビガンはもともとインフルエンザ治療薬として開発された薬です。
その経緯を審査報告書で確認してみます。
細かいところは割愛しますが、以下のような判断で承認に至っていません。
通常の季節性インフルエンザウイルスに対する有効性は明らかにタミフルに劣っている
ことが記載されています。
ちなみに、試験デザインが途中で変更されていて話がややこしく、すごく読みにくかったです(-_-;)
結局、、PMDAにメッタ斬りにされていることは分かりました。
毒性
もう一つ、承認に至らなかった背景は毒性の問題です。
アビガンの医薬品リスク管理計画書(RMP)の重要な特定されたリスクとして催奇形性があります。
ヒトでの臨床試験では確認されていないようですが、動物実験の結果から
「妊娠する可能性のある婦人、妊婦への投与禁止」
「男性に投与する場合は避妊の徹底」
が規定されています。
実際、審査報告書ではかなりのページが毒性試験に関する議論に費やされていました。
ということで、効果が乏しいのに加えて毒性も強い、というのが承認に至らなかった経緯です。
インフルエンザウイルスに対しては全くの実力不足だったのでした。。(チャンチャン)
(補足)アビガンの催奇形性を説明する際は、RMP資材として用意されている患者さん用の説明書をダウンロードして使用できますのでご活用ください。
アビガンの作用機序
インフルエンザウイルスには全く効果がないことが分かったアビガンですが、
これまでの薬とは作用機序が異なるために、
もしかしたら新型インフルエンザに効くのではないか?(試験管内での実験レベル)ということで、備蓄されていました。
アビガンの作用機序は
- アビガンが細胞内酵素で代謝
↓
活性体を形成(ファビピラビルRTP)
↓
ウイルスのRNA ポリメラーゼを選択的に阻害
↓
ウイルスの増殖を抑制
です。
タミフル、リレンザ、イナビルはノイラミニダーゼ阻害薬、シンメトレルはM2阻害薬ですので従来の薬との効き方が違うことが分かります。
ちなみに最近発売のゾフルーザは「キャップ依存性エンドヌクレアーゼ活性阻害剤」と呼ばれ、ウイルスのmRNA 合成を阻害しますので、どちらかというとアビガンと近い作用機序です。
ですので、新しい作用が新型コロナウイルスに有効なのでは?と期待されているわけですね。
果たしてアビガンは起死回生となるのでしょうか?
新型コロナにアビガンが「効く」ということの意味
今回のニュースで報じられている試験は、藤田医科大学で行われている
「SARS-CoV2感染無症状・軽症患者におけるウイルス量低減効果の検討を目的としたファビピラビルの多施設非盲検ランダム化臨床試験」
のことではないかと思われます。
https://rctportal.niph.go.jp/detail/jr?trial_id=jRCTs041190120
この試験の主要評価項目は、
「6日目における鼻咽頭ぬぐい液におけるSARS-CoV2ウイルス消失率」です。
注意しなければならないのは、この試験で分かることはあくまでも
「アビガンがウイルス量を減らすかどうか」であって、
「症状改善までの時間が短縮するか」
「肺炎が改善するか」
「死亡率を下げるか」
ではない点です。
他には、富士フィルム富山化学株式会社が行っている臨床試験があります。
主要評価項目は、
「体温、SpO2、胸部画像所見の軽快及びSARS-COV-2が陰性化するまでの時間」
となっていますので、
試験によって見ている視点が違う、
ということを知っておくと良いと思います。
アビガンの新型コロナに対する実力
これについては今後の臨床試験の報告を見ないことには何も言えません。。
アビガンが
①どんな人に(無症状の人?軽症?重症?)効果があるのか
②どんな効果があるのか(ウイルス量の低下?症状軽減?解熱までの時間?肺炎の改善?死亡率軽減?)
③副作用(特に催奇形性のリスク)を上回るだけのメリットがあるのか
が証明できるか、がポイントではないでしょうか。
ふーん、、難しいですね
要は、一言で「アビガンが効く」と言っても、何を評価しているのかで見方は変わるんですよ~。
現時点では一喜一憂しないで、結果を待ちましょう。
(2020年7月12日追記)
2020年7月10日に藤田医科大学がとりまとめた臨床試験の最終結果が報告されました。
結果は以下のとおりで、アビガンを「1-5日目に服用する群」と「6日目から内服する群」との間の、ウイルス消失率には統計学的な有意差はないという結果でした。
ホームページからの引用です。詳細はリンク先からご覧ください。
事前に規定された主要評価項目である「6日目まで(遅延投与群が内服を開始するまで)の累積ウイルス消失率」は、通常投与群で66.7%、遅延投与群で56.1%、調整後ハザード比は1.42(95%信頼区間=0.76-2.62、P値=0.269)でした。
https://www.fujita-hu.ac.jp/news/j93sdv0000006eya.html
まとめ
いかがだったでしょうか。
アビガンは新型コロナに対する画期的治療薬として期待されていますが、それは単に新しい作用機序(仕組み)があるだけで、本当の実力はまだわかっていません。
悲しい歴史もありますので起死回生になったらドラマチックですけどね(笑)
もし、アビガンがSARS-COV2に有効だったとしても、催奇形性のリスクを100%管理していくことが出来なければ薬害問題につながってしまいます。
承認についてはぜひ慎重に判断していただきたいと思います。
・アビガンはもともと抗インフルエンザ薬としては全くの実力不足だった結果お蔵入りとなった
・アビガンの催奇形性はかなり問題視されていた副作用
・アビガンの効果が期待されるのは作用の仕組みが新しいから
・アビガンがSARS-COV2に有効かどうかは、試験の背景(「どんな人に」「どんな効果があったのか」)まで見ないと情報に惑わされます
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