twitter眺めていたらこんなツイートが。
徐脈とふらつきの紹介患者さん。
— ひろ@循環器内科 (@hirotanpiropiro) April 14, 2020
徐脈の原因となる処方なしと紹介状にあるが、話をよく聞くと眼科も通院中。
もしやと思い眼科処方を確認すると案の定β遮断薬点眼が。点眼変更し無事改善。
★重要★
✔︎今飲んでる薬は?と聞いても点眼薬は言わないことあり注意
✔︎点眼と言えどβ遮断薬を侮るなかれ
点眼薬で徐脈かー
ふだん持参薬をさんざん見ていますが、点眼薬の副作用ってあまり気にしてませんでした。
添付文書には書いてあるのにね・・
備忘録も兼ねて点眼薬の全身性副作用についてまとめてみました。
【この記事を書いた人】
病院薬剤師です。医療やくすりに関する正しい情報を提供するように心がけています。
点眼薬の成分は全身に移行する
点眼薬は有効成分の濃度が高くなっています。
たとえばアトロピンの注射液の濃度は0.05%(0.5mg/mL)であるのに対して、点眼薬の濃度は1%(10mg/mL)と20倍の濃さになっています。
これは点眼薬が涙液に覆われている角膜を通過して眼内に浸透する必要があるためです。
そのうえ、点眼された薬液の50-60%程度は鼻粘膜から全身に吸収されるので、わずか1滴でも副作用を起こす可能性があります。
点眼薬が原因で起こった全身性副作用の報告
今回調べた副作用報告のうち重要なものをいくつか紹介します。
マレイン酸チモロールによる気管支喘息
1つ目はこちら。
ベータ・ブロッカー (マレイン酸チモロール) の点眼により誘発されたと考えられる気管支喘息重積発作の一剖検例
ベータブロッカー点眼薬による喘息発作での死亡例を国内で初めて報告したレジェンド的報告。1990年の論文です。
喘息のコントロールがついていた74歳男性が緑内障でチモロール点眼薬開始したところ、8時間後から喘息発作が出現。死亡という不幸な転帰となってしまいました。
怖いですね・・
続いてこちら。
β遮断薬 (マレイン酸チモロール) の初回点眼で大発作の誘発された気管支喘息の1例
1つ目と同年代の1993年の報告です。
安定期にあるアトピー型喘息の65歳女性が、緑内障と診断。チモロール点眼薬開始10分後から呼吸困難感を自覚し、30分後には意識レベル低下となった症例です。
経過がものすごく早く強烈なインパクトがあります。
カルテオロール点眼液による徐脈性不整脈
チモロール点眼と同じ系統のカルテオロール点眼による徐脈性不整脈の報告を紹介します。
カルテオロール塩酸塩/ラタノプロスト配合点眼液の使用により洞性徐脈が誘発された1症例の薬剤因果関係調査
こちらは2018年の医療薬学会の要旨集で確認した報告です。
心房細動に対してアブレーション施行された70代男性患者に、カルテオロール点眼液開始後10日目にめまい、ふらつき症状が出現。14日目に大学病院受診したところ、20-30回/分の洞性徐脈だったことが判明。他の薬剤の関与の可能性は低く、カルテオロール点眼液の可能性が最も高かった、というもの。
医療薬学会では他にも同様の副作用報告が確認できます。
最後に薬物相互作用に関連した教訓的報告。
この症例の概要は以下のとおりです。
高血圧でARB、CKD、緑内障の既往のある84歳女性が、有症状の発作性心房細動で近医を受診。ベラパミルが処方され、ベラパミル内服数日後に失神で救急搬送。
ベラパミルによるカルテオロール点眼液の作用増強&ARBによる高カリウム血症が致死性徐脈を引き起こしたと考察された。
カルテオロールとベラパミルの相互作用、ちゃんと添付文書に書いてありますね、、
カルテオロールはチモロールに比べるとISA作用があるので徐脈を起こしにくいはずなのですが、悪条件が重なるとこうした重大な副作用を起こすことがあるという報告でした。
その他の点眼と全身性副作用
これらの副作用のほかに注意すべき全身性副作用を挙げておきます。
点眼薬の種類 | 薬剤名 | 全身性副作用 |
副交感神経遮断薬 | アトロピン、トロピカミド(ミドリンM) | 血圧上昇、心悸亢進、頭痛、発熱 |
α1刺激 | フェニレフリン(ネオシネジン) | 血圧上昇、頻脈 |
副交感神経作動薬 | ピロカルピン(サンピロ) | 下痢、悪心嘔吐、発汗、気管支収縮 |
血管収縮薬 | ナファゾリン(プリビナ) | 血圧上昇、傾眠、徐脈 |
副作用回避のための患者指導
点眼薬の全身性副作用を回避するには、移行する薬液の量を少なくする必要があります。
涙嚢(るいのう)圧迫は眼科領域では基本的な患者指導法です。
今回の記事をまとめていて、点眼の服薬指導の重要さをあらためて実感しました。
まとめ
たかが点眼、されど点眼。
決して頻度は高くないものの、点眼薬も立派な薬であることを認識しておかないと痛い目に合うかもしれないと思い知らされました。
これからは点眼薬の全身性副作用を意識して持参薬確認、相互作用確認をしていきたいと思います。
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