・ラツーダはSDA(セロトニン・ドパミンアンタゴニスト)の中では初めて「双極性障害に対するうつ病」にも適応を得た薬
・有効性については、プラセボに勝てなかった試験結果を繰り返してきた背景を考えると画期的な新薬とは言い難い
・肝機能・腎機能に合わせた調整が複雑
・相互作用が多く、併用禁忌に注意が必要
・安全性は既存の薬以上のリスクは今のところなさそう。QT延長が潜在的リスクに挙げられている
今回は抗精神病薬ラツーダについて紹介します。
日本では新薬ですが、海外では2019年3月時点で45か国で販売されているそうです。
ここまで来るのにけっこう険しい道のりがあったことがわかりました(^^;
【この記事を書いた人】
病院薬剤師です。DI関連のお仕事で新薬の情報をちょこちょこ。
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【関連記事】【ラツーダ】副作用の特徴~他の抗精神病薬と比較して~
統合失調症・双極性障害とは?
統合失調症は、幻覚や妄想という症状が特徴的な精神疾患です。およそ100人に1人弱がかかる頻度の高い病気です。
統合失調症の症状は多彩なため、全体を理解するのが難しいのですが、会話や行動にまとまりがなくなったり、幻覚・妄想が病気によるものであることが認識できないなどの症状があります。
双極性障害は、うつと躁状態(気分が高揚した状態)を繰り返す精神疾患です。
程度の違いはありますが、躁状態ではほとんど寝ることなく動き回り続け、多弁になったり、逆にうつ状態ではすべてのことにまったく興味をもてなくなり、何をしても楽しいとかうれしいという気分がもてなくなる2つの側面があります。
双極性障害の人が具合が悪いと感じるのは、特にうつ状態の時です。
ラツーダの特徴
統合失調症や双極性障害では複数の神経伝達物質の異常がある考えられています。
ドパミン、セロトニン系のアンバランスに加え、アドレナリン系、ノルアドレナリン系、ヒスタミン系が複雑に関与しています。
抗精神病薬の各種受容体に対する薬理作用をまとめました。
ラツーダを始めとする抗精神病薬はこれらの神経伝達物質の作用をうまく調節することで作用を発揮します。
ラツーダの特徴としては、
・ドパミン D2受容体、セロトニン 5-HT2A受容体及び 5-HT7受容体に対してはアンタゴニスト、5-HT1A受 容体に対してはパーシャルアゴニストとして作用
・鎮静や傾眠に関連するα1受容体、H1受容体への親和性は低い
・リスパダール、ルーランといったSDA(セロトニン・ドパミンアンタゴニスト)の中では初めて「双極性障害に対するうつ病」にも適応を得た
といった点が特徴的です。
それでは、ラツーダの審査報告書を詳しくみていきます。
ラツーダの統合失調症に対する有効性
まずは統合失調症に対する国際共同第Ⅲ相試験(P3-200試験)です。
日本、台湾、韓国で実施されました。
対象:統合失調症と診断された患者
デザイン:プラセボ対照無作為二重盲検並行群間試験
主要評価項目:投与6週時のPANSS(陽性・陰性症状評価尺度)合計スコアのベースラインからの変化量
結果です。
残念ながら有意な差はつきませんでした。。
続いて、日本、台湾、韓国、マレーシアで行われたP3-J056試験です。
対象:統合失調症と診断された患者
デザイン:プラセボ対照無作為二重盲検並行群間試験
主要評価項目:投与6週時のPANSS合計スコアのベースラインからの変化量
結果です。
またまた有意な差はつきませんでした。。
さらに、日本、ポーランド、ルーマニア、ロシア、ウクライナで行われたP3-J066試験。
対象:統合失調症と診断された患者
デザイン:プラセボ対照無作為二重盲検並行群間試験
主要評価項目:投与6週時のPANSS合計スコアのベースラインからの変化量
結果です。
ようやく有意な差がつきましたね。
最初の2試験で有効性が確認できなかった理由として、申請者は「有効性評価に最適な集団を十分に集積できなかった」ことが原因としています。
それを踏まえて、、、P3-J066試験では以下のような選択基準の変更、等を行っています。
「2カ月以内に精神症状の急性増悪が認められ、ベースラインと比較して著しい機能悪化が認められる者、陽性症状(幻覚、思考障害)の悪化が認められるもの」
試験設定が強引な気が。。
「有意差をつけるため」のものという感じが否めません。
逆に言うと、上記に該当する患者さんにとっては恩恵があるのかもしれませんが。
機構は、「ラツーダ40mg/日の有効性は示されたが、80mg/日の有効性が明確に示されているとはいえない」としながらも、
最終的に
「事後的な解析ではプラセボと比較して40mg、80mgいずれも改善傾向は示していることから統合失調症では80㎎の有効性は期待できる」と評価しています。
んー、、、なんかもやもや
ラツーダの双極性障害に対する有効性
次に双極性障害に対する試験をみていきます。
日本、リトアニア、マレーシア、フィリピン、ロシア、スロバキア、台湾、ウクライナで行われた国際共同第Ⅲ相試験(BP-P3-J001試験)です。
対象:「双極Ⅰ型障害で最も新しいエピソードがうつ病」と診断された患者
※双極Ⅰ型はⅡ型より躁状態の程度が激しい病態
デザイン:プラセボ対照無作為二重盲検並行群間試験
主要評価項目:投与6週時のMRDRS(モンゴメリ・アスペルグうつ病評価尺度)合計スコア
20~60mg群はプラセボと有意な差がみられましたが、80~120mg群ではプラセボと比較して有意な差はみられませんでした。
続いて、日本、リトアニア、マレーシア、フィリピン、ロシア、スロバキア、台湾、ウクライナで行われた国際共同第Ⅲ相試験(BP-P3-J296試験)です。
対象:「双極Ⅰ型障害」と診断された患者
デザイン:プラセボ対照無作為二重盲検並行群間試験
主要評価項目:気分エピソード再発までの期間
残念ながら有意な差は見られませんでした。。
BP-P3-J001試験で高用量群での結果が出なかったことについては、急速交代型の患者が多く組み入れられており、薬剤の有効性が減弱した可能性が論じられています。
最終的に機構は、高用量群の効果は認められないが、日本人では20-60mg/日群でプラセボ群に対する優越性が認められているため、双極性障害のうつ症状に対しては効果を認める
としています。
ラツーダの肝機能障害時の投与量
肝機能の障害度が高いほど未変化体のAUCが上昇する傾向があります。
中等度、重度の肝機能障害(Child-Pugh分類B、Cに該当)では、開始時の用量、維持量、漸増幅が異なります。
また統合失調症と双極性障害でも用量が異なります。
ラツーダの腎機能障害時の投与量
こちらも、腎機能の障害度が高いほど未変化体のAUCが上昇する傾向があります。
軽度腎機能障害患者の場合は用量調節は不要ですが、中等度・重度腎機能障害の場合は調節が必要です。
とにかく調節が複雑です。
現場の薬剤師はChild-Pugh分類の評価方法や腎機能の計算について知ってないといけませんね。
ラツーダの相互作用
CYP3A4での代謝がメインです。
ケトコナゾールとの併用でAUC9倍近く上昇
→併用禁忌に設定
ジルチアゼムとの併用でAUC2倍に上昇
→併用注意に設定
リファンピシンとの併用でAUC0.19倍に低下
→併用禁忌に設定
PISCS(相互作用の強弱を予測するシステム)の概念に当てはめるとラツーダのCR(CYP分子種の基質薬へのクリアランスの寄与率)は0.9程度となるので、かなり強いCYP3A4の基質薬であると予想されます。
細かい用量調節に対応できるように今後10mg製剤の発売も検討?という記載もありました。
※PISCSの考え方について知りたい方はこちらが参考になります。
ラツーダの安全性
RMPです。
既存の薬以外の目新しい副作用はなさそうですが、気をつけたい副作用は多数あります。
椎体外路症状は用量依存的でアカシジア(ソワソワして落ちつかない)、振戦が出やすいようです。
QT延長に関しては、用量依存性はないのですが、120mg/日と600mg/日のいずれでも10msec以上の延長が認められた例があったこと、他の薬剤でも市販後にQT延長が報告されるケースがあったことから注意喚起はすべきとして、潜在的リスクに挙げられています。
ラツーダの臨床的位置づけ
●統合失調症に関して、
- 海外診療ガイドライン 他の非定型抗精神病薬と同様に初回治療薬剤に推奨
- 英国精神薬理学会ガイドライン 体重増加リスクLow
オーストラリア精神医学会ガイドライン オランザピン、リスペリドン、パリペリドンと比較して脂質異常症および体重増加のリスクは低い
とされ、海外では一定の評価は受けています。
副作用の面で体重増加リスクが低いことがメリットとして挙げられていますね。
●双極性障害に関しては、
- 日本うつ病学会ガイドライン 双極性障害のうつ症状に対してはクエチアピン、オランザピン、ラモトリギン、リチウムが推奨(国内で適応があるのはオランザピン、クエチアピン徐放)
- 国際的なガイドライン 双極性障害のうつ症状に対する第一選択薬
と記載されていますが、
BP-P3-J296試験で維持療法における有効性が確認できなかったことを踏まえると継続投与の要否について注意喚起は必要、
という評価になっています。
選択肢が広がるという意味ではよいと思いますが、どうも試験の結果や評価に疑問が残ります。
薬の特性としてはユニークだと思いますが、必ずしも「新しい薬=良い薬」ではないことに注意しましょう。
まとめ
審査報告書、RMPをもとにラツーダについて評価してみました。
ラツーダの恩恵を受けられる患者さんがいることは事実でしょうが、効果に比べて複雑な用量調整や相互作用、副作用を上回るだけのメリットがあるのかと言われると疑問が残ります。
体重増加のリスクが低いという点は他の抗精神病薬との使い分けの際に参考になりますね。
ラツーダと他の抗精神病薬との副作用の比較はこちらにまとめています。
【関連記事】【ラツーダ】副作用の特徴~他の抗精神病薬と比較して~
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薬剤師に必要なスキル~新薬を評価する方法~
薬物相互作用について体系的に学びたい人はこちらの本がおススメです。
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