このページの要点は以下のとおりです。
・アネレムは既存の薬のデメリットを補うベンゾジアゼピン系全身麻酔薬
・プロポフォールと同程度の麻酔効果と切れがある
・副作用で気になるのは特に高齢者における血圧低下、覚醒遅延
アネレムの名前の由来は?
麻酔(anesthesia)+レミマゾラム(remimazolam)からきています。
では、今回も審査報告書で確認していきましょう。
アネレム静注用の特徴
アネレムは短時間型ベンゾジアゼピン系の静注麻酔薬です。
GABAA受容体のベンゾジアゼピン結合部位に結合し、麻酔・鎮静作用を示すと考えられています。
現在、国内で全身麻酔の効能・効果をもつ静注製剤のうち、広く用いられているのはプロポフォールとミダゾラムです。
プロポフォールは、麻酔導入・覚醒の速さから、多くの全身麻酔の導入及び維持に用いられていますが、血圧低下、心抑制等の循環動態変動を引き起こしやすいと言われています。また、注射時疼痛(血管痛)も認められ、高用量及び長時間の持続投与では静脈炎が問題になります。
一方、ミダゾラムは、循環抑制作用が少なく、拮抗薬(フルマゼニル)が存在する等のメリットがありますが、半減期が長く、代謝物に活性があるため調節しにくい薬剤です。
アネレムはこれらの欠点を改善する目的でつくられた薬剤です。
なお、2020年1 月時点で、海外で承認されている国又は地域はありません。
有効性
国内第Ⅱ/Ⅲ相試験(ONO-2745-05試験)からみていきます。
対象:ASA分類がⅠorⅡで、全身麻酔を施行する患者
デザイン:プロポフォールを対照とした無作為化単盲検並行群間比較試験
主要評価項目:FASにおける全身麻酔薬としての機能(※)が有効であった被験者割合(奏効率)
※①術中覚醒・記憶の有無、②鎮静作用に対する救済処置の有無、③体動の有無の 3 指標のすべてが「無」に該当する被験者を有効、3指標のうち1つでも「有」に該当する被験者を無効と評価
ASA分類というのはアメリカ麻酔学会が作成した手術患者の全身状態を重症度で分類したものです。
基礎疾患のない場合をⅠ度、糖尿病・肺疾患・心疾患などの基礎疾患があると重症度が上がっていきます。
単盲検としたのは、プロポフォールは白色の乳濁液剤なので麻酔科医にとっては外見上識別可能であったため、です。
結果です。
アネレム6mg/kg/時群、12mg/kg/時群、プロポフォール群のいずれも奏効率は100%で、アネレムのプロポフォールに対する非劣勢が示されました。
続いて、国内第Ⅲ相試験(ONO-2745-06 試験)です。
対象:ASA分類Ⅲ以上で、全身麻酔を施行する手術患者
デザイン:無作為化二重盲検並行群間比較試験
主要評価項目:全身麻酔薬としての機能(※)が有効であった被験者割合(有効率)
結果です。
有効率は100%だった、とのことです。
最後に、海外第Ⅲ相試験(CNS7056-011試験)です。
対象:全身麻酔を施行する外国人心臓手術患者
デザイン:プロポフォールを対照とした無作為化単盲検並行群間比較試験
主要評価項目:不明
こちらの試験は、
対照薬をプロポフォールのみとすることが治験担当医師に受け入れられなかったこと、並びに規制上及び治験手続き上の手順の煩雑さによる各治験実施施設への負担が大きかったことから、早期に中止され、・・・
アネレム静注用50mg 審査報告書P47
ということで、試験が打ち切りとなってしまい、有効性・安全性の評価がされていません。
最終的に、機構はONO-2745-05試験とONO-2745-06試験等の結果から、
手術患者の重症度、診療科別の術式に関わらず有効性は示されている、としています。
安全性
RMPです。
低血圧・徐脈
高齢者(65歳以上)は非高齢者と比較して血圧低下、心拍数減少の発現率が高く、高用量投与でより発現頻度が増加しています。
(65歳以上かつ12mg/kg/時群では4-5割に血圧低下が出現)
そのため、高齢者および全身状態の悪い患者では、より緩徐な投与速度で麻酔深度を維持できる可能性があります。
呼吸抑制
申請者は、舌根沈下や減呼吸が生じる可能性はあるものの全身麻酔管理下では重大な問題を起こす可能性は低いとしています。
しかし、機構は人工呼吸開始前、終了後も呼吸への影響が遷延する可能性があること、他のベンゾジアゼピン系麻酔薬では呼吸抑制が注意喚起されていることを踏まえて、添付文書でも注意喚起すべきとしています。
覚醒遅延
プロポフォール群では覚醒遅延の患者を認めなかった一方で、アネレム群では8.0%に覚醒遅延が認められています。その多くにフルマゼニルが投与されており、高齢者やASA分類が高い場合には投与量や投与速度の調整が必要なケースが多い可能性があります。
その他
・依存性
アネレムはミダゾラムと同程度の依存性があることが、海外第Ⅰ相試験で示唆されています。
ベンゾジアゼピン系薬剤の依存性は比較的長期で出現する印象がありますので、周術期限定で考えればあまり問題はないかもしれません。
・QT延長
アネレム投与2分後までに10msecを超えた症例がありましたが、心臓の基礎疾患による影響が大きいだろうとして、製造販売後の情報収集の項目に含まれています。(潜在的リスクに挙げられています)
・プロポフォール注入症候群(PRIS)
アネレムはもともと脂溶性のため、血液脳関門を通過し速やかに効果を発現できる一方で、製剤自体を水溶性(ベシル酸塩)とすることで注射部位疼痛、静脈炎、PRISが起こる可能性は少ないとされています。
・人工心肺を使用する患者への安全性
人工心肺を使用する患者の場合にはアネレムの必要投与量が異なってくる可能性があるため、製造販売後に情報収集を行うこととなっています。
ベンゾジアゼピン系なので生理機能が低下している高齢者への安全性の懸念はありますが、基本的には全身管理がきちんとなされている状態で使用される薬剤なので、重大な問題が生じる可能性は低いのではないかと推察されます。
投与速度
導入期
以下の点で導入期の投与速度を12mg/g/時としています。
・意識消失までの時間は12mg/kg/時群で88.7±22.7秒、プロポフォール群では78.7±38.4秒で、プロポフォールと同程度の時間であった
・気管挿管までに血圧低下が原因で処置が必要な割合は6-7%のみであった
維持期
臨床試験では2mg/kg/時以内で全例全身麻酔維持ができたこと、2mg/kg/時を超える速度で経験がないことから、上限は2mg/kg/時となっています。
麻酔維持期に覚醒兆候があった場合
当初は「12mg/kg/時を超えない範囲とし、投与量は最大0.2mg/kg」となっていましたが、専門家の意見を踏まえ以下のように変更になっています。
・30mg/kg/時で投与した際の安全性に特に問題が認められていないため、一時的な超過は許容される
・麻酔維持期に覚醒兆候を認めた場合の速度は明確に規定する必要はないが、30mg/kg/時を超えないこと
臨床的位置づけ
全身麻酔用の既存の薬剤との違いは以下のように記載されています。
プロポフォールとミダゾラムのデメリットを補っている点で、新たな選択肢と言えると思います。低血圧や覚醒遅延はデメリットとして挙げてよいかもしれません。
肝機能・腎機能障害時の投与量
・肝機能障害時の投与量
Child-Pugh分類BではAUCの上昇は見られませんでしたが、Child分類CではAUCが1.3倍に増加したという結果から、投与量の減量や減速を注意喚起する旨が記載されています。
・腎機能障害時の投与量
CLcr80ml/min/1.73㎡以上と30ml/min/1.73㎡で薬物動態に大きな違いがなかったことから、末期腎不全患者でも投与量の調節は必要ないと思われます。
まとめ
・アネレムは既存の薬のデメリットを補うベンゾジアゼピン系全身麻酔薬
・プロポフォールと同程度の麻酔効果と切れがある
・副作用で気になるのは特に高齢者における血圧低下、覚醒遅延
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