このページの要点は以下のとおりです。(個人的意見も含みます)
・デエビゴは、強力なCYP3A4阻害薬との併用による血中濃度の変化が大きい
・デエビゴはベルソムラより相互作用の面で使いやすい、わけではない
・デエビゴと強力なCYP3A4阻害薬と併用するなら、低用量の規格(1.25mg)が欲しい
今回は、管理人が「デエビゴ錠」の併用注意が意外と危ない?と思う理由について記事にしました。
2020年7月、エーザイから新規オレキシン受容体拮抗薬「デエビゴ錠」が発売になりました。
エーザイ<4523>は6日、不眠症を効能・効果とする、自社創製のオレキシン受容体拮抗薬「デエビゴ錠2.5mg、5mg、10mg」(一般名:レンボレキサント)を、日本で新発売したと発表した。
https://www.morningstar.co.jp/msnews/news?rncNo=1963634 2020/07/06 16:41
同製品は、入眠困難、睡眠維持困難のいずれかまたはその両方を伴う成人の不眠症の適応で、6月に米国において新発売した。また、カナダ、オーストラリアでは新薬承認申請中。日本では、1月23日に製造販売承認を取得し、4月22日に薬価収載されている。
これまでオレキシン受容体拮抗薬といえば、「ベルソムラ」(スボレキサント)一択でしたが、これで新たな選択肢が増えたことになります。
巷では、「併用禁忌がないのでベルソムラより使いやすい」
と、ベルソムラと比較したときの使いやすさが注目されています。
今はベンゾジアゼピン系の睡眠剤の依存とか耐性が問題視されているから、キサント系睡眠剤やラメルテオンのような睡眠剤への切り替えが積極的に行われている。デエビゴはベルソムラより相互作用の面で使いやすいから処方医からはかなり使いやすいはず。
— noringo (@noringo5050) July 7, 2020
デエビゴがやっと発売になるようですね。同効薬のベルソムラは高齢者への使用時にせん妄リスクが低いと言われてますが一包化不可です。デエビゴもせん妄リスクなどが同等であれば積極的に使用したいです。 pic.twitter.com/nhgR50LWCr
— すぎもっちゃん (@pharmacingo) July 5, 2020
【ベルソムラとデエビゴの違い】
— 薬わかるー指導せんー@デジタルサイネージ (@kusuriwakaru) June 16, 2020
クラリスロマイシンの併用禁忌がないのは大きい。臨床試験での効果の強さからデエビゴはかなり増えると思うが、併用時の減量規定があるので、結局、疑義照会からは逃れられない感じです。https://t.co/D6X508LzVb pic.twitter.com/NA2Ebh62Pu
ベルソムラではイトラコナゾール、クラリスロマイシン、リトナビル、ボリコナゾールなどの強いCYP3A4阻害薬との併用が禁忌になっていましたが、デエビゴでは併用注意にとどまる、というところが注目されているようですね。
デエビゴとCYP3A4阻害薬との併用は、併用注意だから使いやすいは本当?なのでしょうか。
それでは、デエビゴの「併用注意」は意外と危険?の理由について、掘り下げていきたいと思います。
添付文書の記載
禁忌に該当薬はありません。
デエビゴの通常用量は5mg/日ですが、
中等度以上のCYP3A4阻害薬との併用で、デエビゴを2.5mg/日に減量して使用するように注意喚起されています。
この根拠となる部分は審査報告書に記載があります。
デエビゴの審査報告書の記載
審査報告書P23 薬物相互作用の部分です。
CYP3A4の強い阻害薬であるイトラコナゾールとの併用でデエビゴのAUCは3.7倍、フルコナゾールとの併用ではAUCが4.17倍に上昇しています。
この結果について、機構は以下のように判断しています。
要は、AUCが4倍に上昇するなら、5mgの4分の1=1.25mg錠を用意すべきところだが、規格がないので最低規格の2.5mgを慎重に用いるように、、という内容です。
機構は用法用量について、審査報告書P63の部分で5mg/日と比較して10mg/日では、
・傾眠や悪夢による投与中止
・睡眠時麻痺(金縛り)
・レム睡眠潜時の短縮によるナルコレプシーのリスクが高まる
ことから、10mgへの増量は安易に行うべきではないと述べています。
であれば、強いCYP3A4阻害剤と併用する際には、2.5mgに割線を入れて分割可能にするか、1.25mg錠をつくるべきではないか、と思うのですが。。
ベルソムラの審査報告書の記載
つづいて、ベルソムラの審査報告書P36 薬物相互作用の部分です。
ベルソムラとケトコナゾールとの併用については、AUCが2~3倍に上昇することから禁忌と設定されています。
ここまでをまとめると
「強いCYP3A4阻害剤とデエビゴの併用はベルソムラに匹敵する血中濃度の上昇を示すのに、禁忌とされていない根拠」は
・「デエビゴには低用量規格(2.5mg錠)があるから」という理由
・10mgと同程度の血中濃度上昇は副作用が懸念される
PISCSの観点でみた相互作用
もう一つ。
PISCSを用いて、デエビゴとCYP3A4阻害薬との相互作用を評価してみます。
PISCSについて
PISCSとは「Pharmacokinetic Interaction Significance Classification System」の略で、代謝酵素を介した薬物相互作用を定量的に評価する方法です。
詳細はこちらの書籍でどうぞ。
式にすると、
基質薬の阻害の受けやすさである代謝寄与率(CR)と阻害薬の阻害の強さである阻害率(IR)の2つのパラメータから、併用時の基質薬の血中濃度AUCの上昇を、
で表します。
デエビゴとベルソムラのCYP3A4代謝寄与率(CR)
さきほど、デエビゴとイトラコナゾールとの併用でAUCが3.7倍になるというデータを確認しました。
PISCSの式から、AUCの上昇率3.7とイトラコナゾールのIRは0.95をもとに、デエビゴのCYP3A4寄与率CRを逆算します。
すると、デエビゴのCRは約0.77となります。
これは、やや高度のCYP3A4の基質薬です。
また、デエビゴとフルコナゾールとの併用でAUCが4.17倍となるデータを用いると、
フルコナゾールのIR0.79を用いて、逆算するとデエビゴのCRは0.96となります。
これは高度のCYP3A4の基質薬です。
限られたデータですので、あくまでも推測でしかありませんが、少なくともデエビゴのCYP3A4に対するCRはやや高度かそれ以上、である可能性があります。
ベルソムラに関して、ケトコナゾールとの併用データをもとに同様の計算をすると、
CR=0.64 と、中等度の基質薬であることがわかります。
決してデエビゴはベルソムラよりCYP3A4代謝の寄与率が低い薬剤ではないよ、ということが言いたいです。
まとめ
以上、デエビゴとCYP3A4阻害薬との関係についてまとめました。
客観的にみて相互作用の点でベルソムラより使いやすいとは言えないように思います。
「併用禁忌がない」ことが独り歩きせず、不適切使用によって患者さんに不利益が起こらないようにしたいですね。
・デエビゴは、強力なCYP3A4阻害薬との併用による血中濃度の変化が大きい
・デエビゴはベルソムラより相互作用の面で使いやすい、わけではない
・デエビゴと強力なCYP3A4阻害薬と併用するなら、低用量の規格(1.25mg)が欲しい
薬物相互作用を体系的に学びたい人はこちらの本がおすすめです。
こちらの記事もどうぞ。
薬剤師に必要なスキル~新薬を評価する方法~
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