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認知症治療薬アリセプトが効かない理由

アリセプトポリファーマシー
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アリセプト(ドネペジル)はエーザイが開発した日本発のアルツハイマー治療薬で、1999年11月に発売になって以来多くの高齢者の方に処方されてきた実績がある薬です。

現在ではアリセプトを含め3種類の薬(コリンエステラーゼ阻害薬)が使用可能です。

しかし薬剤師の立場からみると

  • この薬本当に効いてる?
  • 効くどころかかえって悪くなってない?

と疑問に思うことがよくあるんです。

あなたもそんな感覚を持ったことないですか?

実はその理由は認知症治療薬の難しさとアリセプトを含めたコリンエステラーゼ阻害薬の効果にあるんです。

今回はこのあたりをお話しします。

【この記事を書いた人】

管理人
管理人

病院薬剤師です。そこそこベテラン。

高齢者の薬物療法に興味があります。

 

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認知症治療薬の市場規模予測

少し古いデータですが2016年の予測では認知症治療薬の市場予測では、成長が鈍化するものの認知症治療薬の市場規模は増加傾向となっています。

富士経済はこのほど、認知症治療薬の市場規模が2024年に2045億円となり、15年実績(1442億円)に比べて市場が40%以上拡大するとの調査結果をまとめた。同市場は22年には2000億円を突破する。ただ、20年までは毎年、市場が前年比で100億円前後拡大するものの、21年は前年比約40億円増、22年以降は毎年、前年比30億円未満の増にとどまり、21年以降は成長が鈍化するとしている。

ミクスonline 2016/11/28 https://www.mixonline.jp/tabid55.html?artid=54857

認知症は年齢とともに増加する疾患なので、高齢化に伴って処方する機会は今後も増加すると予想されます。

余談ですが、つい最近(2020年8月7日)エーザイと米バイオジェンが共同開発しているアルツハイマー治療薬候補「アデュカヌマブ」が米国FDAで承認申請受理されました。

アデュカヌマブ、アルツハイマー病治療薬としてのBLA申請が米国FDAに受理され、優先審査に指定

エーザイプレスリリース 2020年8月7日 https://www.eisai.co.jp/news/2020/news202050.html

アデュカヌマブはこれまでの薬と違う抗体医薬品ということもあり、この領域の市場拡大傾向はまだまだ続きそうです。

 

アリセプトが効かないのはなぜ?~不適切処方になりやすいから~

さて本題ですが、アリセプトが効かないと判断される大きな理由は「不適切処方になりやすい」からです。

不適切処方になりやすい主な原因は以下の2点です。

診断が合っているのか怪しい

専門家でないと分かりくいのですが、実は認知症には4つのタイプがあります。

  • アルツハイマー病
  • 血管性認知症
  • レビー小体型認知症(DLB)
  • 前頭側頭葉変性症

認知症治療薬はこのうち

  • アルツハイマー
  • レビー小体型認知症(適応はアリセプトだけ)

に使用が可能です。

これらの病態はどれも認知機能の低下を引き起こしますが、それ以外にも

  • うつ病
  • 電解質の異常
  • 甲状腺機能の低下
  • ビタミンB欠乏症
  • 薬剤の影響

などでも認知機能低下を引き起こすことがあります。

そのため正しい認知症の診断というのは案外難しいと言われています。

また認知症の患者さんは医師の前では取り繕って良く見せようとする傾向があるため、医師がその場で正確な診断をすることが難しいという側面もあるようです。

実際は必要のない人に過剰に処方されていたり、必要人に処方されていないというケースが多いと想定されているんです。

やめ時が分かりにくい

やめ時についても問題があります。

薬にはやめ時が分かりやすい薬分かりにくい薬があります。

やめ時が分かりやすい薬というのは、例えば解熱剤のように症状がなくなれば飲まなくても良い薬です。

反対にやめ時が分かりにくい薬というのは、将来おこるであろう良くないイベントを予防する薬です。生活習慣病に対する薬がそうですね。たとえば心筋梗塞や脳梗塞を予防するために飲む薬がそれに当たります。

認知症治療薬も疾患を完治させる薬ではなく、進行を遅らせる薬なのでいったん処方されてしまうとやめ時を見失ってしまいやすいタイプの薬に属します。

ちなみにどんな時にやめたら良いのか?については、高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015を参考にすると、

  • 寝たきりで意思疎通が図れなくなったとき
  • 効果が認められなくなったとき
  • 有害事象が発生したとき

と記載されています。

しかし効果を判定する検査自体、患者の精神的な影響を受けやすく信頼性に欠けることから、実際に効果が認められなくなったことを判断する明確な指標はないというのが現実です。

以上、アリセプトを始めとする認知症治療薬は診断の怪しさに加えて、治療のゴールが見えないという2つの点から不適切処方になりやすいのです。

   

認知症治療薬の実力

このようにただでさえ不適切処方になりやすい認知症治療薬ですが、本当に必要な人に処方された場合の効果はどの程度なのでしょうか?

2020年8月時点で国内で使用できるコリンエステラーゼ阻害薬は

  • アリセプト(ドネペジル)
  • レミニール(ガランタミン)
  • リバスタッチ、イクセロン(リバスチグミン)

の3種類です。

これらの薬の効果に関する論文を2つ紹介します。

こちらはアルツハイマー型認知症に対するアリセプトの効果についてまとめた論文です。
(Cochrane Database Syst Rev. 2018 Jun 18;6(6):CD001190.)

対象:軽度~重度のアルツハイマー型認知症患者
デザイン:プラセボ対照の二重盲検ランダム化比較試験(23試験のメタ分析)
主要評価項目:26週時点の認知機能(ADAS-Cog、MMSE)、全般的臨床症状(SIB)

結果:ドネペジル10mg/日はプラセボと比較して
ADAS-Cog(70点満点)を平均差-2.67点(95%信頼区間-3.31~-2.02)改善
MMSE(30点満点)を平均1.05点(95%信頼区間 0.73 ~1.37)改善
SIB(100点満点)を平均5.92点(95%信頼区間 4.53 ~7.31)改善

こちらはアルツハイマー型認知症に対するコリンエステラーゼ阻害剤(アリセプト、レミニール、リバスタッチ、イクセロン)の効果についてまとめた論文です。(Cochrane Database Syst Rev. 2006 Jan 25;(1):CD005593.)

対象:軽度~重度のアルツハイマー型認知症患者
デザイン:プラセボ対照の二重盲検ランダム化比較試験(13試験のメタ分析)
主要評価項目:1年半後の認知機能(ADAS-Cog)

結果:推奨用量のコリンエステラーゼ阻害薬はプラセボと比較して
ADAS-Cog(70点満点)を平均差-2.7点(95%信頼区間-3.0~-2.3)改善

これらの結果をみると、たしかに薬が入っているほうが認知機能や全般機能を改善させるということは言えるのですが、点数にして数点の差でしかありません。

30点満点のうちの1点、70点満点のうちの3点にどれほどの意味があるのか?
ということになりますね。

なかには劇的に効果を実感される患者さんもいるのかもしれませんが、ほとんどの患者さんにとってはあてはまらないとも言えるのではないでしょうか?

臨床現場で感じている感覚とも一致するなぁという感じです。

管理人
管理人

効果がないとは言いませんが、この程度の効果でしかないということは覚えておく必要があるでしょうね。

   

さらに厄介な処方カスケード問題

さらにコリンエステラーゼ阻害薬には厄介な問題があります。
処方カスケード問題です。

処方カスケードとは簡単にいうと薬の悪循環のことで、薬の副作用をさらに別の薬で抑えにかかり、どんどん不要な薬が増えていく状態です。

認知症で怒りっぽい患者さんって結構いますよね?
これは認知症の周辺症状(BPSD)の一つなのですが、アリセプトを始めとしたコリンエステラーゼ阻害薬の副作用でも興奮、易怒性、攻撃性といった症状が出ることがあります。その他不穏、不眠、幻覚、せん妄、妄想、多動といった副作用もあります。

これらの症状は認知症のBPSDでも現れるので、いま起きている症状が

  • 自然経過で起こっているのか?
  • 薬が原因で起こっているのか?

の区別が分かりにくいというのが本当に厄介です。

薬の副作用で起こっているのなら薬をやめれば良い話なのですが

アリセプト開始後にイライラ (アリセプトの副作用)
    ↓
イライラに対する抗精神病薬で過鎮静(抗精神病薬の副作用)
    ↓
元気がないのでアリセプトの効果が不十分と判断
    ↓
メマリー追加
    ↓
さらに過鎮静

といったようなことが起こりうるわけです。

処方カスケード問題はとても重要なのですが、普段どれくらいこの問題を意識しているか、知識・経験が問われます。

薬剤師なら誰でも対処できなくてはいけませんが、実際は難しいところです。

管理人
管理人

私自身もこの問題に適切に対処できるように勉強中です。

【関連記事】認知症と睡眠薬の関係についてはこちら

まとめ

以上、アリセプトを含めたコリンエステラーゼ阻害薬の効果、認知症治療の難しさについてまとめました。

アリセプトが効かない理由は

  • 診断が怪しい
  • やめ時が難しい
  • 薬の効果があいまい
  • 薬の副作用とBPSDが似ている
  • 処方カスケードが症状をさらに悪化させる

といった点にあると考えます。

これらが複雑に絡んでいる領域ですが、まずはこうした背景があることを知っていただき、認知症患者さんが訴えている状況に薬が関与していないかな?とアンテナを張ることが大切だと思います。

認知症治療薬は今後も拡大する市場です。
この記事をきっかけにこの領域に関心を持って頂ければ幸いです。

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