睡眠薬といえばレンドルミン、マイスリー、デパス・・が有名ですが、実はいろいろ問題があるんですよね・・。
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そんな中で漢方薬は副作用が少ない薬として期待されています。
睡眠効果のあるツムラの漢方薬にはどんなものがあるのか?
この記事では薬剤師がおススメする5つのツムラ漢方薬についてまとめました。
特にポリファーマシーに取り組む薬剤師は睡眠効果のある漢方薬を知っておくと高齢者にやさしい&ベンゾジアゼピン系睡眠薬の減薬に貢献できますよ~。
【この記事を書いた人】
病院薬剤師です。睡眠医学、高齢者の薬物療法に興味があります。
睡眠効果のあるツムラ漢方薬
不眠症に適応を持つツムラ漢方薬は
- ツムラ8 大柴胡湯
- ツムラ11 柴胡桂枝乾姜湯
- ツムラ15 黄連解毒湯
- ツムラ16 半夏厚朴湯
- ツムラ54 抑肝散
- ツムラ65 帰脾湯
- ツムラ83 抑肝散加陳皮半夏
- ツムラ103 酸棗仁湯
- ツムラ106 温経湯
- ツムラ137 加味帰脾湯
の10種類です。
このうち臨床現場でよく用いられる睡眠効果のある5つの漢方薬について紹介します。
抑肝散
睡眠障害のタイプ:寝つきが悪い方、熟眠感がない方
成分は蒼朮、茯苓、川芎、釣藤鈎、当帰、柴胡、甘草の7種類。
釣藤鈎と柴胡が心を落ち着ける作用がありますので、小児の夜泣きやひきつけによく使用されています。
成人であってもイライラする、怒りっぽい、不安、興奮のある方、特に認知症による攻撃的な性格変化がある方に有効です。
体力が中程度以下(中間~虚証)の患者さん、特に痩せ型の方に良いです。
抑肝散陳皮半夏
睡眠障害のタイプ:寝つきが悪い方、熟眠感がない方
成分は半夏、蒼朮、茯苓、川芎、釣藤鈎、陳皮、当帰、柴胡、甘草の9種類です。抑肝散に陳皮と半夏を加えたものです。
ちょっとした渋みはありますが、香ばしくて飲みやすい味になっています。
神経の高ぶりを抑えたり、筋肉の緊張を緩める作用に加え胃腸を守る効果を示します。
同じく中程度以下(中間~虚証)の患者さんに使用します。
症状が慢性化している方や胃腸虚弱の方は抑肝散よりこちらのほうが合っています。
酸棗仁湯
睡眠障害のタイプ:寝つきが悪い方、熟眠感がない方
成分は酸棗仁、知母、川芎、茯苓、甘草の5種類です。
気を鎮める作用が神経の高ぶりを鎮めて、熟睡できるように働きかけます。
体力が中程度以下(中間~虚証)の患者さんに使用します。
心身が疲れているにも関わらず夜間に目がさえて眠れないといった場合に有効です。
通常は分2~分3で服用しますが、就寝前の服用でも効果があることがあります。
加味帰脾湯
睡眠障害のタイプ:熟眠感がない方
成分は人参、蒼朮、茯苓、甘草、酸棗仁、竜眼肉、遠志、当帰、生姜、大棗、黄耆、木香、柴胡、山梔子の14種類です。
消化機能を高める滋養強壮作用、不安や緊張を落ち着かせる精神安定作用、補気・補血作用を示します。
体力が中程度以下(中間~虚証)の患者さん、特に軽度のうつ状態、易疲労感、不安、動悸があるなどの症状に有効です。
黄連解毒湯
睡眠障害のタイプ:寝つきが悪い方
成分は黄連、黄芩、黄柏、山梔子の4種類です。
即効性があり熱を取る効果が強いです。炎症をしずめる作用、水分を取り除く作用も合わさって鎮静作用を示します。
不眠だけでなく、頭痛、口内炎、皮膚のかゆみにもよいです。
体力が中等度以上(実~中間証)の患者さん、特にのぼせ、興奮、イライラを伴う場合に有効です。
不眠治療に漢方薬を使用するメリット
副作用が少ない
不眠治療に使用する薬剤はベンゾジアゼピン系(非ベンゾジアゼピン系も含む)、メラトニン受容体作動薬、オレキシン受容体拮抗薬などが中心ですが、漢方薬も使用可能です。
漢方薬はベンゾジアゼピン系のような筋弛緩作用に関連した副作用(転倒、転落)のリスクがほとんどありません。
またベンゾジアゼピン系では日中の眠気、注意力の低下のおそれがあるため自動車運転など危険を伴う機械の操作に注意が必要ですが、漢方薬ではありません。
そのため漢方薬は比較的安全に使用できる睡眠薬として期待されます。
他の睡眠薬を減らせる可能性がある
漢方薬には
- 抑肝散の投与は睡眠構造に影響を与えることなく、睡眠の質を改善させた
Sleep Biol Rythms 2012;10:157-160 - 精神疾患を有する成人患者に酸棗仁湯の投与は睡眠の質を改善させるだけでなく、ベンゾジアゼピン系の投与量を1/3に減らせた Altern Integr Med 2015;4:181
- 【症例報告】抑肝散の投与によってデパス(エチゾラム)を中止できた 日東洋心身医研 2019; 34:39-44
といった報告があり、ベンゾジアゼピン系の薬剤をはじめとする他の睡眠薬の減量効果も期待されています。
薬価が安い
漢方薬の薬価は比較的低めに抑えられていますので、べらぼうに高いということはありません。
ベンゾジアゼピン系で転倒・転落したことによる骨折の医療費を考慮するなど、長い目で見れば医療費の削減・抑制につながる可能性があります。
ちなみに代表的な睡眠薬の薬価は以下のとおりです。
ベンゾジアゼピン系
- レンドルミン0.25mg 21.3円(ジェネリック10.1円)
- マイスリー5mg 33.9円(ジェネリック10.1円)
- ルネスタ1mg 47.3円
オレキシン受容体拮抗薬
- ベルソムラ15mg 90.8円
- デエビゴ5mg 90.8円
ツムラ漢方薬
- ツムラ54 抑肝散2.5g/包 27.3円
- ツムラ103 酸棗仁湯2.5g/包 27.8円
- ツムラ137 加味帰脾湯2.5g/包 66.8円
不眠治療に漢方薬を使用するデメリット
副作用
漢方薬も医薬品なので副作用の可能性を考えなくてはいけません。
偽アルドステロン症
特に注意が必要なものは甘草を含有した製品による偽アルドステロン症です。
作用機序としては、甘草の主成分であるグリチルリチン酸が、腎臓でアルドステロンと呼ばれるホルモンの代謝を抑えてしまいます。
その結果、腎臓からのナトリウム再吸収促進、カリウム排泄増加が起こり、浮腫、血圧上昇、低カリウム血症に関連した不整脈、筋肉の脱力感を起こす可能性があるのです。
該当する漢方薬:抑肝散、抑肝散加陳皮半夏、酸棗仁湯、加味帰脾湯
腸間膜静脈硬化症
山梔子(さんしし)と呼ばれる成分を含む漢方薬を長期間(5年以上が多い)服用することによって腸間膜静脈硬化症を発症したという報告があります。
作用機序としては主成分ゲニポシドが、下部消化管で腸内細菌により分解されてゲニピンとなり、アミノ酸と反応して生じた青色色素が大腸内壁に沈着することが原因ではないかとされています。
該当する漢方薬:加味帰脾湯、黄連解毒湯
間質性肺炎
発現頻度は少ないものの様々な漢方薬で間質性肺炎が報告されていますので服用中は気を付ける必要があります。
速効性がない
投与初日から効果を示すこともありますが、西洋薬と比較すると速効性に欠ける場合があります。
また効果の確実性という面でも期待できない場合もあります。
これは漢方薬が患者さんの体質や症状を含めた「証」に基づいて処方されるべき薬であるため、体質に合っていない場合には効果が出にくいということに由来しているのかもしれません。
エビデンスが不十分
漢方薬が不眠症に有効だというエビデンスは蓄積されてきているものの、まだ十分ではないことは事実です。
注意すべき漢方薬
補足として興奮作用のある漢方薬を服用している場合は不眠を助長する可能性があるので注意が必要なことを付け加えておきます。
麻黄を含む漢方薬はエフェドリン作用があるので血圧上昇・動悸・興奮・不眠、排尿障害が問題になります。
麻黄を含む漢方薬は多いので気を付けましょう。
麻黄を含む漢方薬:葛根湯、小青竜湯、防風通聖散、麻黄附子細辛湯、麻黄湯、越婢加朮湯、麻杏甘石湯、五虎湯、薏苡仁湯など
まとめ
以上、不眠治療に有効な漢方薬を紹介しました。
比較的安全でベンゾジアゼピン系を減らせる可能性があるというのは我々薬剤師にとっても有用性が高い薬剤であると思います。
ただし、あくまでも薬は補助的な役割ですので個人で服用を希望される場合は、他の治療法も含め信頼できる医師と相談してください。
病院の探し方についてはこちらを参考にどうぞ。
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