プリンペラン使ったんですけど、しゃっくりがおさまらないんです。他に何か使える薬はありますか?
ある日、医師からこんな問い合わせがありました。
とりあえず「他によく出るのはギャバロンやコントミンですね」と回答‥
でもよくよく考えてみたら、しゃっくりに使う薬の優劣ってあるのかな?という疑問が。
なので今回はしゃっくりの治療薬はどれが最強なのかについて調べました。
【この記事を書いた人】
病院薬剤師です。医療や薬に関して正しい情報を伝えるよう心がけています。
しゃっくり(吃逆)のメカニズム
しゃっくりは医学用語で吃逆(きつぎゃく)といいます。
どうやら脳にはしゃっくり中枢なるものがあって、そこが活性化することでしゃっくりが起こるのだそうです。
そんな場所があるとは初耳。
しゃっくり中枢は脊髄上部(C3~C5)付近(ちょうど食道入口の後ろ側あたり)にあります。肋間筋や横隔膜の動きを司どる場所になりますね。
しゃっくりのメカニズムとしては、
迷走神経や横隔神経への刺激がしゃっくり中枢を活性化→自分では制御できない反復的な横隔膜の収縮が起こる
という流れです。
たいてい短時間で治まりますが、中には持続性あるいは難治性のしゃっくりもあります。
私が良く出会うのはプラチナ製剤と呼ばれる抗がん剤を使った患者さんですね。
余談ですが、しゃっくりの時にヒックと音がなるのは何故なのでしょう?
これは横隔膜のけいれんと同時に吸い込んだ空気が、声門が閉まった状態になって行き場をなくしてしまうからなんだそうです。
英語ではhiccup(ヒカップ)と言います。
hicはヒック、ヒック、、と音がなるのにちなんでなのでしょうか・・?
しゃっくりの原因
しゃっくりの原因はさまざまです。
食事や炭酸飲料による胃の膨張、アルコール、辛いもの、喫煙などの刺激、過度の不安や興奮、過呼吸などに加えて、
薬ではステロイド、シスプラチン、オピオイド、ドパミン作動薬、ベンゾジアゼピン系薬の使用で起こりやすいとされています。
その他にも外科的処置、電解質の異常や中枢神経系、末梢神経系のさまざまな病気でも誘発されるので、まずは原因を特定できるかが治療への大事なステップになります。
しゃっくり(吃逆)の薬物療法
定番の薬
それではしゃっくりにはどんな薬が使用されるのでしょうか。
しゃっくりの治療法についてのシステマティックレビューがありました。
このシステマティックレビューによると、しゃっくりの治療に関して質の高い大規模臨床試験で効果が証明された薬物療法はない、という結論でした。
ただし小規模の無作為化プラセボ対象試験で効果がありそうだとされているのが、バクロフェン(ギャバロン)でした。
2nd lineとしてはメトクロプラミド(プリンペラン)が入っています。
クロルプロマジン(コントミン)が3rd lineになっているのは、鎮静作用や血圧低下などの副作用の懸念があるためのようです。
他にガバペンチン(ガバペン)、プレガバリン(リリカ)、ドンペリドン(ナウゼリン)あたりは選択肢になりそう。
カルバマゼピン(テグレトール)、バルプロ酸ナトリウム(デパケン)、フェニトイン(フェノバール)、ニフェジピン(アダラート)、アミトリプチリン(トリプタノール)はエビデンスレベルが低いのでどうしてもダメなとき、という位置づけでしょう。
リボトリールは?
個人的にはクロナゼパム(リボトリール)もよく見かけるのですが、出てきませんでした。
ベンゾジアゼピン系薬剤はそれ自身がしゃっくりの原因になる&高用量でないと効果が乏しい、と考察に記載されています。
漢方は?
国内ではよく使われる漢方薬についてですが、このレビューでは漢方薬について言及はありませんでした。
呉茱萸湯(しゃっくりの適応あり)、芍薬甘草湯、柿の蔕などが使われますが、症例報告レベルにとどまっています。
効く人には効いたということで難治例には使ってみる価値があるかもしれません。
PPI(プロトンポンプ阻害薬)
しゃっくりの原因が逆流性食道炎、機能性胃腸障害などの上部消化管関連疾患の場合はPPIが有効なことがあります。
しゃっくりの原因はさまざまと言いましたが、そもそもの原因がわかっているのであれば、それに対応した薬物治療を行うのは当然のことですね。
「しゃっくり=薬は〇〇で」と一律に考えてしまいがちなところ、原因まで考えた薬物療法を提案できてこそ一人前なんだよなぁとこれまでの自分を反省・・
非薬物療法は?
水を飲む、息を止める、別のことに意識を集中する、氷を顔につける、などの民間療法が知られています。
急性のしゃっくりを止めるのにある程度の有効性はあると認識されていますが、臨床試験は行われていません。
持続性・難治性のしゃっくりへの有効性も不明なので、治まらない場合は医療機関への受診を勧め、原因検索してもらうという流れになります。
まとめ
しゃっくりに一番効果のある薬についてまとめてみました。
原因が多岐に渡るだけになかなか奥が深い疾患だと思いました。
今まできちんと調べたことがなかったので、これからは根拠をもって薬物療法の提案ができるかなぁと思っています。
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