CT検査の際にはヨード造影剤を使用しますが、みなさんの施設ではメトホルミンの休薬はどのようにしていますか?
おそらく多くの施設では、CT検査をするときにはメトホルミンを
- 造影剤投与後48時間は再開しない
あるいは
- 造影剤投与前後48時間は投与しない
といった対応をしていると思います。
でもこれってどういう根拠で決まったものなのでしょうか?
というわけで今回は
- ヨード造影剤使用時のメトホルミン休薬は必要なのか?
- ヨード造影剤使用時に注意する薬剤にはどんなものがあるのか?
についてまとめてみました。
【この記事を書いた人】
病院薬剤師です。医療や薬についての正しい知識を提供するように心がけています。
ヨード造影剤とメトホルミンは禁忌?
正確にはヨード造影剤とメトホルミンの併用は禁忌ではありません。
しかし、メトホルミンの添付文書には、ヨード造影剤とビグアナイド系糖尿病薬(メトホルミン)の併用は、乳酸アシドーシスを起こすことがあるため投与後48時間は再開しないこと、となっています。
ヨード造影剤を用いて検査を行う患者においては、本剤の併用により乳酸アシドーシスを起こすことがあるので、検査前は本剤の投与を一時的に中止すること(ただし、緊急に検査を行う必要がある場合を除く)。ヨード造影剤投与後48時間は本剤の投与を再開しないこと。なお、投与再開時には、患者の状態に注意すること。
メトホルミン塩酸塩錠250mgMT 「明治」 添付文書より
そもそもなぜこの2剤の相性が悪いのかというと
ヨード造影剤使用時に(一過性に)腎機能が低下
⇒ビグアナイド薬の腎排泄が減少
⇒乳酸アシドーシス
を起こすおそれがあるためです。
しかし投与後48時間という記載はあるものの、投与前の休薬期間は定められておらず、それぞれ施設または医師が個々に判断して休薬が行われているのが現状です。
ヨード造影剤とメトホルミンの併用は禁忌にはなっていませんが、実際のところは多くの施設で「ほぼ禁忌」と言っていいくらいの運用と言ってもよいかもしれません。
海外と日本のガイドラインの違い
ヨード造影剤とメトホルミンの併用について、日本と海外のガイドラインではどのように違うのでしょうか。
まず日本糖尿病協会のメトホルミンの適正使用に関するReccomendationでは、eGFR30~60ml/min/1.73㎡を一つの基準としています。
eGFRが30~60の患者では、ヨード造影剤投与後48時間はメトホルミンを再開せず、腎機能の悪化が懸念される場合にはeGFRを測定し腎機能を評価した後に再開する。ただし、脱水、ショック、急性心筋梗塞、重症感染症の場合などやヨード造影剤の併用なども含め、eGFRは急激に低下することがあるので適切なタイミングで腎機能をチェックする。
日本糖尿病協会 メトホルミンの適正使用に関するRecommendation
また「腎障害患者におけるヨード造影剤使用に関するガイドライン2018」では、以下のようにそこまで細かい表現はされてはいません。
どちらもヨード造影剤投与後のメトホルミン休薬については触れられていますが、投与前の休薬やeGFRの目安についてははっきりしてないという感じですね。
一方、海外のガイドラインはもう少し具体的です。
腎機能が正常であれば、ヨード造影剤投与前にメトホルミンを休薬することは必ずしも必要とされておらず、逆に腎機能が悪いときには以下のように休薬すべきと記載があります。
- eGFR30ml/min/1.73㎡未満では48時間前にメトホルミンを休薬すべき(Canadian Association of Radiologists:CAR)
- eGFR44ml/min/1.73㎡未満では48時間前にメトホルミンを休薬すべき(European Society of Urogenitial Radiology:ESUR)
海外では腎機能が悪いときだけ48時間前の休薬を推奨するスタンスなんですね。
造影剤で腎機能障害は起こるのか?
そもそも最も懸念されるメトホルミンの乳酸アシドーシスが何故起こるのか?というと、ヨード造影剤がきっかけというのが事の発端でしたね。
ここで、実はヨード造影剤による腎機能障害ってあまり多くないのでは?というのが最近のトピックになっています。
2020年1月にpublished onlineとなったこちらの論文を紹介します。
この論文は米国放射線学会と腎臓病学会のコンセンサスステートメント(合同声明)で、クリニカルクエスチョンと回答という形でまとめられています。
造影剤関連腎症(CA-AKI)と造影剤誘発性腎症(CI-AKI)
この声明で言われている最も大事なポイントは、造影剤による腎症は
- 造影剤関連腎症(CA-AKI)
- 造影剤誘発性腎症(CI-AKI)
に分けられるということ。
CA-AKIは造影剤投与後48時間以内に発症するAKIのことで、造影剤に限らずいろんな要因で起こったAKIも含めたものです。
一方、直接的に造影剤が腎機能障害をもたらしたと断定できたものがCI-AKI。
現実的に造影剤投与後のAKIが造影剤そのものによるかどうかを同定するのは難しいですし、比較対照として造影剤曝露を受けなかった人と比べている研究が少ないため、これまで報告されている造影剤腎症はCA-AKIがほとんどなのでは?というのがこの論文の趣旨です。
ちなみに2013年以降の論文をまとめると、CI-AKIはかなり少なそうとのこと。
つまり両者を分けて考えると、実際にヨード造影剤自体は世間で言われているほど腎機能障害のリスクにならない
というわけです。
それならヨード造影剤とメトホルミンの併用がそこまで危なくないと言えるのも納得。
造影剤による腎機能悪化のリスク因子は?
では、CI-AKIの発症リスクは何か?というと、研究した論文がほとんどなく明確に分かってはいないのですが、eGFR以外にリスク因子は見つかっていません。
CA-AKIについてはeGFRがリスクであると断定されている以外に、糖尿病、腎毒性のある薬剤曝露、低血圧、循環血漿量低下、アルブミン尿、腎血流低下(心不全など)もリスクとなります。
eGFRはどちらの腎症にしてもAKIのリスクになりそうですので、やはり腎機能が悪い方にはヨード造影剤の使用は慎重になるべきなのでしょう。
造影剤投与前に注意する薬剤は?
米国放射線学会と腎臓病学会のコンセンサスステートメントでは、AKIやeGFR30ml/min/1.73㎡未満の患者では以下の薬剤の使用を造影剤投与の24-48時間前と48時間後まで控えるようにとしています。
- 非ステロイド性抗炎症薬
- 利尿薬
- アミノグリコシド
- アムホテリシン
- プラチナ製剤
- ゾレドロネート
- メトトレキサート
ちなみにRAS阻害薬については議論の余地あり、メトホルミンに関してはCA-AKIのリスクを増加させないとはっきり明記しています。
ただし、(頻度はものすごく少ないが)メトホルミンを投与されている患者でCI-AKIが発症してしまうと、乳酸アシドーシスのリスクが高まるので、eGFRが30ml/min/1.73㎡未満の患者では控えましょう、と記載されています。
まとめ
ということでヨード造影剤とメトホルミンの関係をまとめると、、、
造影剤そのもので腎機能が悪化することはほとんどないが、腎機能が悪い場合には造影剤以外の原因も含めてAKIになりやすい
↓
メトホルミンを併用していた場合、メトホルミンの排泄が遅延
↓
乳酸アシドーシスになりやすい
となり、eGFRが30ml/min/1.73㎡未満の場合は48時間前からメトホルミンを休薬しましょう、という結論になります。
現実的にはeGFR30ml/min/1.73㎡未満の場合にはメトホルミンが禁忌なので、そもそもメトホルミン自体使われていないケースがほとんどでしょうし、(よほどの緊急時は別にして)腎機能が悪ければヨード造影剤の使用を避ける方向になるのではないかと思われます。
そう考えるとメトホルミンの休薬が必要なケースってほとんどない気が・・。
とはいえ、添付文書や日本のガイドラインの記載を無視するわけにもいかないので、現在のしきたりはこのまま続いていくと思いますが。。
ヨード造影剤投与前後に注意すべき薬剤はメトホルミンよりむしろ、NSAIDsや利尿薬、メトトレキサートなど別の薬剤なのかもしれませんね。
今後のエビデンスの蓄積に注目していきたいと思います。
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