新型コロナウイルスに対してファイザー社のワクチンがいよいよ打てるようになります。
臨床試験で効果があると確認されていますが、どんなワクチンなのか分からないため、打つことをためらっている人が多いようですね。
打つか打たないかは自由ですが、正しい情報を知ったうえで決めましょうね。
この記事ではファイザー社のmRNAワクチンの安全性、保管温度、運用の実際について解説します。
【この記事を書いた人】
病院薬剤師です。医療やくすりに関する正しい情報を提供するように心がけています。
mRNAワクチンとは?
mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチンは海外では2021年1月時点で、ファイザー社/ビオンテック社とモデルナ社の2つのワクチンが承認されています。
mRNAワクチンとはどんなワクチンなのでしょうか?
mRNAというのは簡単に言うとタンパク質をつくる設計図。
mRNAワクチンは、体内に直接投与したmRNAが設計図となって、思い通りのタンパク質を標的細胞で発現させることができるワクチンです。
この思い通りというのが最大のポイント。
ファイザー社やモデルナ社のmRNAワクチンはコロナウイルスの細胞に発現しているスパイクタンパク質を思い通りに作ることに成功した、というわけ。
コロナのスパイクタンパク質がガンガン体内に産生され、病原体タンパク質にヒトの免疫が反応することでコロナに対する免疫を獲得できます。
有効性についてはこの記事ではあえて触れませんが、集団への影響はまだ分かっていないものの、少なくとも打った人に対する効果は確実です。
これまでのワクチンとどう違うのかというと、従来は生ワクチンや不活化ワクチンなど病原体自体を用いてつくることが主流でした。
安全性は担保されているとはいえ病原体を用いている以上、病原体にさらされるリスクは少なからずありました。
一方、mRNAワクチンは病原体の遺伝子配列が組み込まれてはいますが、病原体(=コロナウイルス)そのものは使っているわけではないのでヒトに感染するという心配は全くありません。
mRNAワクチンの作用機序
出典:[医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス,PMDRS,50(5),242 ~ 249(2019)]
免疫の本体である抗体はタンパク質です。
通常の細胞はDNA→mRNA→翻訳という流れでタンパク合成をしています。
一方、mRNAワクチンは接種後に細胞内に取り込まれ、核の中には入らずに自らタンパク合成を開始します。
この技術のすごいところは、病原体のタンパクをヒト自身に作らせているので、もしコロナウイルスが変異をしたとしても変異に応じたmRNAが作れれば、新たなワクチンが作れてしまうということです。
ちなみにこれに似た作用機序で最近日本で承認された薬をご存知でしょうか?
「デュシェンヌ型筋ジストロフィー」という神経難病に使うアンチセンス核酸「ビルテプソ®(ビルトラルセン)」です。
ビルテプソ®はmRNAに作用して遺伝子の異常部分をごっそり取り除いて正常なタンパク質を作らせるという薬です。
要するに既に遺伝子を用いた治療は行われているということ。
コロナワクチンに限らず、mRNAを使った治療は今後がんや再生医療などさまざまな病気の治療に有望なのです。
mRNAワクチンがどうやって免疫を獲得するかを示したのが上の図です。
mRNAワクチンを投与→細胞内でタンパク質合成→タンパク質が細かく分解→
「細胞内で分解されたタンパク質」+「細胞外に排出されたタンパク質」に対してヒトの免疫が反応し、コロナに対する抗体産生とコロナに感染した細胞を直接殺す作用(細胞性免疫)の両方が誘導されます。
こうしてmRNAワクチンによって強力な免疫が獲得できるんですね。
mRNAワクチンの安全性
mRNAワクチンは理論上以下のような特徴があります。
- 細胞質に入るだけでタンパク質発現する(あらゆる細胞に適応可能)
- ホストゲノムに挿入されるリスクがない(標的細胞をがん化させる危険がない)
- 生体内で非常に不安定
- 免疫反応を誘発する
短期的な安全性に関しては、主なものは投与後の注射部位の痛み、発熱、倦怠感、頭痛でいずれも回復していますので、これまでのワクチンと比べても危険性が高いということはなさそうです。
そもそもこれらの反応は通常の免疫反応ですし、アナフィラキシーショックに関してもmRNAワクチンが異常に頻度が多いということもありません。
個人的にはワクチンを打つことに不安がある人は長期的な安全性を懸念しているのかなー?と思うのですがいかがですか?
そもそもmRNAワクチンがどういうものなのかが分からないことには判断できないのは当然。長期的にがん化しないのかな?っていう不安を挙げたスタッフもいましたが、mRNAはホストゲノムに挿入されるリスクはなく、がん化させる危険性はないとされています。体内にとどまり続けることもないです。 https://t.co/Aicqs2DaDi
— 管理人 (@管理人901619361) January 15, 2021
たしかに長期的な安全性に関しては未知です。
長期的にがん化しないのかな?と不安に思う方もいるかもしれませんが、mRNAの特性を考えると体内に残り続けたり、がん化する可能性もないというのが分子生物学的にはスタンダードな考えです。
とはいえ、過剰な免疫反応を誘発する可能性はゼロではありませんし、今後接種者が増えた際には報告が上がってくるかもしれませんが、現時点では接種を大いにためらうような重篤な有害事象はないというのが大方の専門家の意見です。
極めて稀であろう重篤な副作用の懸念と、ほぼ確立されたコロナ予防効果のどちらがあなたにとって有益かを良く考える必要があるでしょう。
ちなみに新型コロナウイルスワクチンによる副作用で健康被害が出た場合は副作用救済制度の対象になりますよ。
ワクチンが筋注で痛いのではないか?という懸念がある人はこちらの記事をどうぞ。
【関連記事】【ワクチン】皮下注と筋注 痛みが強いのはどっち?
ファイザーワクチンの保管温度
日本では2月下旬から医療従事者&リスクの高い人からmRNAワクチンの接種が始まる予定です。
ファイザーは日本国内でも今月18日に承認申請を行っていて、審査を大幅に簡略化する「特例承認」の適用を目指しているということです。
国内で行われている臨床試験のデータも踏まえて、早ければ2月中にも承認されるかどうか結論が出る見通しで、厚生労働省は来年2月下旬をめどに医療従事者、3月下旬をめどに高齢者への接種を始める体制を確保し、その後基礎疾患のある人などに優先して接種を行う方針です。
新型コロナ ワクチン接種 海外は開始 日本は来年2月下旬以降か | 新型コロナウイルス | NHKニュース 2020年12月28日
mRNAワクチンは非常に不安定なので、ファイザー社のmRNAワクチンは-70℃での保管が必要です。
実際、ファイザー社のワクチンの保管をどうすればよいのか?についてはファイザー社ホームページに取り扱いの記載があります。
箱の大きさは48.3×48.3×39.4cm。この中にワクチンとドライアイスが詰め込まれています。32kgあるので2人がかりで運ぶことになります。
蓋を開けると温度センサーが入っていますので温度が-75℃±15℃であることを確認します。
温度センサー付きの蓋を外すとドライアイスが出てきて、中の小さな箱にワクチンが195V(975人分)入っています。
保管はこの箱のままドライアイスで保管するか、ディープフリーザーで保管するかの2パターン。
箱で保管する場合は、5日毎に定期的に届くドライアイスを補充しながら(最大2回目まで)、最長10日間で使い切らないといけません。
ワクチン解凍後は冷蔵庫(2~8℃)で最長5日間だそうです。
ファイザーワクチンの運用
具体的な運用は施設ごと、地域ごとに異なってくると思います。
ディープフリーザーの設置医療機関はどこなのか、サテライト機関はどこなのか、どこで打つのか、まとまった対象者をどうやって集めるのか、誰が問診するのか、誰が打つのか等々考えることはたくさんありそうです。
現時点でファイザー社のワクチンに関して分かっていないことは生食で溶解した後の安定性ですね。
mRNAなので短いことは想像できますが、運用する上では今後の情報を参考にする必要があります。
ファイザー社のワクチンは生食で希釈後、室温で6時間は保管可能のようです。冷蔵保存ならもう少し長いのかは不明ですが、いずれにしても保管できる時間は短そうですね。
まとめ
ファイザー社のmRNAワクチンとはどんなワクチンなのか、その安全性、保管温度、運用方法についてまとめました。
ワクチンはコロナの蔓延を食い止めるために最も確実な方法です。
未知のワクチンということで何となく抵抗を感じている人もいると思いますが、何となく判断するのはやめましょう。
極めて稀な重篤な副作用の懸念と、ほぼ確立されたコロナ予防効果のどちらを取るか?
最終的には個人の判断ではありますが、正しい情報を得た上で打つかどうかを判断して頂きたいと思います。
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