本格的な冬シーズンを迎え、新規感染者が増加している新型コロナウイルス。
日本でもいよいよコロナワクチンの接種が始まりますが、実は全く関係なさそうな肺炎球菌ワクチンが不足しています。
原因は新型コロナウイルスの流行だろうということなのですが、一見関係なさそうな肺炎球菌ワクチンがなぜ不足になってしまっているのでしょう?
そもそも肺炎球菌ワクチンとはどんなものなのか?
肺炎球菌ワクチンは新型コロナウイルスに効くのか?
について解説します。
【この記事を書いた人】
病院薬剤師です。医療や薬についての正しい知識を提供するように心がけています。
肺炎球菌とコロナウイルスの違い
肺炎球菌とコロナウイルスって何が違うのでしょうか?
簡単にいうと、肺炎球菌は細菌で、コロナウイルスはウイルスです。
細菌とウイルスって同じようで全く違うもの。
大きさで言うと、ウイルスは細菌の100分の1くらいしかないし、
構造で言うと、ウイルスは細菌よりめっちゃ単純だし、
薬で言うと、ウイルスには抗生物質(抗菌薬)が効かない
なので、肺炎球菌とコロナウイルスでは予防も治療もそれぞれ違うんですね。
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肺炎球菌って恐ろしい
肺炎球菌って聞いたことはあるけど、どんなものかイメージがつかない人もいるのではないでしょうか?
はたらく細胞01第1話にも登場するのですが、実は肺炎球菌ってものすごく恐ろしい微生物です。
肺炎球菌は連鎖球菌という微生物に属するのですが、連鎖球菌はヒトの体内に感染することによってものすごい毒素を産生するんです。
肺炎球菌はヒトの鼻や喉の奥に住んでいて、唾液などを通じて飛沫感染します。
通常はただいるだけで何も悪さをしないのですが、免疫力が低下している人に感染した場合には気管支炎・肺炎といった病気を引き起こすことがあるんです。
肺炎球菌は一旦血管の中に入ると、あっという間に体のさまざまな臓器を攻撃して最悪死に至ることもあるくらい恐ろしい微生物なんです。
肺炎球菌ワクチンとは?
そんな恐ろしい肺炎球菌感染症を予防するのが肺炎球菌ワクチンです。
詳しくみていきましょう。
肺炎球菌ワクチンは2種類
肺炎球菌ワクチンには2種類あります。
ニューモバックスNP®とプレベナー®です。
違いは主に次の3つです。
カバーする肺炎球菌の血清型の数
持続性
公費補助か自費か
ニューモバックスNP®は全部で95種類以上あると言われる肺炎球菌の血清型のうち23種類をカバーしています。(PPSV23と略します)
これで成人の重症の肺炎球菌感染症の原因の約7割をカバーできると言われています。
ニューモバックスNP®はB細胞を活性化することで免疫力を発揮するのですが、これだけでは効果が長く続きません。
そのためニューモバックスNP®は65歳以上の成人の場合、5年に1回(少なくとも5年以上空けてから)追加接種を考慮する必要があります。
65歳以上であれば対象年齢に該当すると定期接種の通知が各自治体から届くはずですので、初回は公費補助が受けられます。
一方、プレベナー®は13種類の血清型しかカバーをしていないのですが(PSV13と略します)、免疫の最高司令官であるT細胞を活性化することで、メモリーB細胞という免疫記憶を誘導する効果があるため、ニューモバックスNP®のように効果が切れることを心配する必要がありません。
これまでは小児対象の肺炎球菌ワクチンだったのですが、2020年5月27日以降、全年齢対象に接種可能になりました。
プレベナー®は65歳以上の成人に対する公費補助は受けられないため、自費扱いとなっています。
肺炎球菌ワクチンの効果
ニューモバックス®の効果については日本臨床内科医会のHPで以下のようにまとめられています。
PPV23(ニューモバックス®NP)のエビデンスとして、日本での高齢者介護施設や地域の高齢者を対象とした試験において、肺炎予防効果や65歳以上の高齢者で肺炎の医療費の削減が報告されています6)。また、65歳以上の肺炎患者を対象にした、Test-negative designの試験で、肺炎球菌性肺炎の減少が示されています7)。
肺炎球菌ワクチンに関するQ&A – 日本臨床内科医会 (haienkyukin.info)
プレベナー®の効果については
PCV13(プレベナー13®)のエビデンスとしては、オランダでの65歳以上84,495人を対象とした大規模な無作為二重盲検比較試験(CAPiTA試験)で、侵襲性肺炎球菌感染症の予防効果と共に、高齢者での肺炎球菌による市中肺炎の減少が示されています8)。また、米国で実施されたTest-negative designの試験で、PCV13に含まれる血清型での市中肺炎による入院を72.8%抑制することが示されています9)。
肺炎球菌ワクチンに関するQ&A – 日本臨床内科医会 (haienkyukin.info)
ニューモバックス®もプレベナー®もどちらも高齢者への肺炎球菌感染症減少効果は認めているのですが、現時点では65歳以上の高齢者に対してはニューモバックス®のほうがエビデンスが確立されているため公費の対象となっています。
肺炎球菌ワクチンは新型コロナウイルスに効くのか?
本来であれば肺炎球菌と新型コロナウイルスは別物なので、肺炎球菌ワクチンが新型コロナウイルスに効くということはありません。
細菌とウイルスは違うものですので。
しかし、新型コロナウイルスによって肺や気管支がダメージを受けたところに、二次的に肺炎球菌が感染しやすくなるということは想定されます。
これはインフルエンザウイルスでも同様の考え方があって、インフルエンザウイルスにかかると肺炎球菌性肺炎を合併してしまうこともあるんです。
このとき、もし肺炎球菌ワクチンを接種していれば肺炎球菌感染症を回避できるというわけ。
それでは肺炎球菌ワクチンを打つことで、新型コロナウイルス感染症に対する効果はあるのでしょうか?
肺炎球菌ワクチンとインフルエンザワクチンを接種することによって新型コロナウイルスによる合併症、死亡率を低下させる可能性について論評した報告があります。(Vaccine 2020; 38, 5398-5401)
こちらの報告によると
インフルエンザワクチンを接種することによって、COVID-19 とインフルエンザウイルス共感染による死亡を減らせる確率=0~36%
ニューモバックス®を接種することによって、COVID-19 と肺炎球菌共感染による死亡を減らせる確率=0~10%
確率的には決して高くありませんが、インフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンを接種することによってCOVID-19 感染症による死亡率を低下させる可能性がある、と言っています。
高齢者への肺炎球菌ワクチンは直接的ではないにしろ、新型コロナウイルス感染症による死亡を減らせるかもしれないということですね。
まとめ
肺炎球菌とコロナウイルスの違い、肺炎球菌ワクチンの種類、肺炎球菌ワクチンのCOVID-19 への効果についてまとめました。
直接的ではないにしろ、肺炎球菌ワクチンやインフルエンザワクチンを接種しておくことによって、新型コロナウイルスにかかってしまった場合でも万が一の事態は避けられるかもしれません。
ニューモバックス®はもともと65歳以上の方には定期接種が認められていましたが、接種率が30%くらいだったので、これを機に意識が高まっているというのは良いことだと思います。
出荷調整ということですが、現在増産されているようですので、必要な方に早く適切に行き届くように薬剤師として関わりたいと思います。
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