SGLT2 inhibitorに注目が集まっています。
2型糖尿病以外にも1型糖尿病、心不全にも適応取得しただけでなく、今後CKD(慢性腎臓病)にも適応が拡大していく見込みです。
【新着記事】
— 前田雄樹|AnswersNews編集長 (@answers_news) September 8, 2019
糖尿病治療薬として開発されたSGLT2阻害薬に、「心・腎保護薬」としての期待が高まっています。心不全や腎臓病への適応拡大に向けた開発が進む中、有効性を示すエビデンスが相次いで発表。低調だった市場も本格的な拡大期に入ってきました。https://t.co/vjaWpLXADL #AnswersNews
糖尿病専門医以外からも処方される機会が増えることが予想されますが、この薬なかなか使いこなすのが難しいくせものです。
その理由は副作用。
さてあなたはSGLT2 inhibitorの副作用を説明できるでしょうか?
今回はSGLT2 inhibitorの副作用についてまとめます。
【この記事を書いた人】
病院薬剤師です。医療やくすりに関する正しい情報を提供するように心がけています。
SGLT2 inhibitorの歴史
国内で最初にSGLT2 inhibitorが発売されたのは2014年4月。
5成分6製品が相次いで発売されました。
イプラグリフロジン(製品名:スーグラ)
ダバグリフロジン(製品名:フォシーガ)
ルセオグリフロジン(製品名:ルセフィ)
トホグリフロジン(製品名:アプルウェイ、デベルザ)
カナグリフロジン(製品名:カナグル)
2021年2月時点ではこれにエンパグリフロジン(製品名:ジャディアンス)を加えた6成分7製品が発売されています。
さらに最近はDPP4阻害薬と呼ばれる糖病病薬との合剤も登場しています。
テネリグリプチン+カナグリフロジン(製品名:カナリア配合錠)
シタグリプチン+イプラグリフロジン(製品名:スージャヌ配合錠)
リナグリプチン+エンパグリフロジン(製品名:トラディアンス配合錠)
作用機序としては、簡単に言うと尿中に排泄されたブドウ糖を再吸収させることなく、そのまま流してしまえ!という薬。
これまでの糖尿病薬にない作用機序ということで注目が集まりましたが、実は発売直後に副作用が相次いだため、発売後わずか2か月後の2014年6月13日に「SGLT2阻害薬の適正使用に関するReccomendation」が発表になりました。
このReccomendationは当時からSGLT2 inhibitorの副作用の注意点について分かりやすく解説されていて、現在でもアップデートが続いています。
SGLT2 inhibitorの注意すべき副作用
Reccomendationに基づいて解説します。
重症低血糖
SGLT2 inhibitorはインスリンやSU剤、グリニド剤との併用で重症の低血糖が多いことが指摘されています。
特にインスリンを併用する場合は万全の注意を払うべきとしています。
それはSGLT2 inhibitorを使用するとインスリンの効き目が急激に良くなるためです。
インスリンやSU剤、グリニド剤を併用する際は以下のように投与量を調節する必要があります。
1型糖尿病の場合には、逆にインスリンを減らしすぎることによるリスクもありますので専門医でないと使いこなすのは難しいでしょう。
ケトアシドーシス
ケトアシドーシス(DKA)とは、インスリンが不足する、またはインスリンに拮抗するホルモン(グルカゴン)が多すぎることで、
- 血糖が異常に高くなる
- ケトーシス(高ケトン血症)
- アシドーシス(体液が酸性に傾く)
といった状態になることです。
全身倦怠感や口渇などの高血糖症状に加えて、嘔気・嘔吐、腹痛、過呼吸などの症状が出ます。
最悪、昏睡で死に至ることもあります。
DKAは1型糖尿病患者さんがインスリンを打ち忘れたり、自己中断してしまうことで多くみられるのですが、
2型糖尿病患者さんでも
- 大量の糖質(ソフトドリンク)摂取
- 感染症+ステロイド内服
- インスリン中断+SGLT2 inhibitor内服
で起こることもある副作用です。
2018年12月にSGLT2 inhibitorが「成人1型糖尿病におけるインスリン製剤との併用療法」に適応追加されたことに伴い、SGLT2 inhibitorによるDKAの報告が増加しています。
また、臨床試験では
- アルコール多飲者
- 感染症や脱水
- 女性・非肥満・やせ(BMI<25)
に該当する方はケトアシドーシスになりやすいということが報告されています。
ちなみに「成人1型糖尿病におけるインスリン製剤との併用療法」については海外では、欧州がBMI27以上に限定、米国では承認が見送りになっており、日本の規制が甘いとする指摘もあります。
正常血糖ケトアシドーシス
さらに厄介な副作用として正常血糖ケトアシドーシス(euglycemic DKA)があります。
これはどういうことかというと、SGLT2 inhibitorの作用機序に関係しています。
通常のDKAは血糖値が250以上という定義なのですが、SGLT2 inhibitorを服用している場合、尿糖として排泄されているため血糖値が上昇しません。
そのため、
DKAっぽいんだけど血糖正常なんだよね・・
DKAとは違うな・・
といった診断の遅れにより昏睡につながるというおそれがあるんです。
ReccomendationによるとSGLT2 inhibitor服用中のDKAの35.2%がeu DKAであったとのことですので、処方医にはこうしたリスクがあることを認識したうえで、SGLT2 inhibitorを使ってもらいたいですね。
また、周術期にはストレスや絶食によりケトアシドーシスが起きやすい状況になります。
そのため、手術が予定されている場合には術前3日前から休薬し、術後食事が十分できるようになってから再開という点もアップデートされています。
脱水、脳梗塞
これまでの大規模臨床試験や市販後調査ではSGLT2 inhibitorが脳梗塞を増加させるというエビデンスはないようですが、ReccomendationではSGLT2 inhibitorを服用すると体液が減少するので、水分補給の指導と脱水が脳梗塞などの血栓・塞栓症を起こし得ることについて注意すべきとしています。
さらに利尿薬を併用する場合はリスクが高くなると思われますし、高齢者でサルコペニア、認知機能低下、ADL低下があるような方の場合は水分が十分に摂れるかどうかの見極めも重要としています。
ちなみにシックデイ(発熱、下痢、嘔吐があるとき、食事が摂れないとき)のときにSGLT2 inhibitorをどうすれば良いかは知っていますか?
シックデイの際はメトホルミン同様、SGLT2 inhibitorは必ず中止しなくてはいけません。
メトホルミンは脱水で乳酸アシドーシスを引き起こす可能性がありますので、SGLT2 inhibitorと併用する場合はよりいっそう患者教育に力を入れる必要がありますね。
皮膚症状
SGLT2 inhibitorで出現する皮膚症状のほとんどは軽度ですが、粘膜(眼結膜、口唇、外陰部)に皮疹(発赤、びらん)を認めた場合は重症の薬疹の可能性があります。
多くは投与開始日~2週間以内に発症するようです。
海外では外陰部、会陰部の壊死性筋膜炎(フルニエ壊疽)による死亡例も報告されており、2018年9月18日にはFDAが警告を発表しました。
頻度の少ない副作用ではありますが、SGLT2 inhibitorにはこうしたリスクもあることは知っておきましょう。
尿路・性器感染症
治験時から関連が認められていた副作用ですが、市販後も多数の尿路感染症、性器感染症の報告があります。
尿路感染症は腎盂腎炎、膀胱炎
性器感染症は外陰部膣カンジダ症
です。
女性に多いこと、発現時期が多様なことに注意が必要です。
まとめ
SGLT2 inhibitorの注意すべき副作用についてまとめました。
中でも正常血糖ケトアシドーシス(eu DKA)は知らないと気が付けない非常に重要な副作用だと思います。
薬剤師としては、SGLT2 inhibitor服用中の患者さんには
- シックデイ時の対応
- 極端な糖質制限をしない
- 水分補給
- アルコールの大量摂取
- 周術期の対応(術前3日前から食事安定するまで中止)
といった点を意識した指導を心がけると良いのではないでしょうか?
Let’s Try!!
コメント