抗生物質もらったけど、三日間飲んだら良くなっちゃったからやめて次の時に残しておこう。
薬局では飲み切るように言われたけど、副作用怖いから早めにやめちゃったほうが安全よね。
だれしも一生に一度はお世話になる抗生物質。
飲んでる途中で良くなったから、薬を飲むのをやめちゃったという経験ありませんか?
抗生物質は最後まで飲み切るように!と言われても、ついつい余らせてしまいがち。。
実は抗生物質を飲み切るのにはきちんとした理由があるんです。
今回は抗生物質を三日間飲んで良くなったらやめていいのか?について解説します。
【この記事を書いた人】
病院薬剤師です。医療や薬についての正しい知識を提供します。
抗生物質をきちんと飲まくてはいけない理由
将来子供、孫世代に使える抗菌薬がなくなってしまうかも?は冗談抜きでホントに起こりうる話。
— 管理人 (@管理人901619361) November 19, 2020
耐性菌だらけになったら手術も移植もできないし、肺炎になっても助からないのよ。。
抗菌薬(抗生物質)は大切に使わないといけないのです。 https://t.co/0wiShGrbTc
あなたが抗生物質をもらうときにはたいてい薬剤師に「飲み切ってください」「飲み忘れないでください」と言われると思います。
そもそも抗生物質はなぜきちんと飲まなくてはいけないのでしょう。
例えば、血圧の薬を飲み忘れると一時的に血圧は高くなるにしても、次に飲んだ時にはまた同じように効きますよね?
痛み止めにしても、胃薬にしても、多くの薬は飲むのをやめたからといって効かなくなることはありません。。
でも抗生物質は違います。飲み忘れがあると効かなくなってしまうんです。
どういうことかというと、飲み忘れたことによって抗生物質は体内に少しだけ残ります。
すると、中途半端に残った抗生物質に対して細菌が抵抗を示し始めます。
いわゆる「耐性獲得」です。
細菌は常に進化しているので、新しい抗生物質が出てきてもすぐに耐性を獲得してしまうんです。
歴史的にもこれまで人類が開発してきた抗生物質全て耐性菌が出現しています。
ですので抗生物質を飲み忘れるということは、あなたが次に感染症にかかった場合、あなたに使える抗生物質が少なくなっていくということ意味しているんです。
今は健康だったとしても
- 高齢になって肺炎に罹ったとき
- 手術で傷口からの感染症を予防したいとき
- がんの治療で免疫力が落ちたとき
あなたに使える抗生物質がなかったらどうしますか?
問題はあなただけでなく、将来の子供たちにも影響します。
将来も薬が使えるようにできるだけ耐性菌をつくらないため。
これがあなたが抗生物質をきちんと飲まなくてはいけない理由です。
抗生物質と細菌とウイルス
抗生物質は別名「抗菌薬」とも呼ばれ、感染症の治療に使われる薬です。
「抗菌薬」はその名のとおり「菌」すなわち細菌に対して効果を発揮します。
実は多くの人が誤解していることなのですが、細菌とウイルスは違う微生物です。
では何が違うのか?
簡単に言うとウイルスの構造は単純ですが、細菌の構造は複雑ということです。
複雑といっても人間ほど複雑ではありませんが(^^;
細菌は「細胞壁」と呼ばれるバリアで強固に覆われていますが、ウイルスにはすぐ破れてしまうような膜があるだけです。
抗生物質の多くはこの「細胞壁」を狙って効き目を発揮しています。
ウイルスには「細胞壁」というターゲットがないので、いくら抗生物質を投与しても無効です。
つまり抗生物質は細菌にしか効果がなく、ウイルスには効果はないということです。
ちなみに・・ウイルスに効く薬は、抗生物質ほど種類が多くありません。
なぜかというと、ウイルスは人や動物の細胞の中に入り込んで生き永らえようとするのですが、細胞の中に入り込んだウイルスをターゲットにしようと思うと、どうしても宿主(感染した人)の細胞まで傷つける(副作用を起こす)可能性があるから。
コロナウイルスにしてもなかなか画期的な新薬が出てこないにはこうした理由もあるんですね~。
風邪に抗生物質は効かない
抗生物質はウイルスに効かない、というお話をしたところで風邪について考えてみます。
風邪の定義は「自然に良くなる上気道のウイルス感染症」です。
風邪を引き起こすウイルスには
- アデノウイルス
- RSウイルス
- ライノウイルス
- ・・・
等々たくさんあるのですが、前述したようにウイルスが原因ですから当然風邪に抗生物質は効きません。
抗生物質を飲んだから良くなった、という人がいますが、そもそも風邪は自然に良くなる疾患ですので抗生物質を飲まなくても良くなったはずなんです。
ウイルス性疾患にむやみに抗生物質を使うこと、これこそが耐性菌を増やす温床です。
抗生物質を将来に大切に残しておくために、われわれ医療従事者は風邪の患者さんに抗生物質を出さないように努力しなければいけませんし、患者さん側も念のための抗生物質を医師に求めないという姿勢が大事なんです。
抗生物質の正しい飲み方
抗生物質の飲み方は2種類
抗生物質の正しい使い方(飲み方)について知っておくことは、耐性菌をつくらないということにつながります。
抗生物質にはそれぞれ最適な飲み方があります。
いろいろな種類の薬がありますが、大きく分けると2種類。
1日1回で飲む薬と1日3~4回に分けて飲む薬です。
専門的な言葉を使うと、
- 1日1回飲む薬・・濃度依存性の薬
- 1日3~4回に分けて飲む薬・・時間依存性の薬
です。
濃度依存性の代表的な抗生物質はクラビット(レボフロキサシン)です。
この薬はまとまった量を1回で飲むことによって効果を発揮します。
ですので、1回量を少なくしたり、1日量を分割して飲んだりすると効果が落ちてしまいます。
もう一つの時間依存性の代表的な抗生物質はサワシリン(アモキシシリン)です。
その他にもたくさんありますが、1日3回の指示がある抗生物質は時間依存性の薬と思っていただいてOKです。
この系統の薬はなるべく細菌と薬の接触時間を長くすればするほど効果を発揮します。
そのためなるべく回数を細かく分ける必要があります。
大事なことはとにかく飲み忘れを減らすこと。
飲み忘れの間隔が長くなればなるほど、細菌は再増殖してきますからね。
- 飲み忘れに気がついたらその時点で服用する
- 食事と一緒に置いておく
など意識して服用することが大切です。
学校や保育園など昼が飲めない場合もあると思いますが、そういった場合は長く効くタイプ(1日2回で済む)もありますので主治医に相談してみましょう。
三日間飲んで良くなったらやめていい?
ここまで読んでいただければ上記の答えは分かりますよね。
仮に抗生物質を一週間処方されたとして、三日間で良くなったとしても飲むのをやめてはいけません。(副作用があった場合は別)
中途半端にやめることであなたの体内で耐性菌が出現してくるおそれがあるからです。
- 余った薬をあとから同じ症状がでた時にとっておく
- 他人に渡す
こうした行動はアウトですよ!!
薬剤耐性とワンヘルス(One Health)という用語があります。
耐性菌は人間だけの問題ではありません。家畜でも同じように耐性菌が問題となっています。
手指や環境表面、排泄物などを通じてヒトからヒト、家畜からヒトといったように伝播していきますし、環境を介して野菜を汚染することもあり得ます。最終的には我々の食生活にも影響する可能性もあるんです。
あらゆる方向から耐性菌についての問題を考える必要があるというのがワンヘルスの考え方です。
AMRリファレンスセンターではこうした耐性菌や抗生物質の適正使用についての啓蒙活動をしていますので、是非一度サイトをご覧ください。
まとめ
抗生物質を途中でやめてはいけない理由がお分かりいただけたでしょうか?
新薬は市場にどんどん出てきますが、抗生物質の新薬はほとんど出てきません。
私たちが使える武器には限りがあります。
今ある抗生物質を大事に使う、耐性菌を増やさないために処方された抗生物質はしっかり最後まで飲み切りましょうね。
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