AMR(薬剤耐性)対策アクションプランをご存知でしょうか?
2016年5月に開かれた伊勢志摩サミットでは、耐性菌対策の重要な柱として抗菌薬の適正使用の重要性が叫ばれています。
「抗菌薬は大事に使う」
これこそがAMR対策で求められていることですが、果たしてうまく使いこなせているでしょうか?
静注薬は使い慣れていても、経口抗菌薬は苦手という方もいるのでは?
今回は医師・薬剤師が使いこなすべき経口抗菌薬一覧について解説します。
【この記事を書いた人】
病院薬剤師です。医療や薬についての正しい知識を提供するように心がけています。
Antimicrobial Stewardshipと経口抗菌薬
米国感染症学会(IDSA)の抗菌薬適正使用(Antimicrobial Stewardship:AS)ガイドラインでは、ASを推進するための戦略の一つとして経口抗菌薬の活用を挙げています。
H. Parenteral to oral conversion. A systematic plan for parenteral to oral conversion of antimicrobials with excellent bioavailability, when the patient’s condition allows, can decrease the length of hospital stay and health care costs (A-I). Development of clinical criteria and guidelines allowing switch to use of oral agents can facilitate implementation at the institutional level (A-III).
https://academic.oup.com/cid/article/44/2/159/328413
すなわち、経静脈投与→すぐれた吸収率の経口抗菌薬への切り替えは入院期間の短縮とコスト削減につながる
というのです。
その他にも、経静脈内投与→経口抗菌薬に変更することで
①点滴に関連した合併症減少
②薬剤部や看護部における薬剤の調製に関わる時間やコスト削減
③入院期間の短縮
④薬剤購入費や投与に関わるコスト削減
⑤患者快適性の向上
につながるという報告もあります。
メインの補液がないのに1日3回の点滴抗菌薬が続けられているケース、意外とあるあるだったりしませんか?
経口抗菌薬へのスイッチはASの観点からも推進していくべきこととガイドラインで謳われているのです。
経口抗菌薬へ切り替えて大丈夫?
そもそも経静脈内投与→経口抗菌薬に切り替えて安全なのでしょうか?
これについてはCOMS criteriaという指標がよく用いられています。
COMSとは
C:Clinical improvement observed
臨床症状が改善していること
O:Oral route is not compromised
経口投与が嘔吐、吸収障害、飲食禁止、嚥下障害、意識障害、重度の下痢で妨げられることがなく、適切な経口抗菌薬の選択肢があること
M:Markers showing trend towards normal
・ 下記のパラメーターが正常値まで改善しつつある
・ 24時間解熱を維持している(>36℃かつ<38℃) ・ さらに下記の項目を2つ以上満たさない 1)脈拍数 > 90/分
2)呼吸数 > 20/分
3)血圧が不安定
4)白血球数 <4,000/μLまたは >12,000/μL
S: Specific indication/deep seated infection requiring prolonged iv therapy
静注抗菌薬の長期間治療が必要な疾患(感染性心内膜炎、髄膜炎、骨・関節の感染症)ではない
これらを満たしていれば概ね安全に経口薬スイッチは可能ということです。
海外の論文では静脈内投与後48-72時間を目安に経口薬スイッチを考慮するという報告が多いようですね。
経口抗菌薬とバイオアベイラビリティ
経静脈内投与→経口薬スイッチをしたいとき、あるいは外来で経口抗菌薬を開始したいときに重要なのがバイオアベイラビリティです。
バイオアベイラビリティとは、経口で入った薬が実際に体内でどのくらい使われるのか?を表した指標、で薬によって異なります。
バイオアベイラビリティが100%に近ければ近いほど静注抗菌薬と同等の効果が期待できるので、使いこなすべき経口抗菌薬も必然的にバイオアベイラビリティの良い抗菌薬が選ばれるということになります。
使いこなすべき経口抗菌薬一覧
それでは医師・薬剤師が使いこなすべき経口抗菌薬7種類をご紹介します。
アモキシシリン(AMPC)
古くて新しい薬、ペニシリンの代表的な薬です。
ペニシリンを使ったことがない、触ったことがない医師・薬剤師もいるかもしれませんが、ペニシリンこそ基本中の基本。
初回治療で使うことは少ないかもしれませんが、培養結果でペニシリン感受性があることが確認できていれば、積極的に使うべきです。
連鎖球菌に対する殺菌効果はペニシリンが一番で、耐性を心配する必要はありません。
狭域なので薬剤耐性出現を防止できますし、腸内細菌叢への影響も少ないのでCD腸炎のリスクが低いです。
Ccr30以上であれば1回500mgを1日3回が基本ですね。
アモキシシリン・クラブラン酸(CVA/AMPC)
単剤よりはアモキシシリンとの併用療法、いわゆるオグサワ療法で使用される場面が多いです。(CVA/AMPC単独ではAMPCの量が少ないため)
βラクタマーゼ阻害剤が入っているおかげで、黄色ブドウ球菌、グラム陰性菌(大腸菌、クレブシエラ、インフルエンザ桿菌、モラキセラ)、嫌気性菌など微生物の守備範囲が広くなっていますので誤嚥性肺炎や皮膚軟部組織感染、動物咬傷にも適しています。
動物咬傷のときは破傷風トキソイドも忘れずに打ちましょう。
静注薬のセフトリアキソン(CTRX)やセフメタゾール(CMZ)からの切り替えが可能なこともあるかもしれません。
地域によっては感受性が悪い場合もあるので、施設のアンチバイオグラム(各抗菌薬の感受性率をまとめたもの)は確認しておきましょう。
セファレキシン(CEX)
主なターゲットは黄色ブドウ球菌(MRSA以外)と連鎖球菌。
丹毒や蜂窩織炎のような皮膚軟部組織感染に適しています。
第一世代セフェムですのでセファゾリン(CEZ)からの切り替えができます。
1日3回投与が大変だというときは、徐放製剤のL-ケフレックス顆粒なら1日2回で済むので、アドヒアランスが心配なときはおすすめ。
セフェムと言えば、お馴染みのフロモックスやメイアクトといった第3セフェムを思い浮かべるかもしれませんが、AMRの時代にはこれらの薬はむしろ減らしていかないといけない薬。
むしろ必要なのは第1世代セフェムのセファレキシンなのです!
ST合剤
カバーする微生物の守備範囲が広いのがウリです
尿路感染の原因となるグラム陰性桿菌(大腸菌、クレブシエラなどの腸内細菌やインフルエンザ桿菌、モラクセラ)に活性がある以外に、肺炎球菌、黄色ブドウ球菌にも効果があります。
一方連鎖球菌、嫌気性菌、緑膿菌をカバーしないことには注意が必要です。
最近、尿路感染で最も頻度の高い大腸菌のキノロン耐性が問題となっていますが、ST合剤のほうが感受性が保たれている場合もあるので、尿路感染症のエンピリックセラピーにはキノロンではなくST合剤のほうが推奨されている施設もあるのではないかと思います。
高K血症、ワーファリンやSU剤の効果増強、薬剤熱に注意しましょう。
レボフロキサシン(LVFX)
みんな大好き(!?)レボフロキサシン。
グラム陽性菌である肺炎球菌、緑膿菌を含むグラム陰性菌全般をカバー。さらに非定型肺炎の原因となるレジオネラ、クラミドフィラ、マイコプラズマにも効果があります。
緑膿菌には経口抗菌薬はキノロン一択です。
500mg1日1回で使いやすいので多くの診療科で処方されますが、キノロンの処方量とキノロン耐性菌は相関しているので、使えば使うほど耐性菌は増えます。
大腸菌のキノロン耐性は減少どころか、年々増加傾向。
そのうちキノロンが使えなくなってしまう時代が本当にやって来るかもしれません。。
中途半端に結核菌もカバーしてしまうので高齢者への安易なキノロンの使用は、結核をマスクするため診断を遅らせてしまいます。
それだけならまだしも死亡リスクまで上げてしまいますから必要な人にしか使ってはいけないんです。
(Int J Tuberc Lung Dis. 2012;16:1162-7.)
ペニシリンやセフェム系とは異なる副作用(消化器症状、中枢神経系、QTc延長、アキレス腱断裂)があります。
アキレス腱断裂はFDAから警告も出ていましたね。
ドキシサイクリン(DOXY)
DOXYはテトラサイクリン系で、バイオアベイラビリティがほぼ100%です。
スペクトルが広く、グラム陽性菌の肺炎球菌、ブドウ球菌、グラム陰性菌ならインフルエンザ桿菌とモラキセラ、その他でレジオネラ、クラミドフィラをカバーしており、何にでも効くイメージ。
ただし、切れ味が良いかと言われるとそうでもなく、細胞内寄生菌が問題となるリケッチア、ライム病、ツツガムシ病など人畜共通感染症以外には第一選択で使用されることはあまりありません。
ただし、キノロンと違って抗結核作用がないので、高齢者の市中肺炎で有用なことも。
知っておいて損はないでしょう。
メトロニダゾール(MNZ)
知る人ぞ知る抗嫌気性菌作用のある経口抗菌薬。バイオアベイラビリティ100%です。
ほぼすべての嫌気性菌をカバーしており、耐性化の心配があまりありません。
他の抗菌薬と併用することでスペクトルを広げることができるので、嫌気性菌が関与する誤嚥性肺炎、肺化膿症、腹腔内膿瘍、骨
盤内膿瘍、慢性副鼻腔炎、歯性感染症などに使用できます。
CFPM+MNZはカルバペネムに匹敵するスペクトルがあるので、カルバペネム温存するためのレジメンになり得ます。
静注薬にはアネメトロ®がありますが、経口薬フラジール®にくらべてだいぶ高価なので、経口のほうが患者負担が少なくて済みます。
高用量で長期間使用していると中枢神経症状が出やすくなることに注意します。
まとめ
医師・薬剤師が使いこなすべき経口抗菌薬7つについてまとめました。
経口抗菌薬をうまく使えば、静注抗菌薬の減少、入院期間の短縮、患者満足度の向上などさまざまな利点があることが分かりましたね。
薬剤耐性の観点からも経口抗菌薬はバイオアベイラビリティの良いものを選ぶ必要があります。
紹介した経口抗菌薬はどれも長い間使用されていて実績は十分。
抗菌薬の新薬をいざというときの最終手段にとっておくためにも、こうした古い薬を大事に使っていきたいですね。
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