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ゼオマイン登場!ボツリヌス療法の適応疾患は?

ゼオマイン登場 ボツリヌス療法の適応疾患は?新薬関連
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ボツリヌス療法をご存知でしょうか?

巷では割と有名で、美容整形などでしわ取りや肩こりに打ってもらっている人がいると聞きます。

美容目的に気軽に受けられるイメージのボツリヌス療法ですが、もともと毒素(トキシン)からできているってご存知でしたか?

ボツリヌス療法は本来は美容業界でなく医療現場で使われていた薬。
毒素というくらいなので、その管理はとても現場ではとても厳重です。

さらに2020年11月には上肢痙縮(けいしゅく)に対する新たな治療薬「ゼオマイン®」も薬価収載になり、使用機会が増加することが予想されます。

今回はボツリヌス療法に使われる薬とその適応疾患、注意点についてまとめてみました。

【この記事を書いた人】

管理人
管理人

病院薬剤師です。

医療や薬についての正しい知識を提供するように心がけています。

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痙縮(けいしゅく)とは?

痙縮ってあんまり聞きなれない言葉ですが、簡単に言うと「手足の筋肉のつっぱり」のことです。

筋肉が緊張しすぎてしまうということですね。

具体的には

  • 手の指が握ったままで物がつかみにくい
  • 肘が曲がってしまい、服を脱いだり着たりしにくい
  • 足先が足の裏側のほうに曲がってしまい歩きにくい

などの症状がみられます。

出典:脳卒中の後遺症「痙縮(けいしゅく)」とは | 手足のつっぱり「痙縮」情報ガイド (keishuku.jp)
管理人
管理人

人によってはけいれんの痛みで眠れない、ということもあるくらい患者さんにとっては苦痛な症状なんです。

痙縮の原因、疫学

痙縮が起こる原因は何なのか?というと以下のようにさまざま。

  • 脳卒中
  • 脳性麻痺
  • 頭部外傷
  • 無酸素脳症
  • 脊髄損傷
  • 多発性硬化症
  • 神経変性疾患

このうち最も多い原因が脳卒中です

疫学的には脳卒中患者の35%以上が痙縮を有するという海外の報告があります。

H26年度の厚生労働省の調査によると、日本の脳卒中患者数は約104万人と報告されていますので、日本の脳卒中後の痙縮患者は約36万人と推定されています。(ゼオマイン®審査報告書より)

痙縮の治療法

痙縮の治療としては

  • 内服薬(バクロフェン、エペリゾン、ダントロレン、チザニジンなど)
  • 神経ブロック療法(フェノール、エチルアルコール、ボツリヌス毒素)
  • バクロフェン髄腔内療法
  • 外科的療法

があります。

選択肢としてはいくつかあるのですが、この中で最もよく使用されているのがボツリヌス療法です。

ボツリヌス療法とは?

出典:ボトックス 開発の経緯|医療関係者向け情報 GSKpro

なぜボツリヌス療法が汎用されているのか?というと

  • 手技が簡便
  • 副作用が比較的少ない(運動神経のみに作用するので感覚神経障害を起こす心配がない)
  • 日本や海外のガイドラインで痙縮に対する標準的な治療として記載されている

からです。

ボツリヌス療法は、ボツリヌス菌が作り出す天然のたんぱく質(ボツリヌス毒素)を筋肉内に注射する治療法です。

「毒素」と聞くとあまり良くないイメージが湧くと思いますが、そもそもボツリヌス毒素は食中毒を起こすことで有名な細菌で、ボツリヌス毒素を含んだ食品を食べることで筋肉が麻痺して、重症の場合は呼吸筋が麻痺して死亡することもあるくらい恐ろしい毒素なんです。

そんな性質ゆえ、現場では講習・セミナーを受けた医師しか使用できませんし、ボツリヌス療法を受けている最中の患者さんの詳細なデータの提出が求められます。
また、使いおわった薬の廃棄方法も定められているなど厳重な管理のもとで運用されているんです。

とはいえ、医薬品として使用されるボツリヌス療法自体は極めて微量ですので過度な心配は不要なのですが、このような背景がある薬であるということは知っておいて頂きたいですね。

ボツリヌス療法の作用機序

出典:治療法 | 手足のつっぱり「痙縮」情報ガイド (keishuku.jp)

ボツリヌス療法の作用機序としては、ボツリヌス毒素が神経に作用することで筋肉が弛緩(ゆるむ)ことを利用しています。

薬理学的にはアセチルコリンという神経伝達物質が出るのを、ボツリヌス毒素が遮断するので神経伝達が起こらないという原理です。

この薬が使えるようになったことによって、脳卒中をはじめとした神経疾患で痙縮が起こった患者さんの日常生活やリハビリ、介護がしやすくなったり、関節が固まって動きにくくなったり変形するのを防いだり、痛みを和らげたりすることができるようになりました。

また、アセチルコリンは汗の分泌に関わっているので、腋窩多汗症(汗が出すぎる症状)を和らげる目的で使用されることもあります。

ボツリヌス療法の適応は?

ボツリヌス療法に使用されるボトックス®は長い歴史をかけて多岐にわたって適応を追加してきました。

その歴史を見てみると

1977年 米国のScottがA型ボツリヌス毒素を初めて斜視に対して臨床応用

1996年 眼瞼痙攣の適応で日本で発売 
2000年 片側顔面痙攣
2001年 痙性斜頸
2009年2月 2歳以上の小児脳性麻痺患者における下肢痙縮に伴う尖足
2010年10月 上肢痙縮および下肢痙縮
2012年11月 重度の原発性腋窩多汗症
2015年6月 斜視
2018年5月 痙攣性発声障害
2019年12月 既存治療で効果不十分又は既存治療が適さない過活動膀胱における尿意切迫感頻尿及び切迫性尿失禁、既存治療で効果不十分又は既存治療が適さない神経因性膀胱による尿失禁

といった感じ。

管理人
管理人

ボツリヌス毒素がこんなにいろんな疾患に使用されているなんて凄くないですか?

新規ボツリヌス療法(ゼオマイン筋注用)の登場

出典:ゼオマイン筋注用 TEIJIN Medical Web 帝人ファーマ株式会社 (teijin-pharma.co.jp)

これまでボツリヌス療法はボトックス®だけでしたが、2020年11月に新たなボツリヌス毒素製剤、ゼオマイン筋注用®が薬価収載になりました。

ボトックス®とゼオマイン®の違いは、ゼオマイン®のほうがより純度の高いボツリヌス製剤であるという点です。

ボトックス®は神経毒素成分であるA型ボツリヌス毒素と無毒性成分の複合タンパク質なのですが、中和抗体が産生されやすいため投与を続けると効果が弱まるという現象が見られていました。

そのため、効果が弱まるのを避ける目的で投与間隔を12週間以上あけるという規定がありました。

さらにこの12週間以内に効果がなくなった場合には再投与できないという制限もありました。

ゼオマイン®は純粋なA型ボツリヌス毒素でできているので、

中和抗体で効果が弱まるという可能性が低い

症状に応じて投与間隔を10週に短縮可能

冷所で保存する必要がない

というのが売りです。

ゼオマイン®の適応、薬価は以下のとおりです。

効能・効果:上肢痙縮
薬価:
50単位1瓶   1万8707円
100単位1瓶  3万4646円
200単位1瓶  6万8922円

室温保存可能

管理人
管理人

ボトックス®の薬価と比較するとかなり安いです。。
(ホントにあってるかな?半額くらいになってない?)

ゼオマイン®の適応はまだ上肢痙縮に限られていますが、すでに欧米を中心に世界70ヵ国以上で承認されている薬で、海外では眼瞼痙縮、痙性斜頸、上肢痙縮、痙攣斜頸、眼瞼痙攣、顔面上部のしわ、流涎症などに適応があるので、日本でも今後適応追加されることが予想されます。

2021年6月24日、ゼオマイン®は上肢痙縮に加えて下肢痙縮の適応が追加になりました。

ボトックス®は300単位でしたが、ゼオマイン®は1回につき400単位まで使用することが可能です。

ちなみに、ボトックス®とゼオマイン®以外にも日本ではナーブロック筋注用2500単位というボツリヌス毒素製剤も医療用医薬品として2011年に承認されています。
ナーブロック®はB型のボツリヌス毒素製剤痙性斜頸にのみの適応になっています。

美容業界で使用するボツリヌス療法

美容業界では額や眉間のしわ取り、肩こり、えら張りなどの治療としてボツリヌス療法が行われていますが、これらは保険適応外となります。

また、多汗症で悩む人にもボトックス®が使用されることがありますが、重度の原発性腋窩多汗症という診断がなければ医療保険で使用することはできません。

製品名としてはボトックス®と同一のA型毒素製剤であるボトックスビスタ®(アラガン・ジャパン株式会社)という製品が、65歳未満の成人における眉間又は目尻の表情じわに使用できますが、こちらも保険適応外なので決して安い治療ではないですね。

ボツリヌス療法の副作用

ボツリヌス療法で注意すべき副作用は、厚生労働省のPMDAのサイト上にある医薬品リスク管理計画(RMP)が参考になります。

ボトックス®のRMPは以下のとおりです。

ボトックス注用RMPより

ゼオマイン®のRMPはこちら。

ゼオマイン筋注用RMPより

ゼオマイン®はボトックス®と比べて中和抗体産生が少ないなど、重要な特定されたリスクは少ないですが、今後適応拡大に伴ってボトックス®同様のリスクが出現することは十分想定されます。

特にボトックス®では痙性斜頸患者の治療後に高頻度に嚥下障害が発生するとの報告(ボトックス®RMP)や注射後にけいれんを起こすといった副作用がありますので、ゼオマイン®でも注意すべき副作用と思われます。

もしボツリヌス療法で副作用が出たとして、厚生労働省が認めた使用方法の範囲内で起きた副作用であると認められれば医薬品副作用救済制度で補償を受けることができます。

一方で

  • 適応症以外の目的でボトックス®やゼオマイン®を使用した場合
  • 美容目的にボトックス®やゼオマイン®を使用した場合
  • ボトックスビスタ®を眉間や目尻のしわ取りではなく、額のしわ取りに使用した場合

医薬品副作用救済制度を受けることは出来ませんので、あらかじめ主治医とよく相談のうえ治療するかしないかを決めることが大切です。

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まとめ

ボツリヌス治療の適応は痙縮以外にも多岐に広がってきており、ゼオマイン®の登場でさらに治療の恩恵を受けられる患者さんが増えると予想されます。

美容業界でも汎用されていて何となく軽い気持ちで治療を始める方もいるかもしれませんが、もともとは毒素から作られている薬。
医療現場ではかなり厳重な管理が求められている薬ということはお忘れなく。

薬剤師の立場としては、副作用を十分理解していただき、万一の際の救済制度についても正しく知ったうえで治療に臨んでいただきたいと思います。

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