糖尿病治療では避けては通れない副作用である低血糖。
治療を開始すると低血糖に備えてジュースを摂るように指導されると思いますが、どんな種類のジュースが良いか知っていますか?
さらに、重症の低血糖が起きた場合に使用できる新薬が出たことはご存知でしょうか?
今回は低血糖時にとるべきジュースと、2020年10月2日発売の低血糖時救急治療剤「バクスミー点鼻粉末剤3mg」についても紹介します。
【この記事を書いた人】
病院薬剤師です。
医療についての正しい知識を書くように心がけています。
低血糖とは?低血糖の症状は?
低血糖とは、血糖値が正常値より低い状態( 一般的には70mg/dL未満)をいいます。
症状としては
- 動悸
- 生あくび
- ふるえ
- 空腹感
- 気分不良
- めまい
- 冷や汗
- 眠気
があります。
さらに重症の低血糖(特に54mg/dL以下)になると
- 意識が遠くなる
- けいれん
- 昏睡(意識を失い、刺激に反応しない状態)
となり、一刻を争う緊急事態です。
普段から低血糖気味の人は、体が慣れてしまい初期症状があらわれにくくなります。
そのため低血糖に気づかず、そのまま意識を失ってしまうという状態になりやすいです。
低血糖が起こるきっかけは?
低血糖を起こすきっかけはいろいろあります。
- 薬の種類や量、タイミングの間違い
- 食事の量が少ない
- 食事の時間が遅れる
- 激しい運動、長時間の運動
- 飲酒
- 入浴
重症の低血糖は本当に命に関わります。
仮に命が助かったとしても、低血糖状態が長く続くと脳に障害を残す可能性があるので大変危険です。
低血糖を経験したなら、いつ、どこで、何をしている時に起きたのか?、どんな症状だったのか?をきちんと把握しておきましょう。
低血糖時に飲むべきジュース
低血糖の時には吸収の良いブドウ糖や、糖を含むジュース、スティックシュガーをただちにとります。
(チョコレートやアメは吸収されるのに少し時間がかかってしまうので、これらがない場合に選択します)
ブドウ糖にすると10~15g程度必要です。
では具体的にどんなジュースが良いのでしょうか?
代表的なジュースと含まれるブドウ糖の量は以下のとおりです。
炭酸飲料はブドウ糖の量が多いことが分かりますね。ファンタは半分程度でブドウ糖10g補給できます。
また低血糖時に適したジュースを比較した論文があったのでスライドにまとめてみました。
やはり炭酸飲料は強いですね。
野菜ジュースに関しては、200mlで多くてもブドウ糖3g程度です。果糖やショ糖も含まれているものの、速効性という部分では効果は落ちます。
一方、人工甘味料を使用した清涼飲料水は低血糖時には対処できないので注意してください。
糖分を摂取したあと15分たっても症状が改善しない場合は追加でとりましょう。
※ちなみにα-グルコシダーゼ阻害薬(アカルボース、ボグリボース、ミグリトールなど)を服用している場合は、砂糖からブドウ糖への分解が遅くなってしまうので、ブドウ糖をとるのが確実です。必ずブドウ糖を手元においておきましょうね。
低血糖時救急治療剤「バクスミー点鼻粉末剤3㎎」
さて、低血糖時にはブドウ糖の補給を、と話しましたが重症の低血糖で意識がない場合にはどうすれば良いのでしょうか?
本人がブドウ糖をとれない場合、周りにいる家族や介護する方の助けが必要です。
これまでは緊急時にはグルカゴン注射液という薬を使っていました。薬液を注射器に吸って針をつけて打つものです。
海外では薬液を吸う必要がないキット製剤になっていて、家族や介護者がグルカゴン注射液を使用できるのが割と一般的なようなのですが、日本では操作が煩雑ということであまり普及していませんでした。
日本で1 型糖尿病患者さんがグルカゴン注射剤を保有している割合は15.9%、そのうち低血糖時の救急処置に使用したことがある患者は6.0%しかいないという報告もあります。(Diabetes Technol Ther 2013; 15: 748-50)
私も患者さんや家族にグルカゴン注射液の使用法を指導した経験はありません・・
今回日本イーライリリー株式会社から発売されたバクスミーは鼻の粘膜から吸収されるため、患者さんに意識がなくても薬剤を吸い込ませることができる薬なんです。
使い方は簡単。
容器から取り出す
点鼻容器の先端を片鼻の穴に差し込む
注入ボタンを押し切る
これだけです。
空打ちも必要ありません。
小児も成人も同じ量を1回噴霧するだけなので、とても分かりやすいですね。
ちなみに、バクスミーは正しく使用されないと効果が発揮されないので、使用された状況、効果が発揮されなかった状況について販売後にも継続して情報収集する活動をすることが決まっています。
緊急時でも適切に使用できるように薬剤師からきちんと指導を受けましょう。
バクスミーの副作用
主な副作用は頭痛、吐き気・嘔吐、鼻の痛み、アレルギー反応(発疹が出たり、息苦しくなる、血圧が下がるなど)です。
臨床試験のデータをみると、死亡に至った例は報告されていませんし、アレルギー反応以外は軽微な副作用という印象です。
バクスミーの成分はそもそもグルカゴン注射液と同じもの。
グルカゴンとしての副作用のデータはこれまで蓄積されているものなので、新たなリスクというのは考えにくいです。
緊急時に使用するものですし、過度に心配する必要はないと思います。
まとめ
低血糖時の対処法と特にジュースを飲むならブドウ糖が含まれているものを、というお話でした。
緊急時に使える新たな薬が出ましたので、安心して糖尿病治療が行えるようになりますね。
もし必要になったら医療従事者はもちろん、周りのご家族も使えるよう準備しておきましょう。
参考文献
1)日本糖尿病学会 編・著. 糖尿病診療ガイドライン2019, 南江堂, 2019
2)日本糖尿病学会 編・著. 糖尿病治療ガイド2020-2021, 文光堂, 2020
3)波多江ら 医学と薬学 第57巻第2号 2007
3)バクスミー点鼻粉末剤使用の手びき(RMP資材)
4)バクスミー点鼻粉末剤審査報告書
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