末梢栄養療法(PPN)の代表的輸液製剤といえばビーフリード輸液。
糖質、アミノ酸、ビタミンB1補給ができるので食べられない患者さんによく処方されますが、正しい使い方はご存知ですか?
使い慣れている輸液製剤でも使い方を誤ると危ない場合があるんです。
今回はビーフリードの正しい使い方について解説します。
【この記事を書いた人】
病院薬剤師です。医療や薬の正しい知識を提供するように心がけています。
ビーフリードのメリット・デメリット
まずビーフリードのメリットとデメリットについて考えてみましょう。
一般的にPPN(末梢静脈栄養)は
- 血管確保が比較的容易
- 食べられない場合にある程度のカロリーが入れられる
- 高カロリー輸液(TPN)に比べてカテーテル関連のトラブルが少ない
のがメリットで一般的な手技として広く普及しています。
ビーフリードはアミノ酸含有の輸液でビタミンB1・ブドウ糖・電解質・アミノ酸が配合されています。
特に1バッグにビタミンB1が1mg入っているのがビーフリードの売りになっています。
同じPPN製剤としては、ビーフリードの他にアミノフリード、ツインパル、パレセーフ、アミグランド、パレプラスといった製剤があります。
ビーフリードを含めたPPNの適応について、JSPENガイドラインでは以下のように記載があります。
①経口摂取や経管栄養は可能であるが、必要量が充足できない場合
②術前の栄養状態が比較的良好で、早期に経口摂取が再開できる場合
③腸閉塞や胃腸炎で一時的に経口摂取を中止するが、短期間で再開されると予想される場合
短期間の使用というのが前提ですね。
一方、デメリットとしては
- NPC/Nが低い(窒素含有率が高い)=高窒素血症のリスクがある
- 1バッグ210kcal/500mL=1日に必要なカロリーを満たそうとすると水分過剰になる
- ビタミンがない、もしくは不足する可能性が高い
- 静脈炎のリスクがある
- 特定の細菌(Bacillus cereus)による汚染のリスクが高い
といった点があります。
ビーフリードは短期間の栄養補給に適した輸液製剤である一方で、こうしたデメリットに注意して使用する必要があります。
ビーフリードと脂肪乳剤の併用
さきほど挙げたビーフリードのいくつかのデメリットをカバーするのが脂肪乳剤です。
脂肪乳剤は10%製剤で1.1kcal/mL、20%製剤で2.0kcal/mLと非常にエネルギー密度が高い、かつ低浸透圧の製剤です。
ビーフリードに脂肪乳剤を併用するメリットは以下の点です。
- 末梢から十分なエネルギーを投与できる
- PPNと同時投与することで浸透圧を下げ、静脈炎の予防ができる
- NPC/N比を適正にできる
ちなみに、静脈炎の発生に影響するのは
- 輸液のpH
- 浸透圧
- 滴定酸度
の3つが主な要因です。(JSPENガイドライン; p33-46)
従ってPPNを投与する際にはできるだけ浸透圧が低く(3以下)、pHが中性に近く、滴定酸度が小さい輸液を選択するのが理想です。その他、血管痛や静脈炎の予防法としては輸液を冷たくしないことも良いようです。
脂肪乳剤自体は浸透圧が低いので、ビーフリードと脂肪乳剤と同時投与することで静脈炎のリスクを低下させることができるというのがポイントです。
またビーフリードのみでは窒素負荷がかかり、効率よくエネルギーを利用できないことから、JSPENガイドラインにはPPNを5日間を超えて投与する場合には脂肪乳剤の併用が有用と記載されています。
実際どれくらいの施設でPPNと脂肪乳剤の併用が行われているのか?というと、井上らの報告によると併用している割合は19.6%に過ぎず、PPNとしてエネルギー必要量が足りていないことが示唆されています。(Medical Nutritionis of PEN Leaders Vol.2 No.1.44-48.2018)
このあたりは栄養療法に関心があるかないか、施設で大きく違いそうな気がします。
2020年12月15日にはビーフリードをベースに脂肪乳剤を配合したエネフリード輸液®が大塚製薬から発売になりました。
うまく使えれば適切な栄養療法に貢献できる製剤になりそうですね。
ビーフリードの輸液汚染
ビーフリードを含むPPN製剤は汚染すると微生物(特にBacillus cereus)が増殖しやすいという重大な問題があることをご存知でしょうか?
Bacillus cereusは環境菌として広く分布していて、病院のリネンや清拭用のタオルからも検出されることが分かっているのですが、とりわけビーフリード内で増殖しやすいです。(医学検査Vol.62 No.1 2013)
国内でも多くのアウトブレイクが報告されています。
そのため、PPN製剤は可能な限り混注しない、側管からの投与も行わない、無菌的な管理を徹底しなければなりません。
また投与時間が長ければ長いほど汚染頻度が高まります。
ビーフリードは500mlを2時間以上かけることとなっていますが、点滴速度が速いと血管痛を訴えたり、静脈炎を起こす患者も多いと聞きます。
多くの施設ではそれ以上の時間をかけてビーフリードを投与しているのではないでしょうか?
しかし12時間キープ、24時間キープなどの方法で投与すると細菌汚染のリスクになるため、6時間あるいは8時間以上かけて投与しないこと、といったルールを施設で定めることも必要と思われます。
輸液汚染しやすいという観点からビーフリードはCVなど高カロリー輸液用のルートを使用しないことについても提言されていることも付け加えておきます。
まとめ
ビーフリードの正しい使い方についてまとめました。
ビーフリードは短期的には蛋白のもととなるアミノ酸とビタミンB1を含有した栄養補給に適した輸液製剤ですが、静脈炎や漫然投与によるエネルギー不足、バシラスによる細菌汚染のリスクがある製剤でもあります。
臨床現場では栄養学的な視点が欠如した輸液療法が行われ、医療従事者自身が医原性サルコペニアの状態を作り出しているという問題があります。
栄養療法はNSTにおまかせ・・ではいけません。
薬剤師もこうしたビーフリードの製剤学的特徴を知って、リスクを回避した最適な輸液療法を提案できるようになりましょうね!
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