眠れなくてずっとデパスを飲んでる患者さんなんだけど、そろそろ中止を考えてます。どうすればよいかな?
デパスをどれくらいのペースで減らしたらいいか減薬の仕方について調べてみますね。
肩こりや不安症だけでなく、睡眠薬としても多くの人に処方されているデパス錠®(一般名エチゾラム)。
最近は診療報酬でベンゾジアゼピン系薬剤の長期使用に対して減算されるようになってきたので、薬剤師がこういった相談を医師からされることも多いのではないでしょうか。
【関連記事】ベンゾジアゼピン系睡眠薬の減薬に取り組んでいる病院は?
今回はデパス®を減らすにあたって、実際にどのような減薬の仕方があるのかについて解説します。
【この記事を書いた人】
病院薬剤師です。医療や薬についての正しい知識を提供するように心がけています。
デパスの依存性
一般的にベンゾジアゼピンの依存性は次の3つで決定されます。
- 投与量(高用量)
- 使用期間(長期間)
- 作用時間(短時間型)
短時間型の薬剤は作用が切れやすく、繰り返し投与する必要があるので依存性が出やすいです。
デパス®は作用時間が短く、高力価なのでベンゾジアゼピンの中でも依存性が高い薬剤というわけ。
ベンゾジアゼピンの離脱症状は通常量で4~6ヵ月服用、あるいは高用量で2~3ヵ月服用していると出やすく、最終服用から12~48時間で始まると言われています。
また患者さん自身がうつ病や不安症を持っていたり、アルコール常用、女性である場合もリスクが高いと言われています。
ベンゾジアゼピン離脱症状は
- 頻脈、高血圧、発熱、発汗
- 不眠、悪夢
- 食欲不振、吐き気、下痢
- 興奮、不安感
- せん妄
- 幻覚
- 振戦
- 耳鳴り、散瞳、光線過敏症、聴覚過敏
というように多彩な症状を呈します。最悪の場合は死に至ることも。
デパス®を減薬していくときにはいろいろなリスクを考えなくてはいけません。
逆に言うとデパス®を始めるのは簡単ですが、「短期間に留める」、「一度睡眠が改善したらすぐに減量することを前提に」しないとやめられなくなってしまいやすい薬でもあるんです。
デパスの減薬の仕方
2014年のJAMAに高齢者に地域の薬剤師が教育をすることによって不適切なベンゾジアゼピンを減薬したという論文があります。
6ヵ月間のフォローでコントロール群の中止率が4.5%だったのに対し、介入群では27%でした。
患者教育をした群では何もしない群と比較して8倍近くオッズ比が高く、NNT(Number Needed to Treat:1人の患者に恩恵が受けられるために何人治療が必要か)が4.35ですので、非常に介入効果が高い結果です。
どのような患者教育を行ったかがこちらの付録に記載されています。
教育用の冊子にはベンゾジアゼピン(ロラゼパム)を服用することのリスク、睡眠薬以外の生活指導、患者体験談などが載っており、最後に減薬スケジュールが図で示されています。
このプロトコールでは最終的になんと!!22週間かけて中止を試みていることが分かります。
睡眠薬をやめるってこんなに大変なんです。
デパス®のような半減期の短い薬剤はいったんジアゼパム、アルプラゾラム、クロルジアゼポキシド、ロラゼパムといった中〜長時間型のものに変更したうえで上記のようなスケジュールで減薬していきます。
他にも1~2週間ずつ25%ずつ減らす、初回に50%減らしその後患者さんの状態を見ながら10%ずつ減らすといった方法もあるようですが、いずれにしてもかなりの時間をかけることが必要です。
繰り返しになりますが、始めるのは容易いがやめるのは難しいんです!
薬だけに頼らない!認知行動療法も知っておこう
薬を中止あるいは減らす過程で同時に行うと効果的な治療があります。
認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy for insomnia 以下CBTi)です。
CBTiとは不眠改善につながることを患者さん自身に「気づいてもらい」「実際に行動をかえてもらい」「たしかに効果があると感じてもらう」ことで、さらに行動変容を起こすという治療法です。
厚生労働省が提示している健康づくりのための睡眠指針12カ条を基本にした睡眠衛生指導の実践や、睡眠日誌の記録、日頃の生活パターンの見直しなどの睡眠教育を専門家のもとで行います。
CBTiは下手すると睡眠薬より効果的な場合もあるくらい。米国では薬より優先して行うべきというスタンスです。
最近では日本の看護師主導でCBTiを行ったという報告もあります。詳しくはこちらの記事もご覧ください。
CBTiについてより深く知りたい方はこちらの本がおすすめです。
まとめ
医師・薬剤師が知っておくべきデパス®の減薬の仕方についてまとめました。
デパス®に限らずベンゾジアゼピン全般に言えることですので減薬の参考になれば幸いです。
入院だと期間が短いのでここまできめ細やかな対応ができませんが、外来や地域全体でこうした取り組みができると本当に必要な患者さんだけに必要な期間だけ使うというのが当たり前になってくるんでしょうね。
参考文献:Management of Withdrawal:Alcohol, Benzodiazepines, Opioids(AOAAM 2018)
JAMA Intern Med. 2014;174(6):890-898
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