「カロナール」という薬をご存知ですか?
いわゆる解熱鎮痛薬としてあまりにも有名な薬で、成分は「アセトアミノフェン」といいます。
風邪(感冒)やインフルエンザウイルス、はたまたコロナ感染症でも処方される機会はあるので、飲んだことがある方も多いかと。
実はこの薬、医療従事者のあいだでは解熱剤としてのイメージが強く、痛み止めとしては「効かない」印象の薬でした。
そんなカロナールですが、最近は痛み止めとして良く効く薬という認識に変わっています。
その理由は「1日最大量が変わったから」なんです。
今回はカロナールの最大投与量の歴史的経緯と注意点について解説します。
【この記事を書いた人】
病院薬剤師です。医療や薬についての正しい知識を提供するように心がけています。
カロナール(アセトアミノフェン)の歴史
カロナールの成分であるアセトアミノフェンは、1873年に米国の生化学者であるHarmon Northrop Morseによって合成されました。
1893年に初めて臨床で使用されたようですので、それから120年以上もの歴史があります。
日本でカロナールが販売されたのは1984年。
その後、医療用医薬品としてだけではなく、市販薬(OTC)も多数販売されています。
例えば、
新セデス錠、バファリンルナJ、パブロンS錠、ジキニン顆粒A、ベンザブロックS錠、エスタック総合感冒、新ルルA、ナロン顆粒・・・
数え切れないほど多くの市販薬に使われていますね。
海外用量との差
医療用医薬品としてのカロナールの1日最大量は2011年1月以前までは1500mgでした。
用法・用量は以下のとおり
「1回300~500mg、1日900~1500mg(年齢、症状により適宜増減)」
カロナール審査報告書より
しかし、海外ではおおむね
「経口で500~1000mg を4~6時間毎に投与し、1日最大4gとする。」
カロナール審査報告書より
となっており、1日最大量では実に日本と3倍近く差があるという現状でした。
この理由は定かではありませんが、当時の承認要件が厳しくなかった?ことや、痛み止めといえばロキソニンなどの非ステロイド性消炎鎮痛薬が主流で、カロナールが注目されていなかったことだと言われています。
こんなに使う量が違ったなんて・・
何となく鎮痛効果としては弱い薬っていうイメージがついちゃったのも分かるね。
カロナールの適用拡大&用量拡大
こうした海外との乖離に対し、2005年11月に日本疼痛学会と日本ペインクリニック学会が、「アセトアミノフェンの鎮痛における薬物適応外使用に関する是正要望書」をPMDA(医薬品医療機器総合機構)に提出しました。
要望内容は以下のとおり
- 疼痛緩和は患者のQOL改善に欠かせないから、比較的安価で安全性に優れた使いやすい鎮痛薬が必要。
- カロナールは安価で安全性評価も高い。海外では鎮痛薬の第一選択薬として認知されているのに日本の承認用量は少なく、これでは十分な効果が得られない。
- カロナールは変形性膝関節症や産婦人科等での術後疼痛に対して適応外使用されているので、効能・効果に変形性膝関節症と術後疼痛を追加してほしい。
この要望を受け、2011年1月にようやくPMDAの審査を経て承認事項一部変更が承認されたという形になります。
こうして現在のカロナールの用法・用量はこのようになっています。
通常,成人にはアセトアミノフェンとして,1回300~1000mgを経口投与し,投与間隔は4~6時間以上とする。なお,年齢,症状により適宜増減するが,1日総量として4000mgを限度とする。また,空腹時の投与は避けさせることが望ましい。
カロナール 添付文書より
関節痛膝関節症に対しては適応追加となったものの、残念ながら術後疼痛に関してはエビデンス不足で適応追加されませんでした。
新剤型の承認
1日最大投与量が4000mgまで投与可能となったわけですが、これをあと押ししたのが
2015年2月に発売された「500mg錠」と2017年2月に発売された「アセリオ静注液1000mgバッグ」です。
実は、500mg錠は2011年1月に承認されかけたのですが、1回が高用量になることによる安全性を評価してからという条件が付いたので承認が延期になっていました。
また、「アセリオ静注液1000㎎バッグ」はもともと水に溶けにくいアセトアミノフェンを点滴製剤として開発に成功した製剤です。
こうして現在はカロナールは高用量使用すれば痛みにも効くという認識に変わってきています。
カロナールの副作用
カロナールは前述の非ステロイド性消炎鎮痛薬と異なり、胃腸障害、腎機能障害をさほど気にすることなく使用できますし、小さいお子さんを含め妊婦さん、授乳婦さんにも安全に使用できる薬です。
高用量飲むことによる副作用として最も懸念されるのは肝機能障害です。
これはカロナールが体内で分解(代謝)されていく際にNAPQI(N-アセチル-p-ベンゾキノンイミン)という物質が生じるためです。
NAPQIは通常は問題なく体内で無毒化されていくのですが、大量になると体が処理しきれず、肝細胞を壊してしまいます。
もともと肝機能が良くない人、高用量を長期間服用する人は定期的に血液検査で肝機能をチェックする必要があります。
カロナールと相性の悪い飲み合わせ
カロナールと相性の悪い飲み合わせはズバリお酒です。
アルコールを飲むことで肝臓の薬物代謝酵素(CYP2E1)がたくさん出てしまい、NAPQIが多く作られてしまうからです。
1999年には埼玉県で保険金を狙って、市販の風邪薬とお酒を大量に摂取させて死亡させるという事件が起きています。
これは風邪薬に含まれるアセトアミノフェンとアルコールを同時摂取したためにNAPQIの肝毒性が出現したから、と言われています。
アメリカでもアセトアミノフェン大量摂取による中毒死の報告があります。
お酒と風邪薬を一緒に飲むのは危ないよ!
また、飲み合わせの悪い薬として
- フェノバルビタール
- フェニトイン
- カルバマゼピン
- リファンピシン
- イソニアジド
は代謝酵素(CYP2E1)をたくさん出す方向に働く薬なので、アルコールを飲むのと同じことが起こり得るんです。
また
- 長期間食事をしていない
- 栄養状態が悪い
- 摂食障害がある
場合は、肝臓の無毒化酵素グルタチオンが不足しているので、カロナールの量を減らす必要もあります。
小児のカロナールの用法・用量
ちなみにお子さんへのカロナールの最大量については
小児科領域における解熱・鎮痛」の効能又は効果に対する1回あたりの最大用量はアセトアミノフェンとして500mg,1日あたりの最大用量はアセトアミノフェンとして1500mgである。
カロナール添付文書より
となっています。
通常は体重あたり10-15mgで、年齢に応じて坐薬、粉薬、錠剤、シロップを選ぶことができます。
生後3カ月以上であればカロナールは安全に使用できますよ。
もしお子さんが高熱を出していても
- おもちゃで遊んでいたり
- テレビを見ていたり
- 良く寝ている
など全身状態が良い場合は、必ずしも解熱剤を使わずに様子をみていても構いません。
逆に
- 食事や水分をとってくれない
- ぐずって眠れない
といった場合はカロナールを使ってあげて様子をみてください。
市販薬の使い方に注意!
カロナールと同じ成分を含む市販薬はたくさんありますが、1錠に含まれる量自体は医療用医薬品と比べると少ないです。
4000mgと聞いて、多く飲んでも大丈夫じゃん!と思われるかもしれませんが、市販薬にはアセトアミノフェン以外の成分が複数含まれいるので多量に服用した際の安全性が保証できません。
くれぐれも医療用医薬品のカロナールと同じように考えないでくださいね。
間違った使い方で副作用が起きたとしても、国の救済制度は受けられませんから。
まとめ
カロナールの最大量について、歴史的経緯と注意点をまとめました。
新薬はどんどん出てきますが、効果はあるものの、高額であったり副作用もある程度は致し方ないというのがほとんど。
カロナールは古い薬でありながら効果・安全性に優れた良い薬です。(WHOの必須医薬品リストにも入っているくらい!)
温故知新。改めて古きよき薬が見直されたことは喜ばしいことですね。
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