このページの要点は以下のとおりです。
・小児の神経発達症に合併する入眠障害に対してメラトベルが承認された
・メラトベルの効果はプラセボと比較して入眠を30分程度短縮
・副作用は傾眠、頭痛等あるが、それほど重篤なものはなさそう
今回はメラトニン作動性入眠改善剤「メラトベル小児用顆粒」についてです。
ノーベルファーマ株式会社から発売されています。
ノーベルファーマといえば、必要なのに顧みられない医薬品、いわゆる「アンメットニーズ」に答える会社ですね。
神経発達症と睡眠障害
適応症は、小児期の神経発達症に伴う入眠困難の改善です
神経発達症は、注意欠如・多動症や自閉スペクトラム症を含み、小児における発達期早期、とりわけ小中学校入学前に発症又は診断され、個人的、社会的、学業又は職業における機能障害を引き起こす発達の障害を特徴とする疾患である
メラトベル 審査報告書P2
注意欠如・多動症治療薬としてはコンサータ、ストラテラ、インチュニブ、自閉症スペクトラム症に伴う易刺激性治療薬としてはエビリファイ、リスパダールがありますね。
神経発達症の合併症として睡眠障害がよく認められます。その原因は
①感覚過敏や過集中といった疾患の特性
②睡眠と覚醒を調節する体内時計のメカニズムの問題
③心理的問題
など、さまざまあるようです。
メラトベルの特徴
メラトベルは、メラトニンを有効成分としています。
メラトニンといえば、松果体から分泌される生体内ホルモンです。
睡眠・覚醒を含む概日リズムの維持・調整及び直接的な催眠作用に関与すると考えられています。
神経発達症では夜間のメラトニン分泌が低下していて、それが睡眠障害を起こしているのでは?と考えられています。
メラトベル自体は海外では販売していないそうですが、欧州では小児を対象としたメラトニン含有製剤「Slenyto」や、55歳以上の原発性不眠症のある成人に対して「Circadian」が承認されているようです。
有効性(NPC-15-5試験)
対象:自閉スペクトラム症と診断された6~15歳の小児睡眠障害患者
デザイン:プラセボ対照無作為化二重盲検並行群間比較試験
主要評価項目:無作為化期終了時の最終7日間の養育者が記録した電子睡眠日誌による入眠潜時のベースラインからの変化量
プラセボ群と比較して本剤1mg群及び4mg群で統計学的な有意差が認められています。
変化量としてはおよそ30分の短縮効果です。
注意欠如・多動症等の神経発達症に伴う小児睡眠障害患者を対象としたNPC-15-6 試験においても同様の結果が認められています。
ちなみに、この試験は基本的な生活習慣が守られているという前提で行われています。
メラトベルは同効薬のロゼレムと類似骨格であること、有効性の評価が10日~2週間程度で設定されていることから、ロゼレム同様、速効性を期待する薬剤ではなく連日飲み続けることが必要な薬剤であろうと思われます。
また、NPC-15-5試験結果から、総睡眠時間、睡眠効率、中途覚醒回数及び中途覚醒時間について明確な有効性は認められていないことから、睡眠維持困難に対する有効性は示されていないと判断されています。
あくまでも入眠障害に対する薬で、中途覚醒や熟眠障害に使用するものではないということですね。
その他、ロゼレム治療歴やADHD治療薬等の有無、疾患による有効性の差が検討されていますが、特に影響はなかったようです。
肝機能障害患者への投与
試験は行われていませんが、Child-Pugh分類の重症度が悪化するにつれて、内因性メラトニン濃度が増大する傾向が報告されています。内因性メラトニンのサーカディアンリズムが乱れていることから、メラトベルの有効性は期待できないかもしれない、と記載されています。
腎機能障害患者への投与
こちらも試験は行われていませんが、重症度が悪化するにつれて内因性メラトニン濃度が低下する傾向が報告されています。
内因性メラトニンのサーカディアンリズムが乱れていることから、メラトベルの有効性は期待できないかもしれない、と記載されています。
肝機能障害、腎機能障害いずれにおいても、メラトベルの蓄積毒性自体はあまり問題にならないだろうと判断されています。
相互作用
フルボキサミンとの併用
本剤は主にCYP1A2により代謝され、本剤とフルボキサミン併用時のCmax及び AUC は非併用時と比べてそれぞれ約11倍及び約16倍増大した…(中略)、
メラトベル 審査報告書P23-24
本剤と強力な CYP1A2 阻害剤との併用について、併用時に本剤の曝露量は増大するものの、本薬 300 mg/日を反復経口投与したときの公表文献の臨床試験の情報等から併用禁忌としないことは許容可能と考える。
フルボキサミンとの併用で血中濃度が10倍以上に上昇するにも関わらず、禁忌とまでは設定しない旨が記載されています。メラトニン自体に安全性の懸念が生じる可能性が少ない、と判断したためだそうです。
が、最終的には禁忌とすることになった??ようです。
(その経過は審査報告書で確認できませんでした)
CYP1A2阻害薬
シプロキサンやカフェインの併用はメラトベルの血中濃度を上昇させるため併用注意となっています。
他にメキシチールやタンボコールも代表的なCYP1A2阻害薬ですので注意が必要かもしれません。
CYP1A2誘導薬、喫煙
こちらはメラトベルの血中濃度低下により薬効減弱の可能性があるため併用注意です。
喫煙はCYP1A2を誘導し、血清中未変化体濃度が約1/3 に減少させるとの報告があります。
臨床的位置づけ
現在、注意欠如・多動症に伴う睡眠障害には抗ヒスタミン薬、トラゾドン、ミルタザピン、メラトニン及びクロニジンを使用することが報告されていますが(日本小児科学会雑誌 2015; 119: 1594-603)、メラトベルが使用可能になることで、小児期の神経発達症に伴う入眠困難の改善に寄与する新たな選択肢の一つとなると記載されています。
安全性
メラトベルの医薬品リスク管理計画書(RMP)です。
特定されたリスクに「治療中止に伴う諸症状の悪化」、「傾眠」
潜在的リスクに、プロラクチン増加、黄体形成ホルモ ン減少による「性成熟/発達遅延(思春期遅発)」が挙げられています。
その他、頭痛の発現頻度が若干高いですが軽度で問題となる程度ではなさそうです。
RMP用資材として、以下がダウンロードできます。
まとめ
神経発達症で睡眠障害に困っているお子さんに新しく使える薬が出てきたのは朗報ですね。
この薬の効果は、基本的な生活習慣を守っていることが前提で評価されているということも忘れないでくださいね!
・小児の神経発達症に合併する入眠障害に対してメラトベルが承認された
・メラトベルの効果はプラセボと比較して入眠を30分程度短縮
・副作用は傾眠、頭痛等あるが、それほど重篤なものはなさそう
・新薬について自分で勉強してみたい、医薬品の評価をしてみたい人にはこちらの本がおすすめです。初心者にも分かりやすいですよ。
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