悪性症候群って聞いたことありますか?
私はかつて一度だけ遭遇したことがあるのですが、ものすごいインパクト大!!の副作用です。
とはいえ、なんだか難しくて分かりにくいというイメージもあると思います。
悪性症候群はとにかく知っていることが大事。
疑わないとなかなか気づけない副作用ですし、時に致命的になるケースもあるので。
今回は薬剤師だけでなく看護師さんも看護のうえで知っておくべきポイントについて解説します。
ぜひこの機会に覚えておきましょう。
【この記事を書いた人】
病院薬剤師です。医療やくすりに関する正しい情報を提供するように心がけています。
悪性症候群とは?
悪性症候群は、精神系の薬(おもに抗精神病薬)によって引き起こされる副作用のことです。
薬ありきの症状というのがポイント。
特徴的な症状は
- ①他に原因がなく37.5℃以上の高熱が出る
- ②ぼやっとする
- ③手足が震える
- ④体がこわばる
- ⑤話しづらい
- ⑥よだれがでる
- ⑦飲み込みにくい
- ⑧汗をかく
- ⑨脈が速くなる
- ⑩呼吸数が増える
- ⑪血圧が上昇する
です。
これをおおまかに4つに分けてみます。
①は発熱。
②は意識障害。
③~⑦の症状は椎体外路症状に該当します。
いわゆるパーキンソン病に見られるような動きです。
抗精神病薬は神経伝達物質であるドパミンの働きをブロックすることで効果を発揮する薬ですが、脳内のドパミンの働きがうまく伝わらなくなることでパーキンソン病のような症状を起こす可能性があるんですね。
そして最後、⑧~⑪の症状は自律神経症状に該当します。
つまり悪性症候群を疑うポイントは、
精神系の薬を飲んでいる人が
発熱
意識障害
椎体外路症状
自律神経症状
に該当する症状を複数有する、という点。
これ以外にもミオクローヌス(筋肉の突発的な不随意運動)や骨格筋が破壊されることによるCPK上昇、尿中ミオグロビン高値を認めることもありますが、代表的な4つの症状をまずおさえておきましょう。
ちなみに悪性症候群の頻度は報告によってバラつきがあるものの、0.07~2.2%と言われており、そうそう簡単には遭遇しない副作用です。
ですので知っていないと気づくのが難しい副作用といえますね。
私も薬剤師になってガチで経験したのは過去1例だけ・・
(蛇足)セロトニン症候群との違いは?
蛇足ですがセロトニン症候群って聞いたことがありますか?
悪性症候群と混同して覚えづらいですが、ポイントは
悪性症候群は椎体外路症状
セロトニン症候群はミオクローヌス、反射亢進
がメインであるという点です。(ミオクローヌスの動きが分からない人はこちらの動画をどうぞ。)
詳しくは重篤副作用疾患別対応マニュアルセロトニン症候群も参照ください。
悪性症候群の原因となる薬剤
悪性症候群ではどんな薬が原因となるのでしょうか?
おもなものは以下のとおりです。
抗精神病薬(ハロペリドール:商品名セレネース®、オランザピン:商品名ジプレキサ®、リスペリドン:商品名リスパダール®など)
抗うつ薬(パロキセチン:商品名:パキシル®、フルボキサミン:商品名デプロメール®など)
気分安定薬(炭酸リチウム:商品名リーマス®)
認知症治療薬(ドネペジル:商品名アリセプト®など)
抗てんかん薬(カルバマゼピン:商品名テグレトール®など)
制吐剤(メトクロプラミド:商品名プリンペラン®など)
が原因となりえます。
パーキンソン病治療薬として処方されているレボドパ、アマンタジンなどを急に減量や中止をした場合にも出ることがあるようです。
私が過去に経験した症例で原因となっていた薬は抗うつ薬として処方されたスルピリド(ドグマチール®)でした。
【関連記事】【危険なドグマチールの副作用】知らぬ間に・・パーキンソン病?
看護師が知っておきたいケアのポイント
看護ケアでおさえておきたいポイントについて解説します。
原因薬剤の中止
まず優先して行うことは原因薬剤の中止です。
看護師が薬を特定するのは難しい場合が多いと思いますが、患者さんの既往や疾患の背景から精神系の薬を飲んでいそうだと思ったときは、薬剤師に確認しましょう。
しかし、ただ中止すれば良いというものでもないのが悪性症候群の難しいところです。
中止して1週間程度で症状が悪化する場合があるからです。
薬をやめてもすぐに体からなくなるわけではなく、1~2週間、薬によってはもっと長く体に残っている薬もあります。
症状の改善が思わしくない場合は専門の医師へのコンサルが必要かもしれません。
治療薬としては筋弛緩薬のダントロレンやドパミン作動薬のブロモクリプチンがあります。
ダントロレンは悪性症候群では腸管麻痺を合併しているケースがあり、筋弛緩作用による麻痺性イレウスを懸念して使用を控える医師もいます。
十分な補液
悪性症候群の患者さんは高熱+食事摂取が難しい場合が多いです。
当然脱水になっていて、電解質も狂っている場合もあるので補正が必要になります。
補液が十分に行われているかどうかを確認しましょう。
発熱は中枢性なので、一般的に解熱剤の内服や坐薬を入れたりしてもあまり効果はないと言われています。
氷枕や氷のうによる全身クーリングを積極的に行いましょう。
口腔ケア、痰や唾液の吸引
悪性症候群の患者さんは椎体外路症状があるので嚥下がうまくできません。
舌の動きが悪く口腔内汚染しやすいのに加え、唾液がたまりやすくなって誤嚥性肺炎を発症しやすい状況です。
痰や唾液を頻回に吸引して誤嚥性肺炎の予防に努める必要があります。
また、このような状態で無理に経口薬を飲ませることは窒息のリスクになります。
点滴など他の投与経路への変更や経鼻胃管からの薬剤注入などが必要ないか検討しましょう。
長期臥床に伴う合併症のケア
無動や固縮が前面に現れますので関節拘縮、褥瘡、肺塞栓に対するケアも重要です。
体位変換、マッサージ、適切なリハビリの導入を検討しましょう。
まとめ
悪性症候群の特徴的な症状、看護のうえでおさえておきたいポイントについてまとめました。
めったに遭遇しない副作用ですが、イメージとして持っておくだけでも気づきのきっかけになるはず。
薬剤師のみならず、看護師も積極的に悪性症候群を疑うことができるようになりましょう。
私も今回改めて悪性症候群について学んだので、精神系の薬剤を使っている人をみたら副作用がないか意識していきたいと思います。
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