このページの要点は以下のとおりです。
・食欲低下の原因はさまざま
・なんとなく食べられない人をみたら薬の影響も考える
・積極的に疑うべきは、食欲低下に関連する薬、嚥下機能低下に関連する薬、口腔乾燥に関連する薬
薬が原因で食べられなくなることってあるんですか?
はい。一部の薬には食欲を下げたり、食べ物をのみこむ機能を弱めたりする作用があって、特にお年寄りの場合には注意が必要なことがあるんですよ。
介護の現場ではご家族や施設の職員の方がお年寄りの食事の介助をすることが多いと思います。
ある日突然食事を食べなくなった高齢者の方がいらっしゃったら、もしかするとその原因はお薬にあるかもしれません。
この記事では食欲不振、嚥下障害と薬の関係について解説します。
【この記事を書いた人】
病院薬剤師です。医療や薬についての正しい知識を提供するように心がけています。
食べられない原因はいろいろ
まず食欲不振の原因についてです。
食欲不振の原因は
・心理的なストレスからくるもの
・何らかの体の異常によって引き起こされるもの
・虫歯や入れ歯の不具合などの歯の異常
などが考えられます。
また高齢者では以下のようなサイクルに陥りやすく、
フレイル(加齢に伴って老い衰えた状態)による食欲低下に特に注意しなくてはいけません。
このように食欲低下の原因にはいろいろあり、治療の一環で薬が使用されることも多いです。
しかし、実は薬そのものが食欲を低下させたり、嚥下機能を低下させている原因になっていることもあるんです。
食欲とくすり
副作用検索で「食欲不振」というキーワードが入っているものをさがすと、なんと5900件以上のヒットがありました。
こんなにあるんですか。。
薬を飲んでるときに食欲がなくなったら、薬のせいにしたくなっちゃいます。
頻度の高低を考慮していないので、これくらいの数になっちゃいます。
本当に薬が影響しているかどうかは、我々は身体所見や血液のデータなど総合的に見て判断しています。
疑わしいときは、高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015に記載されている薬を中心に考えると分かりやすいと思います。
それでは食欲不振や嚥下障害を起こしやすい薬について具体的にみていきます。
食欲低下に関連する薬
ジゴキシン
心不全に対して使用される薬で、量の調節が難しい薬の一つです。
これまで問題なく服用していた場合でも、年齢による腎機能の低下や血液中のカリウムの濃度が低下したとき、併用薬との相性が悪いときに副作用である食欲不振が出ることがあります。(ジゴキシン中毒)
高齢者で0.25mg/日は過量である場合があります。
疑わしい時は血中濃度を測って高値でないことを確認する必要があるかもしれません。
テオフィリン
気管支を広げる薬で、こちらも量の調節が難しい薬の一つです。
嚥下反射(飲み込みに関係する力)を改善させる作用も報告されていますが、薬が効きすぎると副作用である食欲不振が出やすくなります。
睡眠薬(ベンゾジアゼピン系)
ベンゾジアゼピンと呼ばれるタイプの睡眠薬を服用したあと、「翌日まで薬の効果が残った状態(持ち越し効果)」が食欲不振を招くことがあります。
特に、高齢の方は年齢とともに体の水分量が低下するため、相対的に脂肪量が高い傾向があります。ベンゾジアゼピン系睡眠薬は脂肪に蓄積されやすい薬なので、薬の影響が出やすいのです。
またベンゾジアゼピン系睡眠薬には、筋肉をゆるめる働きもあるので、飲み込む筋肉をがうまく機能しないことで誤嚥(ごえん)するリスクも高くなると言われています。
高齢者の睡眠薬としてはベンゾジアゼピン系睡眠薬は安易に使用せず、リスクの少ないと言われている他の薬剤(トラゾドンやベルソムラ)といった薬剤に置き換えている病院も増えてきています。
朝食を食べない、食べるのに時間がかかる、といった場合は前の夜に睡眠薬を服用した影響ということも十分ありえます。
ベンゾジアゼピン系睡眠薬のリスクについてはこちらの記事
プレガバリン
商品名はリリカです。
神経障害性の痛みに対して椎間板ヘルニアなど整形外科領域で処方されることが多い薬です。この薬も腎臓の働きに合わせて量を調節しなくてはいけないのですが、高齢の方では腎機能が低下していることが見過ごされ、過量になっていることがあります。
その場合、眠くなったり、ボーっとするような症状が出ることがあり、食欲不振の原因になっていることがあります。
メマンチン
商品名はメマリーです。
アルツハイマー型認知症に使用される薬です。この薬もプレガバリン同様、腎臓の働きに合わせて量を調節しなくてはいけない薬です。眠くなったり、ボーっとするような症状が出ていると過量であるサインかもしれません。
認知症の方はご自身で訴えることが難しい場合も多いため注意が必要です。
その他
骨粗しょう症治療薬のビスホスホネート製剤や鉄剤も消化管への刺激作用で不快感が出やすいです。
また、インスリン分泌を促進して血糖値を下げるSU剤は低血糖症状が食欲不振を招いていることがあります。
意外と見過ごされがちなのが、利尿剤、カルシウム製剤、ビタミンD製剤などの薬によって、体の電解質バランスが崩れているときです。これらも食欲不振の原因になっていることがあります。
嚥下機能低下に関連
嚥下機能(飲み込む力)が弱くなっているせいで食欲がなくなったり、誤嚥したりする可能性もあります。
ドパミン拮抗薬
抗精神病薬(商品名はセレネース、コントミン、リスパダールなど)、吐き気止め(商品名はナウゼリン、プリンペラン、ノバミンなど)に分類される薬です。
これらは脳内の神経伝達物質であるドパミンの働きを弱めることで作用を発揮しますが、それが逆に嚥下機能を低下させてしまうことがあります。
夜間の不穏・せん妄にセレネースやリスパダールを使ったために副作用で飲み込みがうまく出来なくなり誤嚥しやすくなったり、肺炎を起こしたりする可能性もあるのです。
薬剤師は、以前から処方されていたからという理由でダラダラと続けられているケースを放置しないで、必要性について随時確認していく必要があります。
【関連記事】【危険なドグマチールの副作用】知らぬ間に・・パーキンソン病?
筋弛緩薬
脳血管障害後や、筋肉がつっぱったまま動かなくなる痙性麻痺に対して処方されていることが多い薬です。
商品名はミオナール、テルネリン、ダントリウムなどです。前述したベンゾジアゼピン系睡眠薬にも筋弛緩作用があります。
これらも嚥下に関連する筋肉をゆるめることで飲み込みにくさを生じている可能性があります。
口腔乾燥に関連
唾液を出しにくくすることで口の中を乾燥させる薬の影響で食欲が低下することもあります。口の中の環境悪化はオーラルフレイルを招くおそれがありますので注意が必要です。
抗コリン作用のあるくすり
抗コリン作用のある薬は、副交感神経を遮断し唾液分泌を低下させます。
以下のように多くの薬が該当します。
三環系抗うつ薬(トリプタノール、アナフラニールなど)
鎮痙薬(ブスコパン、チアトン、ロートエキスなど)
排尿障害治療薬(バップフォー、ポラキス、ベシケア、ステーブラ、トビエースなど)
抗アレルギー薬(ポララミン、セレスタミン、ザイザル、アレロックなど)
気管支拡張薬(スピリーバ、シーブリ、エンクラッセ、エクリラなど)
抗コリン作用の大小についてはAntichorinergic Risk Scaleが参考になります。
スコアの大きい薬剤のほうが抗コリン作用が強いと判断します。
抗がん薬
アルキル化薬や代謝拮抗薬は口の粘膜にダメージを与えて、口内炎を作りやすくしたり、口の中の乾燥感を出現させます。
これらはたいてい直接食欲不振を引き起こす作用も併せ持ちますので、抗がん剤治療を受けている場合は薬剤の影響を考えます。
まとめ
いかがだったでしょうか?
今まで大丈夫だった薬でも、体調の変化によって食事がとれない原因になったりすることがあります。
薬剤師の立場としては、患者さんから食べられないサインがあったとき、薬との関連がないか常に想起できるようにしておきたいですね。
・食欲低下の原因はさまざま
・なんとなく食べられない人をみたら薬の影響も考える
・積極的に疑うべきは、食欲低下に関連する薬、嚥下機能低下に関連する薬、口腔乾燥に関連する薬
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