このページの要点は以下のとおりです。
今回は非小細胞肺がん(NSCLC)治療薬のテプミトコについて紹介します。
かわいらしい名前(^^)
一般名はテポチニブ塩酸塩水和物。
名前の由来「Tepotinib」と、受容体型チロシンキナーゼ「MET」の組み合わせでTEPMETKOです。
テポ・メトコではないんですね(笑)
テプミトコの特徴
はじめにMETについて。
METは受容体型チロシンキナーゼです。
METをコードする遺伝子のエクソン14に変異が起こると(これをMETex14スキッピング変異、と言います)、METの変異タンパクが出現し、腫瘍細胞が増殖します。
このMETex14スキッピング変異は、腫瘍細胞の増殖の本体(oncogene driver)であることが示唆されています。
テプミトコは、METのチロシンキナーゼを阻害する低分子化合物です。
2018年3月27日に先駆け審査指定を受け、2020年3月25日に世界ではじめて日本で承認されています。
METのリン酸化を阻害して、下流のシグナル伝達分子のリン酸化を阻害することにより、METex14スキッピング変異を有するNSCLCに対して効果を発揮するというメカニズムです。
MET遺伝子エクソン14スキッピング変異を有するNSCLC患者の割合は約3%と報告されています。
日本にはどれくらいの患者さんがいるのですか?
日本では毎年3,000から4,000人の新規患者が発生すると推測されています。
それでは審査報告書を確認していきましょう。
有効性 国際共同第Ⅱ相試験(VISION試験のコホートA)
対象:METex14スキッピング変異陽性(※1)の切除不能な進行・再発のNSCLC患者
デザイン:非盲検非対照試験
主要評価項目:RECIST ver.1.1に基づく中央判定による奏効率(※2)
(※1)検体はLBx(血漿検体を用いた検査)、TBx(腫瘍組織を用いた検査)いずれも含む
(※2)この試験の閾値奏効率は、白金系抗悪性腫瘍剤を含む化学療法歴を有する進行・再発のNSCLC 患者を対象としたニボルマブとドセタキセルの有効性及び安全性を比較した2つの海外第Ⅲ相試験におけるニボルマブの奏効率を平均すると20%であったこと(J Clin Oncol 2017; 35: 3924-33)等を参考として設定。
結果です。
奏効率(CR+PR)は42.4%(42例/99例)でした。
この結果について機構は、
・真のエンドポイントであるOS(全生存期間)と奏効率との関係は明らかではない
・奏効率の結果に基づいてテプミトコの延命効果に関して評価することは困難
としながらも、
・METex14スキッピ ング変異が発癌に重要な原因遺伝子(oncogene driver)であること
・奏効率の結果が臨床的に意義のある結果であったことから
申請者の説明も理解可能
と判断しています。
希少疾患なので、この手の薬は奏功率だけで判断されるのは致し方なし。。
安全性
RMPを確認します。
・ILDに関しては、全Gradeで3.8%の発現率ですが、発症したほとんどは未回復となっており注意が必要です。
・体液貯留は、METが血管・リンパ組織に発現していることから、薬理作用に伴うものではないかと推察されています。末梢性浮腫の発現率が高い傾向があります。
・ QT/QTc間隔延長はテプミトコとの関連を明確に結論づけることは難しいが、安全性薬理試験でカリウム電流阻害作用を認めたこと、臨床試験で中止に至った症例があったこと、から潜在的リスクに位置付けています。
キナーゼ阻害薬の副作用としては少なめな印象です。
臨床試験の症例数が少ないため、市販後のリスクには十分注意が必要だと思います。
患者さん用の資材はこちら。
相互作用
テプミトコとプラザキサを併用すると、プラザキサのAUCが1.45倍になったいうデータがあります。(審査報告書P27)
プラザキサはP-gp の基質なので、ジゴキシンやフェキソフェナジンも同様に併用注意に挙げられています。
肝機能・腎機能障害時の投与量
軽度又は中等度の肝機能障害は、テプミトコのPK に明確な影響を及ぼさないため、用量調節は不要とされています。
重度の肝機能障害(Child-Pugh分類C)については、投与経験はないこと、胆汁排泄される(P12)という観点から注意喚起する、とあります(P28) 。
副作用等で減量が必要な場合、治験の段階ではもっと細かい投与量設定がされていたようですが、曝露量と有効性・安全性の観点から250㎎製剤1つのみで良いことになりました。
腎機能障害については、腎排泄の寄与が小さいため用量を調節する必要はありません。
臨床的位置づけ
適応は「MET遺伝子エクソン14スキッピング変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌」 です。
前治療歴数にかかわらずMETex14スキッピング変異陽性の切除不能な進行・再発のNSCLC患者に対して本薬の有効性が確保されているため、術後補助療法以外であればどのlineでも使用可能です。
遺伝子診断使用には「ArcherMET コンパニオン診断システム」を使うように指定があります。
まさにオーダーメイド医療。どんどん個別化が進んでいます。
今後の臨床試験の結果が注目されますね。
まとめ
・テプミトコは日本で初承認されたMET選択的チロシンキナーゼ阻害薬
・oncogene driverであるMETex14スキッピング変異を有する非小細胞肺がんに対して良好な奏効率
・ILD、体液貯留関連の副作用がリスクだが、十分なデータが集積されるまでは他の副作用にも注意が必要
新薬の評価を自分でしてみると、薬剤師のスキルアップになりますよ。
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