ラゲブリオって透析患者さんに使えます?他の薬はどうですか?
えーっと…どうだったかな
コロナ治療薬を使う機会が増えてきています。
透析患者さんはコロナ感染による重症化リスクが高いと言われていますので、実際に透析患者さんが入院した際にコロナ治療薬が使えるかどうか質問を受けることもあるかもしれません。
今回は腎機能が悪い場合の各コロナ治療薬の位置づけについてまとめます。
【この記事を書いた人】
病院薬剤師です。医療やくすりに関する正しい情報を提供するように心がけています。
日本で使用可能なコロナ治療薬
日本で新型コロナウイルスに対して使用可能な抗ウイルス薬・抗体製剤は5種類。
- ロナプリーブ®(カシリビマブ・イムデビマブ)
- ベクルリ―®(レムデシビル)
- ゼビュディ®(ソトロビマブ)
- ラゲブリオ®(モルヌピラビル)
- パキロビッド®パック(ニルマトレルビル・リトナビル)
これらの薬剤のうち使用頻度が高いと思われる薬剤について、日本の添付文書と米国FDAのファクトシートから腎機能に関する記載を確認してみます。
ファクトシートとは?
ファクトシートとは製品、物質、サービス、またはその他のトピックに関する重要な情報を含む1ページのドキュメントです。
ファクトシートは、エンドユーザー、消費者、または一般の人々に簡潔で単純な言葉で情報を提供するために頻繁に使用されます。
これらには通常、ファクトシートの目的に応じて、重要な安全ポイント、操作手順、またはトピックに関する基本情報が含まれています。
WIKIPEDIAより引用
ベクルリー®(レムデシビル)
ベクルリ―®の添付文書には以下のような記載があります。
添加剤スルホブチルエーテルβ-シクロデキストリンナトリウムにより腎機能障害があらわれるおそれがある
腎機能障害患者に関する記載は以下のとおりです。
9.2 腎機能障害患者
添加剤スルホブチルエーテルβ-シクロデキストリンナトリウムの尿細管への蓄積により、腎機能障害が悪化するおそれがある。非臨床試験でレムデシビルに腎尿細管への影響が認められている。腎機能障害を有する患者を対象とした臨床試験は実施していない。
9.2.1 重度の腎機能障害(成人、乳児、幼児及び小児はeGFRが30mL/min/1.73m2未満、正期産新生児(7日~28日)では血清クレアチニン1mg/dL以上)の患者投与は推奨しない。治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与を考慮すること。
米国FDAのFACT SHEET をみてみます。
The pharmacokinetics of VEKLURY have not been evaluated in patients with renal impairment. Patients with eGFR greater than or equal to 30 mL/min have received VEKLURY for the treatment of COVID-19 with no dose adjustment of VEKLURY.
ベクルリ―の薬物動態は、腎機能障害のある患者では評価されていない。eGFRが30mL/min以上の患者は用量調整なしでCOVID-19の治療にベクルリ―を投与されている
と記載されています。
ベクルリ―®はeGFR30以上あれば用量調整なしで投与できます
ゼビュディ®(ソトロビマブ)
添付文書に腎障害の場合の記載はありません。
No dosage adjustment is recommended in patients with renal impairment
腎機能障害に基づく投与量の調整は不要、と記載されています。
またスペシャルポピュレーションにおけるRisk Summaryとして以下のように記載があります。
No clinical trials have been conducted to evaluate the effects of renal impairment on the PK of sotrovimab. Sotrovimab is not eliminated intact in the urine, thus renal impairment is not expected to affect the exposure of sotrovimab.
ソトロビマブのPKに対する腎機能障害の影響を評価するための臨床試験は実施されていない。ソトロビマブは尿中にはそのまま排泄されないため、腎機能障害がソトロビマブの曝露に影響を与えるとは予想されない。
Renal impairment is not expected to impact the PK of sotrovimab since mAbs with molecular weight >69 kDa do not undergo renal elimination. Similarly, dialysis is not expected to impact the PK of sotrovimab.
分子量が69kDaを超える抗体製剤は腎排泄を受けないため、腎機能障害がソトロビマブのPKに影響を与えることはないと予想される。
同様に、透析もソトロビマブのPKに影響を与えるとは予想されていない。
ゼビュディ®は透析患者さんでも投与は可能と考えられます
ラゲブリオ®(モルヌピラビル)
ラゲブリオ®の添付文書における腎機能障害に関する記載は以下のとおりです。
モルヌピラビル及びNHCの主要な消失経路は腎排泄ではないため、腎機能障害がこれらの排泄に影響を及ぼす可能性は低い。
母集団薬物動態解析の結果、軽度及び中等度の腎機能障害がNHCの薬物動態に及ぼす意味のある影響はみられなかった(外国人データ)。
重度腎機能障害患者(eGFR 30mL/min/1.73m2未満)又は透析を必要とする患者におけるモルヌピラビル及びNHCの薬物動態の評価は実施していない。
透析患者では使用可能かどうか明確に記載されていません。
FDAのFACT SHEETをみてみます。
No dosage adjustment in patients with any degree of renal impairment is recommended. Renal clearance is not a meaningful route of elimination for NHC. Mild or moderate renal impairment did not have a meaningful impact on the PK of NHC. While the PK of NHC has not been evaluated in patients with eGFR less than 30 mL/min/1.73m2 or on dialysis, severe renal impairment, and end-stage renal disease (ESRD) are not expected to have a significant effect on NHC exposure.
- 腎障害患者でも投与量調節は不要
- 代謝物のNHCは腎で排泄されない
- 軽度から中等度の腎機能障害はNHCのPKに影響しない
- eGFR30未満および透析患者におけるNHCのPKは評価されていない
- 重度の腎機能障害、末期腎不全(ESRD)がNHCの曝露に有意な影響を与えるとは予想されていない
PKは評価されていないもののFDAは透析患者さんでも使用可能であろうというスタンスです
パキロビッド®パック(ニルマトレルビル/リトナビル)
パキロビッド®は通常ニルマトレルビルを300mg(150mgを2錠)とリトナビル100mg(1錠)を5日間服用します
添付文書では腎機能障害患者に関する記載は以下のとおりです。
中等度の腎機能障害患者(eGFR[推算糸球体ろ過量]30mL/min以上60mL/min未満)には、ニルマトレルビルとして1回150mg及びリトナビルとして1回100mgを同時に1日2回、5日間経口投与すること。重度の腎機能障害患者(eGFR 30mL/min未満)への投与は推奨しない
リトナビルはそのままで、ニルマトレルビルを減量します。
9.2 腎機能障害患者
9.2.1 腎機能障害のある患者で、コルヒチンを投与中の患者
投与しないこと。コルヒチンの血中濃度が上昇するおそれがある。
9.2.2 中等度の腎機能障害のある患者(コルヒチンを投与中の患者を除く)
ニルマトレルビルを減量して投与すること。ニルマトレルビルの血中濃度が上昇するおそれがある。
9.2.3 重度の腎機能障害のある患者(コルヒチンを投与中の患者を除く)
投与は推奨しない。ニルマトレルビルの血中濃度が上昇するが、臨床推奨用量は検討されていない。
コルヒチン使用中の場合が別枠で記載されています。
・Dose reduction for moderate renal impairment (eGFR ≥30 to <60 mL/min): 150 mg nirmatrelvir (one 150 mg tablet) with 100 mg ritonavir (one 100 mg tablet), with both tablets taken together twice daily for 5 days.
・PAXLOVID is not recommended in patients with severe renal impairment (eGFR <30 mL/min).
・eGFR30-60の場合はニルマトレルビルを150mg(1錠)とリトナビル100㎎(1錠)を5日間服用
・eGFR30未満は投与推奨しない
日本の添付文書と同じ記載ですね。
根拠としては、リトナビルは肝代謝型薬剤であるのに対し、ニルマトレルビルは腎排泄薬剤のため、腎機能正常者に比べて中等度、重度の腎機能障害患者ではAUCが倍増していくためです。
パキロビッド®は併用薬にもよりますが、eGFR30ml/min以上あれば減量しながら投与可能です。
パキロビッド®は併用薬の相互作用が多いことが問題となっているので、チェックは厳重にしておきましょう。
【関連記事】【コロナ治療薬】パクスロビドは相互作用チェックが大事!
まとめ
コロナ治療薬で主流となる薬剤について透析患者さんでも使用可能かどうかについてまとめました。
今回まとめてみて、海外の薬剤の情報をファクトシートから収集するのは有用な手段だなぁと改めて感じました。
適正使用に努めましょう!
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