間もなくインフルエンザのシーズンがやってきますね。
新型コロナの流行に振り回された2019/2020シーズンは、蓋をあけてみるとインフルエンザウイルスの流行は小さくて済みました。
この記事は
- 実際、昨シーズンのインフルエンザウイルスの流行状況は?
- 致死率は?
- 2020/2021シーズンはどうなるのか?
についてまとめました。
【この記事を書いた人】
病院薬剤師です。そこそこベテラン。インフルエンザに関する正しい医療情報を提供するよう心がけています。
最終的に2020/2021シーズンの結果はどうだったの?→【関連記事】【インフルエンザ】 2020/2021シーズン感染者数は?
インフルエンザのサーベイランスについて
サーベイランスとは感染症の動向について専門家が調査・監視を行うことです。
インフルエンザの診療に役立てるデータを収集することを目的としています。
仕組みとしては
全国約500か所の基幹定点医療機関(※)が週1回、インフルエンザの入院症例の情報を地方自治体に届け出ます。
この情報を国が収集し、再び医療機関へフィードバックするという仕組みです。
※基幹定点医療機関とは、患者を300人以上収容する施設を有する病院であって、内科および外科を標榜する病院を指します。
情報収集している項目は
- 年齢・性別
- 重症度
- 入院時の医療対応(ICU利用、人工呼吸器使用、頭部CT 、脳波、頭部MRI )の有無
などです。
受診者数(過去3シーズンの比較)
過去3シーズンの定点受診者数です。
昨シーズンは立ち上がりは早かったですが、ピークが低く、収束も早かったことが分かります。
入院患者数(過去3シーズンの比較)
過去3シーズンの男女別入院患者数は以下のとおりです。
昨シーズンは入院患者数が例年より7000人も少ない(前年比35%減)ことが分かりますね。
インフルエンザ脳症患者数(過去3シーズンの比較)
過去3シーズンのインフルエンザ脳症の型別報告数は以下のとおりです。
こちらもピークが低く、インフルエンザ脳症と報告された数も少ないことが分かります。
超過死亡数
超過死亡数とは直接的、間接的を問わず、インフルエンザ流行がなければ回避できたであろう死亡者数のことで、インフルエンザの社会的インパクトを評価するために世界保健機関(WHO)が提唱した指標です。
日本ではインフルエンザおよび肺炎による死亡を全国21大都市で集計しています。
シーズンごとの超過死亡数のデータです。
見にくいですが、これをみると94/95、98/99シーズンは超過死亡が突出しています。
これはA香港[H3N2]型とB型の混合流行があったためです。(https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjh1946/57/3/57_3_571/_pdf)
昨シーズンの超過死亡は全国的には2018/2019シーズンと同程度で約3,400人と推定されています。
インフルエンザウイルスによる致死率(2019/2020シーズン)
インフルエンザウイルスの罹患患者数は毎年1000~1500万人程度ですが、2019/2020シーズンは罹患患者数が減り729万人だったと予想されています。(https://www.niid.go.jp/niid/images/epi/flu/levelmap/suikei181207.pdf)
これをもとに計算すると、インフルエンザウイルスによる致死率は0.047%程度だったことになります。
この数値は他の感染症の致死率と比較して決して高い数字ではありません。
しかし、高齢者や持病を持っている方、2歳未満の小児は重症化するリスクが高いですから、毎年予防接種は受けるようにしましょうね。
(詳しくはこちらの記事で解説しています。【インフルエンザワクチン】いつから打つべき?10月は早いのか。)
2020/2021シーズンの予想
WHOによると、2020年11月6日時点での世界のインフルエンザウイルス流行状況は以下のとおりです。(https://www.who.int/influenza/surveillance_monitoring/updates/latest_update_GIP_surveillance/en/)
- 世界的に活動性が低い(各国の検査体制がインフルエンザウイルスよりSARS-CoV2を優先していることなどの影響は慎重に考慮すべき)
- 北半球、南半球いずれも散発レベル
- SARS-CoV2に対する衛生対策がインフルエンザウイルス感染の減少に寄与している可能性が高い
南半球におけるインフルエンザの陽性検体数(サブタイプ別)
北半球におけるインフルエンザの陽性検体数(サブタイプ別)
南半球では2020年4月以降劇的にインフルエンザの流行が減っていて再流行の兆しはありませんし、北半球でもまったく流行の兆しはありません。
WHOはSARS-CoV2に対する徹底的な感染対策とインフルエンザウイルス感染の減少との関連が高いと言っています。
ウイルスの耐性(抗原性や遺伝子系統)についても地球規模で関連性がみられることを考えれば、今のところ新たな流行株の出現という脅威もなさそうです。
2020/2021シーズンはこのまま徹底した飛沫感染防止策を講じることができればインフルエンザウイルスの流行を抑制できるかもしれませんね。
まとめ
以上、昨シーズンのインフルエンザウイルスの流行状況、致死率、2020/2021シーズンの予想についてまとめました。
インフルエンザウイルスは決して致死率の高い感染症ではありませんが、毎年形を変えて流行し、いつの日かパンデミックを起こしうる感染症です。
3密の回避、手洗い・うがい・マスクによる飛沫感染防止策、積極的なワクチン接種の3本柱でこの冬を乗り切りましょう。
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