ロケルマ懸濁用散が発売になりました。
私の病院では採用されたばかりでまだ感触が分かりませんが、使用感はいかがでしょうか?
腎臓内科の先生からはけっこう評判がいいという噂。
今回は改めてロケルマ懸濁用散の意外な効果について記事にしてみました。
ロケルマってCKD(慢性腎不全)患者さんととても相性が良さそうですよ。
【この記事を書いた人】
病院薬剤師です。医薬品情報関連の仕事。
新薬の情報収集をちょこちょこ。
ロケルマ懸濁用散について~おさらい~
ロケルマ懸濁用散(一般名:ジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム)はアストラゼネカさんから発売された新規高カリウム血症治療薬。
ちなみに「LOKELMA」の名称の由来は
「下げる(lower)」と「カリウム血症(kalemia)」から来ているそうですよ~
ざっくりいうとこんな特徴。
従来の高K血症治療薬よりK選択性が高い
(カルシウム、マグネシウムのような2価カチオンよりもカリウム、アンモニウムのような1価カチオンを吸着)
ローディング、維持期、透析患者でのしっかりカリウムを低下させる作用がある
副作用は便秘、浮腫、低K血症(いずれも重篤なものはなさそう)
【関連記事】審査報告書・RMPからみる「ロケルマ懸濁用散」(ジルコニウムシクロケイ酸ナトリウム)
用法・用量、薬価はこちら。
【用法】開始用量として1回10gを水で懸濁して1日3回、2日間経口投与。血清カリウムや患者の状態に応じて、最長3日間まで投与可。
以後は、1回5gを水で懸濁して1日1回投与。最高用量は1日1回15gまで。
血液透析中は、1回5gを水で懸濁して非透析日に1日1回投与。最大透析間隔後の透析前の血清カリウムや患者の状態に応じて適宜増減。最高用量は1日1回15gまで。
【薬価】5g 1包 1095.20円 10g 1包 1601.00円
ロケルマの効果を検証した試験~HARMONIZE-Global study~
ESC Heart Fail. 2020 Feb;7(1): 54–64 PMID: 31944628
ロケルマを代表する最も有名な試験がこちらのHARMONIZE-Global試験(D9480C00002試験)です。
2020年1月15日にpublishされています。
アストラゼネカ社の資金提供を受けている試験であることは念頭におきつつ見ていきます。
対象は外来通院する高カリウム血症患者さん(K5.1以上)。
試験デザインはこんな感じ。
SZCはSodium zirconium cyclosilicateでロケルマのことです。
1日目~3日目のロケルマのローディング期に続き、29日目までの維持期でランダム化されています。
ローディング期の効果がこちら↓↓
48時間以内に6回服用することでK1.28mmol/L減少を達成しています(p<0.001)
続いて維持期↓↓
きれいに用量依存的な効果が得られています。
カリウム正常化を維持できた割合↓↓
こちらも用量依存的です。
5g群で58.6%、10gで77.3%、プラセボで24%がカリウム正常化を維持しました。
結論:ロケルマのローディング期にカリウム正常化達成した外来患者は、維持投与によってその後28日に渡ってカリウム正常化を維持した
HARMONIZE-Global試験から言えること~RAA系阻害薬との併用~
ロケルマは米国やEUですでに承認されていますが、日本ではカリメートやケイキサレートといった薬剤に限られていました。(海外ではパチロマーという薬剤もあるらしい)
これらの薬剤は特異性が低く、カリウムだけを吸着させるわけではなく他の陽イオンも吸着してしまうというという欠点がありました。(アルミニウムやマグネシウム含有の薬剤と併用注意なのはこのためです)
ロケルマはカリウム吸着特異性に優れ、速やかに血清カリウムを低下させることは今回の試験の結果から分かりますね。
そもそも高カリウム血症がどういう人に起こりやすいかというと、高齢、CKD(慢性腎不全)、心不全、糖尿病、RAA系阻害薬服用をしている人です。
HARMONIZE-Glabal試験に参加した患者背景をみると、CKD合併が78.3%、DM64.4%、心不全18.7%
、CKD+DMが44.2%となっています。また76.4%はRAA系阻害薬を服用していました。
心血管や腎保護目的にRAA系阻害薬が投与されているのに、高カリウム血症のために治療継続できない患者さんは一定数います。
今回の試験では、ベースラインでRAA系阻害薬を使っていた人のうち、87%は投与量を増やすことができた、または維持できたと記載されており、ロケルマとRAA系阻害薬併用の忍容性の高さが分かります。
ロケルマはCKD(慢性腎不全)患者にメリットが多い
ロケルマはCKD患者さんにメリットが多いかも?というお話です。
その理由は「重炭酸濃度」がkeyとなっています。
重炭酸濃度とCKD(慢性腎不全)の関係
重炭酸濃度と腎機能の関係については、重炭酸濃度が低いと末期腎不全に至るリスクが高いという報告があります。( Am J Kidney Dis. 2010;56:907-14.)
CKD患者に対して重炭酸濃度を是正すると、腎機能低下が抑制されたという報告(Am J Nephrol. 2012;35:540-7.)もあり、CKDステージが進行した患者さんには重曹(炭酸水素ナトリウム)が良く使用されています。
CKD診療ガイドライン2018では
「CKDステージG4期から血液検査に静脈血ガス分析を加え、21mmol/Lを下回れば重炭酸Na(重曹)1日当たり1.5 g(約18 mmol)から治療を開始することを提案する.」
エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2018 https://minds.jcqhc.or.jp/docs/gl_pdf/G0001093/4/CKD.pdf
とあります。
ロケルマは血清重炭酸濃度を上げるかもしれない
Nephrol Dial Transplant. 2020 Jun 26;gfaa158 PMID: 32588050
ロケルマを投与すると速やかに、かつ投与量依存的に血清の重炭酸濃度を上昇させたという報告があります。
これはポリスチレンナトリウムやパチロマーのような他のカリウム吸着製剤とは異なる特性です。
ローディング期の重炭酸濃度上昇効果を示した結果↓↓
用量依存的、特に5g、10gの重炭酸上昇度が大きいです。
この効果はCKDステージに関わらない、とも記載されています。
次は維持期における重炭酸濃度の維持効果↓↓
10g、15gでは維持効果が高いですね。(15gは最高用量)
このロケルマの重炭酸濃度上昇効果は過度に補正しすぎたりせず、アルカローシスを引き起こすこともなかった、ということも記載されています。
HARMONIZE-Glabal試験を含めた3試験のpost-hoc解析ではありますが、CKD患者さんでネックになる重炭酸濃度低下が、高カリウム血症の治療でほどよく補正できるとは何とも驚きです。
まとめ
以上をまとめると、CKD患者さんでは高カリウム血症がしばしば問題になるが、ロケルマを投与することによって
- カリウムの補正ができるだけではなく
- RAA系阻害剤を併用しつつ
- 重炭酸濃度の補正もできるという
二重三重のお得感のある薬剤かもしれない?という結論になります。
CKD患者さんはただでさえ多剤併用になりがちですので、重曹を飲まなくてよいとなれば患者さん受けも良いかもしれませんね。
薬剤師としてはCKD患者さんへのロケルマ投与がこうした処方意図がある可能性を知っておくべきでしょう。
腎機能のキホンから学びたい人はこちらの書籍がおススメ。
CKDについてより実践的に、症例ベースで学びたい方はこちらの書籍がおススメ。多剤併用になりやすいCKDのポリファーマシーへのアプローチについても触れられています。
コメント